第141話 勝つために
──ゴシャア!
「がは! ちくしょう!」
ドンキホーテは地面に激突する。土煙が舞い、そして全身に走る痛みが、ドンキホーテの戦意を削ぐ。
だが、それでも立たねばならないと。ドンキホーテは己の体から発せられる危険信号を無視して立ち上がった。
幸い、怪我はない。いや致命傷に至る怪我はないと言った方が正しい。
あちこちに擦り傷や、打撲かある。それでも立ち上がれないほどの傷は負っていないのが幸いだった。
「ほぉ、立ち上がれるのか随分と頑強だな」
そしてその怪我を作った張本人である獣人ガーレンは笑った。
「まぁ、いい次で殺す」
まずい、ドンキホーテの脳内に死の一文字が浮かんだ、だがだからといって退くわけにもいかなかった。
頭をフル回転させ、ドンキホーテは走り出す。
「無策か、無謀だな!!」
「うおおおお!!」
叫びながら走るドンキーホーテに向かってガーレンは再びセイジ・ケインと呼び、斬撃の竜巻を呼び起こした。
斧から放たれた斬撃の竜巻は、不規則な挙動をしながら、ドンキホーテを切り刻まんと迫る。
刹那、ドンキホーテの姿が消えた。青白い光と共に。
竜巻はドンキホーテのいないあさっての方向に、通り過ぎやがて威力を失い消えていく。
「消えた……?」
ガーレンは驚くと共に周りを見渡した。
唐突に消えたドンキホーテの姿を探すために五感を研ぎ澄ませる。
すると、背後から言いようのない、違和感を感じたガーレンは後方に向かって、斬撃の竜巻を放った。
破壊を伴う、その竜巻はドンキホーテを襲うも再びドンキホーテの姿は青白い光と共に消える。
「テレポートの魔法か」
再び空振りに終わるガーレンの攻撃、それでも本人は、冷静に分析していた。
「素晴らしいな、ダンジョン脱出用の短距離テレポートをこんな使い方をする奴がいるとは」
ドンキホーテは連続で空間から空間へと飛んでいく。ガーレンに動きを読まれないようにするためにはこうするしかない。
テレポートに使用しているルーン石は三つ、一つの石で連続のテレポートを使用することができないため、この三つの石を順番ずつ使う。
そのため実質、連続でできるテレポートの回数は三回のみ、三連続で使った後は再充填の時間が必要となる。
つまりそれが最も大きな隙となる。
だが、ドンキホーテはこれを打開する策を持っていた。
──ルーン石の充填中に、ブリッツ・ステップを挟み込んめば!
ドンキホーテのその策は見事功を成した。ルーン石充填期間中に、ドンキホーテは加速して、ガーレンを翻弄する。
そして、ルーンの魔力の元、マナが充填されると再びテレポートを使用し、ガーレンの斬撃から逃れた。
──ザン!
そしてついに、たったの一撃だが、ガーレンの攻撃の間をくぐり抜け、ドンキホーテはガーレンの肩の皮膚に傷をつけた。
「ほぉ」
少しばかりの関心が入り混じった、声をガーレンは上げる。
「なるほど、それなりにやるようだな」
──いける!!
ドンキホーテは確信した、相手はまだ対応できていない。再びテレポートで飛ぶ。
やれる。
勝てる。
そんな思いがドンキホーテの胸を満たしかけた時だった。
──ズォ!!
ドンキホーテの胸から血飛沫が飛んだ。
「な、ぁ……!」
テレポートをした直後だった、それなのにどうして、なぜ、理解が追いつかない。
ドンキホーテは切られたのだ。斧によって。
ガーレンの一撃によって。
どさりと、ドンキホーテは転がり地面に落ちる。
「途中までは良かったよ、君の策は」
薄れゆく意識の中ガーレンの声が聞こえた。
「だがテレポートの飛び方も、タイミングも単調すぎる、逆に予測しやすかったよ」
まさかと、ドンキホーテは思った。ガーレンはこの短期間でドンキホーテの癖を見抜きそれに対応してきたのだ。
故にドンキホーテはテレポートした後の位置を推測され一撃を喰らってしまったのだ。
ドンキホーテは倒れ伏し、自身の体から血が流れでる、今になってそれを理解した。
強い、強すぎる。今まで戦ってきた敵よりも純粋に戦闘能力が高い。
自分では勝てない。
ドンキホーテはそう理解した。
「……それでも──!!!」
──ザリ。
ドンキホーテは奮い立つ。
「──俺はアンタに──!」
血が流れる傷口、それを無理やり激痛の伴う下手くそな回復魔法で塞ぎながら、叫んだ。
「──負けられないんだ!!」
剣を構える、ドンキホーテの姿にガーレンは思わず呟く。
「惜しいな」
それはドンキホーテに対する賞賛でもあった。殺すには惜しい大成する戦士の気質、それを摘むことに対してガーレンは心中で惜しんでいたのだ。
だが、
「しょうがないか」
とガーレンは呟く。
「死んでくれ私の復讐のために」
無慈悲な斧が振り落とされる。
──なんだよ、負けそうじゃねえか。
その時ドンキホーテの頭の中に声が響いた。
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