第140話 ガリル・ガランドール
聖域の中、ドンキホーテと獣人ガリルは相対した。
「ガリルさん」
ドンキホーテかまず最初に口を開いた。
「手を引いてもらえねぇのか?」
「無理だ」
ガリルは迷うことなく、そう答える。
「あの神殿みてえな建物……」
ドンキホーテは指差す。
「あそこには産気づいた妊婦と、子供しかいないんだぞ? アンタは何のために──」
「最近、腰が痛くてね」
腰を摩りながら、ガリルは唐突にそんなことを言う。あまりにも脈絡もない、話にドンキホーテは面食らった。
だがガリルはその話を止めるどころか、続けだした。
「昔みたいに、肉も食えなくなったよ、最近は野菜ばっかりでさ、僕もよく思うんだ、もう歳だなって。
そうそう、最近だと息もね、上がり易くなったんだ。昔なら山を幾つも越えられたのに、今じゃ、両手で数えるぐらいの山を昇り降りしたら、息が荒くなる」
「何がいいたいんだよ」
「僕も歳なんだなって思ったのさ」
ガリルは背中に背負った両手用の斧を抜き、右手にもつ。
そしてじっとその斧を見ながら呟いた。
「もう、僕はいつまでこの斧を振れるのかわからない、老いは必ずやってくる」
「……」
「もし、斧を振れなくなった時、誰が、僕の家族の無念を晴らすチャンスは二度と来なくなる」
これが最後のチャンスかもしれないんだ、ガリルはそう続け叫んだ。
「灰色のホウキを根絶やしにするチャンスが!!」
ガリルは地を蹴る。
咄嗟にドンキホーテも剣と、盾を構えた。
一瞬で間合いを詰めたガリルによる斧の振り下ろしを、ドンキホーテは受ける。
──ズン!
一撃を受け止めたはいいものの、ドンキホーテは自身の足が僅かに地面にめり込むほどの衝撃をその身にうけ、思わず苦悶の表情を浮かべる。
斧を受け止めたままでの、鍔迫り合いの中、ガリルはいった。
「君にはわからないだろうドンキホーテ! どれぐらい、この時を待ち続けたか! シーライ神父や、彼に付き従う冒険者たちが突如現れたこと、不自然に思わなかったか!」
──ガキィン!
ドンキホーテはガリルの更なる斧の一撃により吹き飛ばされる。
「ぐ、あ!!」
横転しないようになんとかバランスをとりつつ、両足でなんとか地面に立とうとするドンキホーテは、それでもよろけて、片膝をついてしまう。
間違いなく、このガリルという男は強い。数段ほどの実力の差があるとドンキホーテは感じていた。
「最初から、この機をうかがっていたのさ、我々は……細々と、魔法兵器の流通をさせるものたちを追い、教会から支給されるなけなし資金を持って! シーライ神父と活動していた!!」
そして、とガリルは続ける。
「やっと、王都エポロの事件で、灰色のホウキが注目された、ソール国から資金は与えられやっとの思いで掴んだ灰色のホウキのアジトにも襲撃ができる戦力が整えられた」
ガリルは酔いしれるように語る。
「天啓だと感じたよ、僕の復讐を果たせと、認められる気がしたんだよ僕の思いが」
ガリルは、ドンキホーテを睨みつける。
「だから、そこを退いてくれないか? 君を殺したくはない、息子がチラついたしかたなくてね」
ドンキホーテはふっ、と笑うと両足で、大地を踏みつけ、青いマントをたなびかせると叫んだ。
「断る!!」
その叫びは、彼の強大で、頑固な意志が感じ取れる。ガリルは目を細め、ため息をついた後、か細い声で言った。
「そうか、なら死ぬしかないな」
ガリルは斧を両手に持ち正眼に構えると、祈るように呟いた。
「斧 聖が命じる──」
「斧聖……!?」
ドンキホーテは聞いたことがあった、聖それは、教会に認められた最高の戦士に送られる称号、一つの国にに数人もいない伝説の称号。
そこで思い出した、ドンキホーテはガリルの名前を。
「──解放しろセイジ・ケイン」
その一言でガリルの両手斧は二対の斧に分たれた。
二つの斧は、いかにも武骨な漆黒の色の中に一点鉱石が嵌め込まれており、左手の斧が青、右手の斧が赤の鉱石が嵌め込まれていた。
間違いない、ドンキホーテは確信した。この斧はなんらかの強力な聖斧、か邪斧、つまり剣で言えば特殊な力をもつ聖剣や、邪剣のようなものだ。
そして、なによりも、ドンキホーテはガリルに問うた。
「ガリル、いや、ガーレン・ガランドール」
「へぇ、良く知っているね、僕の故郷での発音を……」
「知ってるさ、伝説の斧聖なんざ……ここ十年噂も聞かなかったから死亡説まで流れてた伝説の戦士! そして──」
ドンキホーテは唾を飲み込んだ。
「カウント0の冒険者!!」
ドンキホーテは叫びながら地を蹴った。
「伝説相手だろうが! 俺には守るもんが──!!」
「──セイジ・ケイン」
ガリルは冷徹に呟いた。
「迸れ」
瞬間、ガリルの目にまとまらない、斬撃が空を切った。切った空の軌跡は赤と青に輝きそして、
「……?!」
そこから斬撃の竜巻がドンキホーテを襲った。
竜巻は大地を抉る、空を裂く。
やがて竜巻はドンキホーテを連れ去り、彼の鎧から出る火花と共に、爆発を起こしながら地面に着弾した。
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