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第二十一話 過去

「なんだこいつ!」


 ドンキホーテは剣を構え直す。目の前に現れたのは人型の異形だ。

 透けて見える脳、一つ目、むき出しの歯茎、二メートルはあろうかという巨躯。

 そのおぞましいその姿にドンキホーテは怖気付きはしなかったものの、嫌悪感を覚える。


「プランというものは、イレギュラーなことがあったときのために、リカバリーができる打開策を用意しておくものです」

「そのキメェ、人型の魔物がその打開策ってわけか!」

「魔物じゃありません、悪魔ですよ」

「どっちでもいいわ! そんなこと!」


 ドンキホーテはがなりたてた。


「レーデンス行けるか?」


 じっと悪魔を観察していた、レーデンスは頷く。


「ああ、だが気をつけろドンキホーテ、感知のアビリティが囁いている、こいつは危険だと」

「へっ危険なんて、今更だぁ!」

「油断をするなと言いたいのだ私は」

「わかってるよ、レーデンス!」


 そして、ドンキホーテ集中する、胸の奥にある、未知のエネルギーを全身に巡らせるイメージを頭の中で思い浮かべる。

 すると青い光がドンキホーテの全身に迸った。闘気の身体強化の力だ。


「レーデンス、俺が悪魔を抑える、お前は博士を!」


 ここは分担でいくほかない、この悪魔とやらと戦っているうちに、デイル博士が逃げる可能性もありうるのだから。

 ドンキホーテの提案にレーデンスは頷き、駆ける、目標はデイル博士だ、しかし博士に危害を加えさせまいと化け物はレーデンスの前に立ちふさがる。

 そして走っていくレーデンスに対し細長い腕に生えた自慢の爪で、彼を阻もうとするも、


「テメェの相手は俺だ!」


 と瞬時にドンキホーテが悪魔の横を取り、斬撃を食らわせ吹き飛ばした。思いの外硬い皮膚のせいで切断するに至らなかったもののどうやらダメージは多少入ったらしい。

 ドンキホーテはそのまま、悪魔との戦闘を開始した。

 これでデイル博士とレーデンスは一対一だ、レーデンスは、デイル博士に迫っていく。

 そして殺さずに取り押さえるべく、直剣の刃の無い部分をデイル博士に向け、所謂平打ちを食らわせるために剣を水平に構えた。

 そしてレーデンスは剣を構えから解き放ち薙ぎ払ろうとしたその時だ。


 デイル博士はどこからともなく袋を取り出し、それを投げつけた。


 レーデンスは咄嗟に剣でその袋を弾くも中身が溢れ、内容物が顔にかかってしまう。

 中身は粉だった、レーデンスは目を瞑るもとっさに感知のアビリティを発動させた。これで目を瞑っていてもデイル博士の気配は感じ取れる。


「目潰しなど、私には効かん!」


 そのまま突進し、デイル博士にレーデンスは平打ちを食らわせた。デイル博士は吹き飛ばされ、大木にぶち当たる。


「デイル博士、大人しくしろ!」


 そのままレーデンスは大木にデイル博士を押し付け、そういった。

 しかしデイル博士は何も言わない、そのことに若干の不気味さを覚えたが。レーデンスは話し続ける。


「さあ、早くリヴァイアサンの止め方を教えろ! でなければ痛い目を……!?」


 刹那、デイル博士の体は煙となって消えた。


 感知のアビリティを使っているのにかかわらず、先程いた者が消えた。そのことにレーデンスは動揺を隠せない。

 目をこすり、開けて肉眼によって確認をする。だがデイル博士はいない。目の前に広がるのは大木だけだ。


「どういことだ……」


 レーデンスは言いようのない違和感を抱く、そして、何かを感じ取ったのか振り返る。


 ドンキホーテがいない、あの化け物も。


 足元に穴が開く、レーデンスはなすすべもなくその穴に落ちていった。


「うおおお!」


 わけもわからないまま、レーデンスは闇の中に落ちていく。底知れぬ、漆黒の空間の中ただ一人レーデンスは落ちていく。

 そして、なんの痛みを感じることもなく、まるで水中にいるかのようにふわりと、漆黒の平らな地面に両足をつけた。


「ここは……?」


 その疑問に答えるかのように、まるで空中に浮かぶ窓のような四角い木でできた枠が、レーデンスの目の前に現れる。

 そしてその枠の中に、どこかの街の路地裏の風景が映し出された。レーデンスには見当もつかなかった。

 だがこの景色はおそらくこの空間の秘密に関連しているかもしれない、そう思いレーデンスはこの風景をじっと見つめた。

 すると風景はひとりでに動き始めた、誰かの視点をこの枠の中に映し出しているようだ。

 この視点の主は走っているようで、次々と、建物が後ろに過ぎ去っていく。


「はぁ、はぁ!」


 この息遣いはレーデンスのものではない、枠の景色の中から聞こえた、おそらく視点の主のものだろう。


「おい待てよ、ハーフエルフ!!」


 そんな声も聞こえた、しかし今聞こえている息遣いよりもどこか遠くから発せられているように感じた。このハーフエルフと呼ぶ声の主から逃げているのか。

 ハーフエルフとはエルフと呼ばれる、人間よりも長寿な種族と人間の間に生まれた者のことをそう呼ぶ。

 おそらく、視点の主はハーフエルフなのだろう。そう推察したレーデンスは思い出す。


「昔、ハーフエルフを代表とする、人間と他の種族のハーフを差別する風潮があった聞くが……」


 その風潮があったのはかなり昔のことだ、時期にして百年前近くになる。

 その種族間のハーフの者たちへの差別は、ハーフエルフの英雄、リメリルの登場によってパタリと止んだ筈だ。

 懐かしいな、リメリルはレーデンスにとっても英雄であった。

 リメリルのように自分が英雄になればオークの偏見がなくなると信じレーデンスは王都エポロに来たのだから。

 そしてこの息遣いの荒い、視点の主もそんな差別を受ける者なのか、だとしたら今見せられている風景は百年前の出来事ということだ。

 つまりリメリルが英雄になる前の景色を自分は見せられていることになる。

 レーデンスはその風景を見いる。突如視点は地面を映し出した。視点の主は転んだのだ。


「おい、あいつ転んだぞ!」


 笑い声が近づいてくる。視点の主は、立ち上がろうとするも再び勢いよく、地面に突っ伏した。足でも引っ掛けられたのだろうか。

 するとおそらく、足を引っ掛けた張本人の声が聞こえた。


「よう、デイルの坊ちゃん、もう逃げるの諦めなよ! ギャハハ!」


 そこまで聞いてレーデンスは驚きを隠せない。おそらくこの視点の主の正体は――


「デイル博士……!?」

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