第128話 ダン・アストー
「随分、暴れてくれたな、少年」
黒い肌、つまりは黒人のそのパラディンは背が高く、ドンキホーテの身長を優に越していた。
それゆえに威圧感が凄まじく、そのパラディンの黒い布地に黄金の装飾の入ったローブとズボンがまるで死刑執行人の装束にさえ男は錯覚する。
「ほぅ」
パラディンはジッ、と男を見下すと、呟く。
「悪魔つきだけではなく、混じって……いや、もう一人の人格がいるのか」
「ッ!」
突然現れた、パラディンに固まっていた男は咄嗟にバックステップし、距離を取った。
「テメェ! いつのまに!」
吠える男、だがパラディンは質問に答えない。そのまま両腕を胸の高さまで上げ、ファイティングポーズをとる。
「へぇ、やるってのかい!」
──ギャハハ
男は笑い、剣を地面に水平に構える。そして地面を蹴った。
「ちょうどいい!!」
そして、加速する。やがて男の姿は残像を残し見えなくなった。
「パラディンに俺の力が通用するのか、試してみたかったんだぁ!」
そう楽しそうに叫ぶ男に、パラディンはフッ、笑みをこぼした。
「無理さ、君ではな」
迫り来る狂人に恐ることなく、パラディンは構えを崩さない。
風切り音と共に、男の剣の切っ先がパラディンの首を目指して来る。
だが、
──ギィン……!
という、音とと共に、男の剣はパラディンの拳に弾かれた。
男の必殺の突きのはずだった。
愉悦があった、嘲りがあった、余裕があった。しかし、男自身に油断はなかった。
男の剣を鈍らさせる要素などありはしなかった。
事実が受け入れられない。油断も慢心もない、本気の一撃が防がれた事実が。
「な、あぁ!」
男の戸惑いが口から漏れ出す。そして次の瞬間。
「終わりだ」
左胸に一撃、腹に一撃、肩に一撃、腰に、脇に、次々とパラディンの拳が男の体にめり込んだ。
やがて目にも止まらぬ、拳の雨は男を穿ち、吹き飛ばす。
「がはぁ!!」
紅い水晶が砕け散った。男の素顔が完全に晒され、瞳から狂気が消え失せる。
やがて横転し意識を失ったドンキホーテを見るとパラディンはふぅ、と息を吐き言った。
「一件落着か……」
─────────────
光が顔に当たる、それがやけにうざったらしい。微妙に色がついているその光が、瞼越しに伝わるものだからついにドンキホーテは目が覚めてしまった。
「ここは……」
布を退けドンキホーテは起きる。パタリと床に落ちた布は今まで彼を暖めてくれた毛布だったらしく思わずドンキホーテはそれを拾い辺りを見回した。
そばには魔女アレンが眠っていた。ドンキホーテのように同じくタオルをかけられている。
そしてドンキホーテが眠っていた場所は教会の中だった、教会に備え付けられた、礼拝用の連なるベンチの中の一つに彼は寝かされていたようだ。
さらに視線を上にやると、ドンキホーテを覚醒に追いやった、夕焼けの光がステンドグラス越しに燦々と降り注いでいた。
「随分と寝ていたようだ」
声が響く、ドンキホーテは咄嗟にベンチから立ち上がり周りを見渡した。
すると背後。教会の入り口に彼はいた。
黒人のパラディンだ。
ドンキホーテはどうすればいいのかわからないまま立ち尽くす。このパラディンの目的がわからない。シーライ神父と同じ考えならば、ここで──
「待て、君たちを殺すつもりはないよ」
パラディンはそう言う。
「あんたは……」
「ああ、私か、そういえば名乗っていなかったな」
ベンチに腰をかけたパラディンは気だるそうにあくびをしながら言った。
「ふぁぁ…………ダン……ダン・アストーだよろしくな、少年」
─────────────
「紅茶でいいかな?」
ダンはドンキホーテと寝ているアレンを抱えて何故か教会の一室で、いわば応接室に案内した。そこでお茶を振る舞う様子のダンにドンキホーテは思わず。
「あ、は、はい」
と、気の抜けた返事をする。
「はは、なぁに。少年、別に君達に危害を加える輩ではないよ」
「本当ですか」
「その証拠に、君たちの仲間は今教会の二階にいるし、無事だ。それに君にも治癒のサクラメントを施してあるだろう?」
言われてみれば、とドンキホーテは自身の体を再確認する。痛みがないそれどころか、自身が覚えていた今までの疲れすら無かった。
「若いからね、そこそこ無茶なサクラメントを施したが、まぁその様子じゃあ、大丈夫そうだな」
そう言いながらダンはお茶をカップに注ぎテーブルについているドンキホーテに渡す。
魔女アレンは未だに椅子の上で寝ているため、ダンは自分の分の紅茶を手に取ると同じくテーブルについた。
「あの……」
ドンキホーテが話を切り出す。
「すみませんでした、村で騒動を起こして……」
「ああ、全くだ、結構大変だったんだぞ」
ケラケラと笑い茶化すダンに、ドンキホーテは真面目に思い詰め目を伏せる。
「いやぁ、そこまで落ち込まなくていい! 君、アレン殿から聞いたが訳ありなんだろ? 事情は村民に話しておいたから別に大丈夫だ!」
「でも、俺のせいでアレン先生も、怪我仕掛けたし、貴方にも剣を……!」
「待て」
ダンはドンキホーテを制止する。
ドンキホーテは訳もわからず足黙るとダンがいかにも興味深そうな顔で言った。
「もしかして君、本当にあの状態の時に記憶があるのか?」
コクリとドンキホーテは頷く。するとダンは大層、面白そうにハハと笑い言った。
「珍しいな、君、悪魔や他人格に飲まれていないなんて、では魔女アレン殿が言っていたのは本当だったのか」
そう言うとダンは一啜り茶を飲む。
「アツ!」
お茶でやけどでもしたのだろうかそう反応したあとダンは立ち上がる。
「いいかな少年、私は君たちの敵じゃない」
そして、応接室にあった分厚い本を取り出し、そして机の上に置くと、言った。
「逆だ、君たちを私は助けたい」
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