第143話 メカナイズド・メモリーズ
「ドンキホーテェェ!!」
少年の名を叫びながら復讐に駆られた男、ガーレンは走る。
光苔が照らす青白いまるで朝日のような、光の中で彼が四肢にまとう紅の闘気の布が異質に映った。
ガーレンの速度は、優に音の壁を超え常人では目視できぬほどの高速移動を始めた。
その姿は、常人の目に恐らく目に移るとすればまるで漏洩弾のように光の線を描く、闘気の光の跡だけだろう。
「ッ!」
ドンキホーテもまた冷静に対処した。ガーレンが加速したのを見て、ドンキホーテは足に力を込め、走り出す。
爆発、としか言いようがないほどの土煙が起こる。
それはドンキホーテが走るために地面を蹴った際の衝撃によるものだった。
その強力な脚力によって生み出された、加速力はドンキホーテを瞬く間に閃光へと変えた。
ドンキホーテの頭に輝く、青白い光輪と、右腕を包む蒼水晶、そして青いマントによって青の流星と化したドンキホーテは、さらに加速し。
ガーレンの斧とドンキホーテの剣がぶつかり合った。
──ガァン!!
その衝撃で空気は揺れ、轟音と衝撃波が辺りに響き渡った。
「うおおお!!」
ガーレンは叫ぶ。二対の斧を振り回し、流水のように滑らかな動きで連続攻撃を繰り出す。
右斜め上からの右手の斧に袈裟斬り、そして左手の斧による横一線の薙ぎ払い、そして最後は二対の斧の振り下ろし。
それら全ての攻撃をドンキホーテは片手剣と、盾で受け止めた。
無論まともに受ければ、死は免れない。そのためそれぞれの斧の軌道を綺麗に受け流す。
袈裟斬りは剣の刃のない側面で受け流し。
薙ぎ払いは盾で防ぐと共に、自身よりも高いガーレンとの身長差を利用してくぐり抜け。
最後の振り下ろしは盾と剣で僅かに斧の側面に衝撃を与えることで軌道を逸らし空振りさせたのだ。
その冷静な判断に、ガーレンは舌打ちし、次の判断へと移行した。
「セイジ・ケイン!!」
その呼び名に、答えるようにそれぞれ二対の斧に施された、青と赤の宝石は光り輝く。
突如疾風が、ドンキホーテの頬を掠めた。その疾風は破壊を伴う、まさしく斬撃の風とも呼ぶべきものだった。
全ての攻撃を防がれた、ガーレンは打開の一手としてドンキホーテの至近距離でセイジ・ケインの能力を発動したのだ。
近距離での暴風に地上から舞い上げられるドンキホーテ。それと同時に、斬撃の風がドンキホーテにまとわりつく。
「くっ!!」
身体中が、切り付けられる激しい痛みにドンキホーテは苦痛の声をあげた。
だが痛みだけだ、ドンキホーテの体からは血は出ていない、仲間から受け取った、白い鎧と青いマントが傷ついたが、それだけだった。
「闘気の力で防御しているのか!!」
ガーレンは驚く、実際、ドンキホーテの体はもはやセイジ・ケインの斬撃の風程度で、傷つけられるような柔な強度ではない。
ヴァルファーレを体に完全に宿したことにより、成した結果である。
そしてドンキホーテは剣を振るった。一振りで斬撃の風は相殺され、地面に着地したドンキホーテは地面を蹴る。
向かうはガーレンの元だ。
「来るか!」
ドンキホーテは剣を突き出し、ガーレンの四肢に向かって突きを放つ。それを見越してか、ガーレンは咄嗟に体を半身にさせ避ける。
「急所を外して狙うとは! 余裕だな!」
そう叫びガーレンは斧をドンキホーテに向かって振るう。音よりも速く、そして嵐の如き威力の一撃がドンキホーテの頭蓋に振り下ろされようとした。
その一撃をドンキホーテはテレポートの魔法で躱す。
そして、瞬時に背後に回ったドンキホーテは、瞬間、ガーレンの足に向かって薙ぎ払いを放った。
「ッ!!」
それを気配で察知した、ガーレンは跳躍し、そのまま回転蹴りを背後のドンキホーテに食らわせる。
──ガァン!
ドンキホーテは盾でその蹴りを受けつつ、さらに追い討ちをかけるべく剣を握り直した。
一方ガーレンは蹴りの反動を利用して後ろに跳躍し、ドンキホーテを向かい打つべく斧を構える。
そして、二人の男は同時に走り出し、閃光と化して交わった。
──ガキィン!
一度や二度ではない、何度も、連続で、斧と剣の刃が混ざり合うように交わり合う。
その剣戟はまさに苛烈と呼べた、刃と刃がぶつかり合う旅に小規模な衝撃波が発生し、空気を震わせる。
それが、須臾の時間に、何回も起きるため、絶えず、洞穴の広大な空間は震えつづけ、聖域の洞穴を破壊しかねないほどの強烈な破壊エネルギーを生み出していた。
だがそれほどの戦闘だというのに頑なにドンキホーテの、狙いは急所ではなかった。
一貫して、ガーレンの四肢を狙っていたのだ。
そのことにガーレンは気づき。故に怒りと共に、ドンキホーテの剣を防ぎながら、叫んだ。
「貴様! 手加減しているつもりか!」
ならば、と瞬間的にガーレンの斧が加速する。二刀流を活かした、手数に任せた攻撃。瞬時に二発斬撃を放った。
当然それをドンキホーテは受け止める。
しかし。
──バキ……ッ!
そんな嫌な音共に、ドンキホーテの剣の刃が鍔の根元部分から折れる。
「終わりだ」
ドンキホーテの防御する力は、当然落ちる。それを好機と思ったガーレンは二刀流の斧を振り翳し、そしてそのまま振り下ろした。
テレポートは間に合わない、刹那、ドンキホーテは迫り来る刃を見ながら考える。
──俺は、英雄になれると思ってた。
ドンキホーテは思い出す、ローザのカインの母の死を。
──でも、そんな夢、ただの幻想だった。気づいちまったんだ、俺は結局誰かを守るためとか、何かを成し遂げるためって理由をつけて誰かを殺せるような人間だった。
だから、恐ろしい、皆を守る英雄などいなかった。全ては幻想だった。
「それでも俺はぁぁ!!!」
──ザシュ。
という音共にドンキホーテの左手に二振りの斧が食い込む。左手と盾を犠牲に二振りの斧の一撃を受け止めながらドンキホーテは一歩引くどころか逆に、一歩進んだ。
そして、斧が左手を切断する前にガーレンの懐にドンキホーテは飛び入った。
まさかの行動に驚くガーレンは対応ができない。そしてドンキホーテは右手を伸ばして、掴み取った。
折れた剣の刃を。
ドンキホーテはそのまま瞬時に加速し、すれ違いざまに、ガーレンの左腕を折れた刃で切り落とした。
「ガぁぁ!!」
ガーレンがうめき声を上げ片膝を突く。ぼとりと落ちるガーレンの左腕を自身の背中越しからみてドンキホーテは呟いた。
「もう終わりだ、ガーレンさん」
それは停戦の提案だった。だがガーレンは再び立ち上がるといった。
「まだだ!! 僕の復讐は終わっていない!!」
そう言って、片手で斧を構えると叫んだ。
「セイジ・ケイン!!」
斬撃の嵐が、右手のセイジケインにまとわりつく。一目でわかるとてつもない破壊力を秘めていると、間違いない最後の一撃にガーレンは賭けたのだ。
それを理解したドンキホーテもまた血の滴る水晶で覆われた右手の掌で、折れた刃を握る。
「ドンキィィホーテェェ!!」
叫びと共にガーレンは大地を蹴る。脚力によって地面が爆発するように弾け土煙が舞った。
嵐はドンキホーテに近づくにつれて強大になり、巨大な、まさしくドラゴンさえも飲み込めるのではないかというほどの大きさに成長していた。
瞬間、ドンキホーテの脳内に、知識が流れ込む、この状況を打開する知識が。
それはドンキホーテの身に宿すヴァルファーレが流し込んだ知識、必殺の一撃の技だった。
──終わりしよう、俺の復讐も──
「──アンタの復讐も!!」
そして、ドンキホーテは右手に握る刃を地面に水平に構えた。
ドンキホーテの光輪が神々しく光と同時に刃にも、光が宿る。やがて二重螺旋の光柱が、刃に現れる。
その二重螺旋の光柱が回転しながら刃と一体となるとドンキホーテは叫んだ。
「ドグマ……! ブレイク!!」
その技の名と共に、ドンキホーテは刃で空を薙ぎ払った。
刃の光は薙ぎ払いと共に放たれると、極めて強大な光を生み出し、やがてそれは光の波となってガーレンを包み込んだ。
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