第137話 天使
ダンは耐えられなくなっていた、教会の正義に。
異教徒と言う括りにいれられた人々を本当に殺さなければならないのか、その疑問が頭から離れない。
そしてそのことを考えれば、考えるほど、ダンの頭は間違っているという答えを出す。
いくらか彼が愚かならば、気が付かずにいられただろう。
だが彼は聡明だった。
ダンには政治がわかっていたのである。
聖十字教が、権利拡大のための実績作りや、利益を守るために異教徒弾圧をしていると彼は気がついてしまった。
もはやダンは拳を振るえなかった。他の同胞と同じ盲目になれなかったのである。
かと言ってかつての友がいる盲目的な友達がいる教会に弓を引くこともできず、ダンはただ一人、シーライにだけ事情を告げ教会から去ろうとした。
それをシーライは許せなかった。
「ダン!」
教会を去ろうと、生まれ故郷の街を去ろうとするダンの耳にシーライの声が届く。
「裏切るのか!」
シーライの言葉の意味はダンにもわかった。
「パラディンともあろうものがなぜ、教会の庇護の元から抜けるのか、考えられるのは、第三勢力に情報の提供、とでも思ったのか」
ダンの言葉は、半分当たっていた。
パラディンとは、教会の力であり、剣そのもの、それ故にパラディンしか知らぬ情報というのもある。
だが問題はそこではない。
ダンという、戦力が野放しになることへの懸念が教会にはあった。
ダンの普段の言動から、教会に対する疑念を持っていることは周知の事実であったからだ。
「教会は、お前が我らの障害になりうると判断した!」
シーライはそう叫ぶ。だが、ダンは聞く耳を持たない。
「私は教会に弓引く気はない、別の国でせいぜい他の宗派の聖十字教の神父でもやるさ」
「そんな話では、上は納得しない……! ダン何が気に食わないのだ! 神から全てを与えられたお前が!」
黒き肌の拳を撫でながらダンは呟く。
「私に……全てを与えられていたなら、なぜこんなにも……誰かを傷つけるために生きねばならない! 私は……私は……! 誰かに苦しみを与えるために生きているのではない!」
シーライは目を見開く。
「何を! そこまで恵まれた才がありながら……! いや! もういい、貴様は私が連れて帰る!」
そう言って、シーライは二つの十字架を両の手に握り、二対の光の剣を顕現させる。
ダンはそれを見るとただやるせなそうな、視線を投げかけ、拳を構えた。
勝敗は一瞬でついた。
剣を振るう、シーライよりも速くダンの拳が、シーライの鳩尾に突き刺さる。
「ゴハ! がは!」
崩れ落ちるシーライを背にダンは旅立った。
「どうしてだ! ダン! 何もかも! 私の欲するものを全て手に入れているお前が! なぜだ! なぜ!」
シーライの言葉を無視しながら。
─────────────
「貴様が離反したあの時! 貴様に負けた時! 神はなぜ貴様を愛したのか、理解ができなかった!」
現在、そしてシーライは叫びを上げる。
「だが今、これは試練と私は理解した!」
シーライの体に黄金の輝きがまとわりつく。
「これを乗り越えて本懐を成せとの神のご意志だ!!」
そして輝きは一気にシーライの額に収束し、顔の額の左側に赤き十字が甲高い音共に刻まれた。
その十字はラインを伸ばしていき、額の下、つまり瞼と頬の部分までその模様を刻む。
同時に、シーライの左目の虹彩の中にも同じように十字の模様が刻まれた。
ダンは呟く。
「パラディンとしての力を解放したか」
その、十字の模様は聖なる力をその身に宿したことの証明でもあった。
これをパラディン化と聖十字教は定義している。
信仰によって得た聖なる力を己に取り込み、自身の身体能力や、感覚を数段高める、まさに秘儀である。
「昔のわたしではないぞ! ダン!」
「……ならば……!!」
ダンの体にもまたシーライと同じ黄金の輝きがまとわりつく
それはダンの右腕に収束し、甲高い音共に黄金の十字架の模様を右手に刻んだ。
その十字架の模様は腕にまで侵食していき十字架の下の部分のラインがダンの二の腕にまで伸びて刻まれる。
その十字架の事態が特殊な光で発光しているのか、ダンのローブの上からでもその十字架の模様は視認できる。
そしてダンの右目の虹彩に同じような黄金の十字模様が刻まれた。
ダンもまたパラディンの力を解放したのである。
「衰えてはいないな! ダン!」
シーライは光り輝く二対の光子の剣を構えた。
「シーライ、決着をつけよう」
ダンもまた拳を構える。
「拳 聖の称号を持つ貴様を今日! 私は超えてみせる!」
シーライは地面を蹴った。そのまま突風のように加速した、シーライはダンの元へと辿り着く。
左手の剣による突きを繰り出したシーライ、切っ先は真っ直ぐとダンの元に向かっていった。
しかし、ダンは、一瞬の迷いもなくその剣を右手で掴み、蹴りによるカウンターをシーライに繰り出す。
シーライはその蹴りを右手の剣で受け止める、だが完全に衝撃を受け止めることができず立ったまま地面を滑るように、体を吹き飛ばされる。
「ぐっ!」
パラディンの力を解放しても力の差を感じるシーライは、絶望をその身に感じていた。
だが、その絶望さえも、まだ序の口に過ぎないのだと彼は知った。
「サンダルフォン──」
ダンは口を開きその名を呼んだ。
「──力を貸せ」
呼び声にに答えるかのように、その者は姿を現した。
輝く羽、白い肌、そして、それを山かと見紛えるほどの巨大なその姿。
女天使だった。
白いローブを見にまとう巨人の天使がシーライの目の前に現れた。
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