第144話 僕の英雄
一方、爆音の中、産声を上げる者がいた
「姉様、産まれましたよ」
それはマーシーの赤ん坊だった。
マーシーの赤ん坊は無事、取り上げられた。カインによって。赤ん坊は男の子でそれを嬉しそうに報告するカインをみてマーシーもまたぐったりとしながらも、嬉しそうに頷いた。
「なんとかなったの……」
息を切らしながらアレンも喜ぶ、だが、まだ油断はできない。
「アレンさん」
カインもそれをわかっていた、故にアレンを呼び止める。
「外の様子を見てきます」
そのカインの提案にアレンは目を見開いて、叱責する。
「何をいうか! 危険じゃワシが行く!!」
しかし、アレンはいくことができない、その理由をカインは知っていた。
「アレンさん、あなただけが惑星エーテラウスの道の開き方を知っている、だからアレンさんはここで道を開らかなきゃいけないんです」
それに、とカインは続けた。
「もし、ドンキホーテが負けていたら、僕が時間を稼ぎます! 転送魔法の準備ができても僕が戻らなかったら遠慮なく姉様達を連れて行ってください!!」
そう言って、カインはチャルに取り上げたばかりの赤ん坊を持たせた。
「待って、兄様! 本当に──」
チャルの言葉を聞く前にカインは走り出す。
「待て、馬鹿者!」
そうは言うが、アレン自身、出産を補助するための魔法を惜しみなく使ったお陰で、疲労が全身をまわっていた。故にカインの言うことが最善だと頭ではわかっていた。
しかし、それでも頭によぎるのはカインに対する心配だった。
それが情に流された思考だとわかっていたとしてもアレンは思わずエーテラウスへの転送魔法を準備するのを躊躇う。
だが──。
──チャルの手に抱かれる赤ん坊を見た瞬間アレンは、躊躇いと共に、エーテラウスへの転送魔法の発動準備を始めた。
「アレンさん……」
心配そうにチャルがアレンを見つめる。
「チャル覚悟しておくのじゃ」
その一言と共にアレンは自身の魔力を操作し始めた。
─────────────
カインが神殿から出ると、まず目に入ったのは広大な空間に広がる、土煙だった。間違いなく戦闘の後だ。ドンキホーテがここで敵と戦いあったのだ。
そんな中、カインの目に影が映った。土煙の中にその影はありカインは思わず叫ぶ。
「ドンキホーテ?!」
いまだに曖昧な影だが、人の形をしているように見えたカインはそのまま近づいていく。
「ドンキホーテ無事で──!!」
そして近づいた瞬間、あることに気がついた。遠くにいた時は気がつかなかったが。よく見ると背丈がドンキホーテよりも高い。
「──ッ!!」
咄嗟に、カインは魔力を全身にみなぎらせる。いつでも迎撃ができるようにと。
そしてその影は一歩また、一歩と、カインの元に近づいていく。その度にカインの目にはその影が大きくなっていくような錯覚を覚えた。
それは、カインの緊張が生み出したものだった。カインは恐怖で震える全身を必死で制御しようと試みるも目の前の脅威にただ、立ち尽くすしかなかった。
それほどの威圧感が影の主にはあったのだ。
やがて影の主が土煙のなかから姿を現した。全身血まみれの、獣人で、左手が切り取られそこから、血が少量だが垂れ流されていた。
恐らく膨大な脳内物質により血止めがされているのだろう。
カインは恐れから思わず火球の魔法を放とうとした。
その時。
──ズサリ。
と、音を立てて獣人が崩れ去った。
そしてその獣人の背後には彼がいた。
カインは思わず叫ぶ。彼の名を。
「ドンキホーテ!!」
傷だらけのドンキホーテは左手を押さえながら言う。へへっ、と笑いながら、さも余裕そうに、
「勝ったぜ、カイン」
と。
─────────────
ドンキホーテに手を貸しながらカインはアレンの待つ神殿に戻る。
戻ってきたカインとドンキホーテの姿を見たチャルは生まれたばかりの布に包まれた赤ん坊と共に、カインとドンキホーテの元に駆け寄った。
「兄様! ドンキホーテ!!」
「チャル、ありがとう、弟を預かってくれて」
そういうと、カインは赤ん坊をチャルから預かる。
「うま……れたのか」
「君のおかげだドンキホーテ」
「そっか……」
思わず、涙ぐむドンキホーテ。
すると神殿の奥から声が聞こえる。
「ドンキホーテ!! 無事じゃったか!」
魔女アレンだ、近くのテーブルには上体を起こしたマーシーもいる。
「ドンキホーテさん……!」
マーシーもか細い声ながらドンキホーテの名を呼んだ。
ドンキホーテはカインとチャルと共に、マーシーとアレンの元に寄る。
「現状はどうなんだ先生?」
「もうすぐじゃ、もうすぐ転送魔法が発動する今のうちに、別れでも済ませておけ」
そのアレンの提案にドンキホーテは、そうだな、と言い。
カイン達兄妹のほうに向き直る。
「その……」
言葉に詰まる、ドンキホーテ。何を話せばいいのかがわからなかった。そして何よりも未だに自分などが、という卑屈な思いのお陰でなおさらドンキホーテの言葉を詰まらせた。
そんな時。
ドンキホーテの胸に誰かがもたれかかった。
カインだった。
「ありがとう……ドンキホーテ……!!」
そんな言葉もらう資格がない。だと言うのに。
「君は僕の……英雄だ……!」
本当にもったいない言葉だ、ドンキホーテはそう思った。
─────────────
三の月上旬、地上から強大な魔法の光が放たれた。バルナッド山から放たれたその光は巡回中だった第十三騎士団の飛空艇に乗っていた。レーデンス・ゲクラン氏が第一発見者となった。
詳細はわからないが恐らく転移魔法の一種だと思われるそれは、惑星エーテラウス向けたものだと推測される。
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