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第六十四話 三人なら

「間に合った……」


 息を切らしながらロランはそう呟いた。


「危ねえ……死ぬかと思ったぜ!」


 ドンキホーテはロランをジトりと睨み、恨み言を言う。


「おいロラン! 巻き込むなら一言、言えってーー」


 しかし、憎まれ口を叩いた後ドンキホーテは気がつく。ロランが肩で息をして、膝をついていることに。


「おいおいおい! 大丈夫かよ!!」


 急いで駆け寄り、差し伸べられたドンキホーテの手に対してロランは勢いよく、払い除けた。


「おま……! 俺は心配してーー」

「僕を心配している場合か!! 奴がこの程度死ぬはずないだろう!!」


 ロランの一言により、ドンキホーテは再び剣を構え直す。

 すると、爆煙が霧散する。自然にとは言い難く急激な速度で散っていく煙は、まるで何者かに払われたようなそんな気さえした。

 そして、爆煙の中から左腕を真左に、水平に掲げたザカルが現れた。

 まるで何かを薙ぎ払ったかのようなその構えは、なぜ爆煙が急に霧散したのかその答えを暗に示していた。


「片手で、風を巻き起こしたか……全く……! とんでもない奴だよ……!」


 ロランが悪態をつき、ドンキホーテはごくりと唾を飲み干す。


「ロラン! ドンキホーテ!」


 レーデンスも遅れて、2人に合流し、無傷のザカルを見ると顔をしかめた。


「無傷!? 馬鹿な、あの規模の魔法だぞ……!!」

「ああ、かなりやばいね。恐らく闘気による防御だ、レーデンス、君はとにかくドンキホーテと共に、前衛を頼む……」


 ロランの指示に2人はコクリと頷く、ザカルはゆっくりとまるで獲物を呑み込む蛇を思わせる歩速で、ドンキホーテ達との距離を詰めていく。


 ーーこっちは三人なんだぞ……!


 余裕崩さないのザカルに対して、ロランは唇を噛み締めた。


「気をつけて! 2人とも、あいつは素の実力もそうだが、あの階段にいた全員をテレポートさせる謎の魔法も使える!」

「わかってるぜ! でもあいつなんでつかわねぇんだ?」

「教えてやろうか?」


 ザカルの声が聞こえた。声のする方に顔を向けると、ザカルは歩みを止め、不敵に笑いながら言う。


「あの魔法は、ただのテレポートではない、テレポートと同時に、地形を変化させたんだよ……こんな風にな!」


 ザカルは右腕をまるで何かを持ち上げるように振り上げる。素早く上げた腕に連動されるように、ロランの足元の白い大地は盛り上がり、長方体となってロランを弾き飛ばした。


「う……あ……」


 勢いよく弾き飛ばされたロランは気を失う。


「ロラン!!」


 ドンキホーテが思わずロランを見つめた瞬間、耳元から声が囁いた。


「よそ見とは……随分と余裕だな?」


 ザカルの声だと理解するのに一瞬、遅れた、ドンキホーテは死を覚悟する。


「ドンキホーテ!!」


 レーデンスが剣をザカルの頭部に向かって振り下ろす。

 するとザカルはまるで、流れる風のように身を引き剣をかわす。


「すまねぇ! レーデンス!」


 ドンキホーテは謝罪しながら剣をザカルに向けた。


「ふむ……やはり地形の操作は時間をかけ詠唱せねば、調節が難しいな……三人いっぺんに宙に吹き飛ばせると思っていたのだが。やはり奇襲ぐらいにしか使えんか」


 その言葉ともに、空中から落下してくるロランの体をレーデンスが受け止めた。


「ぐっ!」

「おお、よく受け止めたな? オークくん、さすが感知のアビリティ持ちだ」


 そういうと、ザカルはいかにもわざとらしく渇いた拍手を、レーデンスに送った。


「レーデンス! ロランは!?」

「大丈夫だ! 気を失っているだけだ!」


「そうかい!」ドンキホーテは安堵の息とともに目の前のザカルに剣の切先を向け、同時に青の光を剣に纏わせる。


「オラァ!!」


 その纏った青い光を振り払うようにドンキホーテは剣を振るう。すると虚空を切り裂く剣の軌跡から三日月の光線が放たれた。

 三日月の光はザカルにとてつもない速度で迫っていく。ザカルは不敵な笑みを浮かべたまま、左手の手のひらをその三日月に向けて突き出す。まるでその光を受け止めるかのように。

 三日月の光はザカルと激突し爆ぜた、ロランの放った魔法ほどではないものの再び爆発による煙がザカルを包み込む。


「クッソ! だめだ! 防がれた!」


 ドンキホーテは舌打ちをしながらそう言う。


「う……」

「気が付いたか! ロラン!」


 その時、腕から呻き声が聞こえたレーデンスは抱えているロランを見た。レーデンスの腕の中のロランは目を覚ますと、開口一番、言った。


「下ろしてくれ……レーデンス……!」


 その言葉にレーデンスは反対だった。


「何を言っている! 怪我はないのか……!?」

「僕なら大丈夫だ!!」


 そう言ってロランは無理矢理、レーデンスの腕から降りる。「しかし」と言い淀むレーデンスに対してロランは続けて言う。


「防御魔法は事前にかけてあった……! 衝撃で気絶してただけさ……! それにまだ奴は……」


 そう言って、煙をロランは見つめる。その瞬間、煙が晴れる。その中からザカルが姿を再び現した。


「無駄だ、闘気の放出系の技は……威力は高いが、君の技じゃ私には効かん、ただイタズラに体力を消耗するだけだぞ?」


 そう忠告しながら、ザカルは再び自身の足に力を込めた。


「くる!」


 それに気づいたのはレーデンスだった。ドンキホーテと共にロランの前に立ち、咄嗟にレーデンス自身の周囲に再び、生物の動きを感知する球場の結界を貼った。

 そしてそのレーデンスの結界が張られると同時に、ザカルの姿は再び消える。

 すると一瞬、レーデンスのその結界の感知の範囲に何かが掠めた。

 それは恐らくザカルなのだろう。もはや目では追いきれない、しかしこれらの情報から、何をザカルは標的にしているのか瞬時にレーデンスは理解した。


「ドンキホーテ!」


 そのレーデンスの叫び声と共に、甲高い金属音が鳴り響く。


「ほう……!」


 思わずザカルは感嘆の声を漏らす。

 ザカルのドンキホーテを狙った一撃は、ドンキホーテの剣によって阻まれていた。

 一瞬の出来事だった故に、視認できた人物は少ないが、ザカルの放った閃光のような拳打をドンキホーテは剣の側面の部分で受け止めていたのである。


「離れやがれ!」


 そのままドンキホーテは蹴りを、ザカルに向けて放つ。ザカルは姿勢を保ちつつも、引きずられるように、地面に跡をつけるように吹き飛ばされる。


「はぁぁ!!」


 そしてそのザカルが硬直した一瞬を、レーデンスは見逃さなかった。

 レーデンスは剣を振り上げ、ザカルの頭上に向けて振り下ろす。

 レーデンスの一撃は再び、剣の平、つまり刃の無い部分に手を添えられそのまま逸らされる。


「くっ!」


 ザカルではなく、地面に叩き込まれた斬撃。その一瞬の隙を見逃すザカルでは無い、ザカルは再び拳を振り上げ、レーデンスに向けて一撃を放とうとする。

 しかし、その隙を埋めるようにーー


「喰らえやぁぁ!!」


 ドンキホーテの剣による平打ちがザカルの胴体に直撃する。

 しかしーー


「だから言ったろう……殺す気がないなら、私の前に立つな、少年!!」


 その一撃は毛ほどもザカルには効いていなかった。ザカルは振り払うように拳を振るう。その一撃をドンキホーテは顔面でモロに喰らってしまい吹き飛ばされた。


「がっ!!」


 しかし、ドンキホーテはすぐに体勢を立て直す、そうしなければすぐに追撃が来ることを悟ったからだ。無理矢理にでも四肢を地面に叩きつけるようにつけ、そのままドンキホーテは獣のようにザカルに向かって加速する。


「うぉぉぉ!!」


 ザカルに急接近していくドンキホーテ。再び剣による薙ぎ払いをザカルに向けて放つ。

 しかしザカルはまるでノックでもするかのように軽い裏拳で止められる。

 それでもドンキホーテは連続攻撃を仕掛ける。薙ぎ払い、袈裟斬り、逆袈裟斬りと、だがだのような斬撃もザカルには届かない。


「クッソ!」

「無駄だ、君の攻撃は私にとっては止まっているように見える、それに言ったろう平打ちなど殺意のないまま私の前に立つなと!!」

「だったら!」


 ドンキホーテは叫び、拳で止められた剣を再び引き戻し薙ぎ払う。


「だから無駄だとーー」

「2人なら!」


 背後からの殺気にザカルは気付き、咄嗟に構える。背後からはレーデンスが再び剣を上段から振り下ろそうとしていた。

 それもほぼドンキホーテと同じタイミングでである。


「チッ……」


 ザカルは舌打ちをする。だがーー


「たかが2人で!!」


 ザカルは叫ぶ。

 その剣はそれでもザカルには届かない。2人の剣はそれぞれ、受け流され、止められる。

 それも一撃や二撃目だけではない、間髪入れずにドンキホーテとレーデンスは、斬撃を防がれた後も攻撃を行うも、その暴風雨のような攻撃の雨をザカルは一つ一つ丁寧に捌いていった。

 そして、最初にレーデンスの剣が指で挟み込まれ止められ、次にドンキホーテの剣が足で押さえつけられた。


「見切ったよ、君たちの剣は」


 そのザカルの一言にレーデンスとドンキホーテは顔を顰める。ザカルの目が、体が殺気を纏った瞬間、咄嗟に2人は直感した。

 避けられない攻撃が来ると。


「くっ!!」


 レーデンスが思わず防御体勢を取る。

 しかし、次の瞬間、吹き飛ばされたのはザカルの体だった。


「じゃあ三人なら、貴方の隙もつけると言うわけだ」

「ロラン!!」


 生意気なセリフのする方向をドンキホーテは見つめそのセリフを吐いた少年の名を口にする。手のひらを突き出した。ロランが数十歩先にいた。


「僕を無力化したつもりか! ザカル!!」


 吹き飛ばされ、うまく受け身が取れなかった。ザカルはそのまま、大の字の体勢のまま忌々しげに言った。


「全く、速度重視の風魔法か……」


 ドンキホーテとレーデンスはそのザカルの様子を見ると一旦体勢を立て直すべくロランの元に集まった。

 今のままではどちらにせよ追撃したところで受け流されるのが関の山だからだ。


「たくよぉ! あいつ強すぎるぜ!」


 自分の気持ちを代弁してくれたドンキホーテに、ロランは同意する。


「ああ……だが隙をつけないわけじゃないね、うまく連携をとっていけば奴にダメージを負わせるのも不可能じゃない……!」


 そのロランの言葉にレーデンスとドンキホーテは頷き。再び2人は剣を構え直す。


「ロラン! 作戦を練る時間はない!」


 レーデンスは起き上がり出した、ザカルを見つめ言う。


「作戦は先ほどと同じ感じでいくぞ! 私達が隙を作り、ロランが本命! それでいいな!」

「もちろんだ!」


 レーデンスの提案にロランは受け入れ、魔力を練り始める。


「ドンキホーテ!」

「わかってる……! こっからは平打ちなんてしねぇよ! それに多分、怪我を負わせてもあいつは、すぐに怪我を治しちまう! 殺す気でやって生きて捕らえるぜ!」


 ドンキホーテはそう言って剣を握りしめ直した。


「2人とも……!」


 そんな覚悟を決めた2人にロランは話しかける。


「さっきのザカルの目に捉えられないほどの移動、あれは恐らく、闘気に目覚めた戦士による特殊な歩法、ブリッツステップだと思う。

 ドンキホーテ! 君はさっきなんとか目が追いついたみたいだけど、それでも至近距離でブリッツステップをやられたら、一瞬で背後を取られるに違いない、気をつけて! できる限りのサポートはするから!」


 ロランの言葉にドンキホーテは背中を向けたまま、拳だけロランに見えるように出し、親指を立てる。所謂サムズアップと呼ばれるハンドサインだ。


「へへっ……死ぬつもりはねえよ、だからまああんまり心配すんなよな! 生きて帰ろうぜロラン、レーデンス!」


 その言葉にレーデンスは頷き、ザカルに注意を向けつつドンキホーテのサムズアップした拳に拳を突き合わせた。ロランは一瞬、目を伏せた後、レーデンスと同じようにドンキホーテの拳に自分の手のひらを添える。


「当たり前だよ、死なないで……君たちにはまだ…………そうだな特に君にはクレームを少々入れたいと思っているからね」


 そのロランの言葉にドンキホーテは笑う。


「へっ……可愛くねぇやつ!」


 そうして三人は再びザカルへと向き直る。ザカルはすでに起き上がっていた。

 その目には殺意が宿り、明らかに憎しみの色も混じっている。

 ドンキホーテ達はわかっていた。恐らくこれが、この戦いは犠牲なして抜けられるような甘い戦いではないと言うことを。

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