第131話 二人の男
「反対じゃ!」
アレンの声が応接室に響き渡った。
「止めないでくれアレン先生」
ドンキホーテの口調からは決して揺らぎようのない覚悟が感じられた。
もはや無視していくことはできない。
奴と、デリメロと相対する日がきたのだ。
「先生、そういえばいつ出発するか決めたか? まだ休むだろ? みんなの疲労具合を考えて」
「あ、ああ、今はもう夕暮れじゃから、明日の朝には……」
その言葉を聞いてドンキホーテは安心する。
「なら、その時間まで奴と、対決できる訳だ」
「馬鹿者! リスキーすぎる!」
しかしアレンのその怒号は、ドンキホーテを止めるほどには至らない。ドンキホーテの意思は岩のように固く、動かなかった。
「ダンさん」
「私も、反対だ、もし体をまた乗っ取らられば、また元に戻れる可能性はないかもしれんのだぞ……また後で時間がある時にやればいい」
「そうじゃ何も、今──」
「逆だぜ、ダンさん、アレン先生」
ドンキホーテは言う。
「ここで奴を制御しなきゃ、必ず、俺たちの目的を邪魔しにくる」
「どう言うことだ?」
ダンの疑問に、ドンキホーテはただ、滔々と答える。
「俺の心の同居人はな、俺の嫌がることが好きなんだ、多分、アレン先生を狙ったのも私怨ありきの、俺への嫌がらせだ」
そして、そこでアレンとダンは気がついてしまった。もはや、ドンキホーテが目的地を知っている時点で、東の聖域に行くと知っている時点で、すでに──。
──ドンキホーテ自身が、障害となっているのだ。
「奴は、絶対にカイン達の邪魔をする。それが俺の心を壊すことにつながるからだ」
「だから」とドンキホーテはダンに向き直る。
「頼む! ダンさん! アレン先生! 俺に奴と向き合う時間をくれ!」
ダンは数秒黙った後、意を決し言う。
「わかった……」
「ダン殿……!」
アレンはダンの決定に食い下がる。だがアレン自体も、ドンキホーテの説明を聞きたしかに、もはや、選択の余地はないと感じていた。
ドンキホーテの中に眠る悪魔と、殺人鬼は凶悪だここで、野放しにして、もしシーライ神父と連携を取られたら……。
「だがアレン殿の許可が降りない限り私も、協力はしない」
ダンの一言で、決定権はアレンに委ねられることとなった、それもそうだ最終的にはアレンが衛生エーテラウスへとカイン達を導くのだ。
決める義務がアレンにはある。
「……わかった……。じゃが必ず戻ってこいドンキホーテ」
苦渋の決断により捻り出した、そのアレンの言葉にただドンキホーテは感謝の言葉を伝えることしか出来なかった。
─────────────
「準備はできたな」
ダンの声が教会に響く。
ドンキホーテは教会の中、祭壇前にて、椅子の上に座る。目の前にはパラディンのダンが、ドンキホーテを見下ろしている。
「おさらいしておくぞ、本来、この術は悪魔払いようだ、だが今の君の複雑化した魂の状況では、無理に悪魔は払えない」
あくまで、安全のために別人格を引き出すだけだ、そうダンは言った。
「わかってるぜ、頼む」
ドンキホーテにもはや迷いはなかった。ただ一つ懸念があるとすれば──。
「なぁ、もし俺が暴れ出したら、遠慮なく殺してくれ」
「不吉なことを言うでない!」
ドンキホーテの言葉に、アレンは冗談じゃない、とそう言い返す。
その様子を笑うドンキホーテは、ただ一言アレンに言った。
「行ってくるぜ、先生」
「戻ってくるのじゃぞ」
「もちろん、朝食までには帰ってくるぜ」
フッ、とアレンが笑う。
「ダンさん」
「ああ、では行くぞ、安心しろ、時が来たらひっぱり戻す」
ダンの手がドンキホーテの額に触れる。熱が伝わる、それはおそらく、ただの熱ではない。深い信仰、純粋なる祈りによって、生み出される聖職者が持つ聖なるエネルギー。
それを変換した、奇跡の再現『サクラメント』の熱なのだとドンキホーテは実感する。
溢れる緊張と、恐れがドンキホーテの胸の内を支配しそうになる。
しかし彼は思い出した。
マーシーの曇った顔を、チャルの涙を、カインの優しさを。
──もう、足は引っ張らねえ。
ドンキホーテの意識はそのまま、薄くぼんやりとしたまま、やがて完全に消え失せた。
─────────────
「へぇ」
何もない、草木もない、日が照る、白夜の暗い砂漠。そこで二人は出会った。
「俺に会いにきたのか嬉しいねぇ」
ああ、そろそろいい加減お前に向き合わなくちゃいけないって思ってな。
「はっ! はははは! 嬉しいねぇ!! 俺の話を聞いてくれるのかい?」
ああ、お前の話聞いてやるよ。
「ふん、嘘だね、お前は俺を抑えにきた。俺を否定しに来たんだ」
そうかもな。
「だったら!!」
でも、きっと、お前には──
「テメェをぶち殺す!!」
剣じゃあだめなんだ。
一人の男は剣を抜いた、一人の男は言葉を尽くす。
二人の違いなどもしかしたら無いのかもしれない
だからこそ、二人は二人のやり方で。
今、戦う。
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