第122話 悪魔
カール、ジール、ラールの三兄弟ほ攻撃を前にドンキーホーテはなすすべもなく、負ける。
はずだった。
たった一瞬、ドンキホーテにとどめを刺すべく、三兄弟が宙を舞った瞬間だった。ドンキホーテは体勢が崩され隙を見せていたはずだったのだ。
唐突にドンキーホーテが光に包まれた。
かと思いきや、一瞬のうちにドンキーホーテは姿を消す。
まるで最初からそこにいなかったかのように。
カール達の三兄弟の攻撃はそれによって空を斬り、ドンキホーテが背にしていた地面を貫くだけに至った。
「奴は!?」
カールは辺りを見回す。同様に、兄弟のジールもラールもドンキホーテを探すべく、互いに背を預けながら見渡した。
「なんだ、どこに行きやがった!」
「兄者!」
ジールの声がカールの耳をつんざく。
「なんだ!!」
「上だ!!」
その言葉の通り上を見上げると、目的の少年はいた。ドンキホーテがいたのだ。
宙に浮き、見下していた。三人の兄弟を。
「な、あ……」
カールは突然の出来事に言葉を失うだが、気を取り直し斧を構えた。
宙に浮こうが関係ない。
「へっ、気持ち悪りぃ奴だ。だが俺たち三人に敵うわけはねぇ!」
そう豪語するカールに対して、ドンキホーテは目線を向けるとニタリと笑った。
「ギャハハハハ!!」
ドンキホーテは、声を上げて笑ったそして。かれの体に異常が起き始める。右腕と顔の右半分が赤い水晶に覆われる。
青いマントをたなびかせながら、赤い水晶の向こう側から覗くドンキホーテの右目はどこまでもカールら三兄弟を見下し笑っていた。
「ジール、ラールくるぞ!」
「兄者、いつも通りだな!」
「そうだ!」
そのカールの言葉の終わりに、ドンキホーテは姿を消す。
刹那の一瞬、カール達の目の前に、笑い声と共に赤水晶をまとったドンキホーテは現れた。
カールは斧を構えたが、最初に狙われたのは彼ではなかった。
横にいたジールが左手で首を掴まれた。
「がは!」
そのままジールは、カールとラールの二人から引き離される。
「最初からこうすればよかった」
半笑いになりながら、ドンキホーテはつぶやく。
「テメェらこうでもしねぇと、フォローしあうもんなぁ!」
水晶の向こう側で、笑う少年にジールは恐怖を覚え、槍を繰り出した。だが。
──ギィン!
だが槍は、右手の剣で防がれる。そして充分に二人の兄弟から引き離された時、ドンキホーテはジールを地面に叩きつける。
「が、ああああ!!」
痛みに耐えきれず転げ回る、ジールに対して、ドンキホーテの無慈悲な声が響く。
「終わりだ」
ドンキホーテは剣を掲げ、そのまま振り下ろす。
「させるかぁ!」
ジールに刃が届く寸前に、一足先に追いついたカールが、ドンキホーテの首に目がけて斧を振り下ろす。だが。
横一筋に光が走る。
その光はカールの斧を破壊した。それがただの剣による一撃の残光だとはカールは気が付かなかった。
ただあるのは目の前にいる、ただの男に、ただの少年に対する恐怖のみだった。
「最初はお前でもいいんだぜ……? 兄者さん」
──ズサリ
一歩カールに向かって近づく、ドンキホーテ。恐怖から一瞬の隙がカールに生まれた。
「兄者!」
ジールの叫びでようやくカールは足が動いたしかし遅い、ドンキホーテの剣は既に振り抜かれていた。
「クカカァ!!」
そのドンキホーテの剣を止めるべく、背後から唯一動けるラールが剣を振りかぶった。
「邪魔すんなよ」
だが、ドンキーホーテは気怠そうに、うざったらしそうに、
──ザン
ラールの首を切り落とした。
「ラール!!」
地面に伏せたジールが叫ぶ。ジールも立ち上がり、槍を構え突撃する。だがそれは、もはや兄弟を殺された怒りから繰り出される、雑な一撃、赤水晶をまとったドンキホーテは、その一撃を一振りで、打ち砕く。
槍は砕け、余波でジール両腕はちぎれ飛んだ。
「ぐがあ!!」
ジールは吹き飛ばされ、地面にうずくまる。切断された両腕から血が絶えず流れている。
「ジール、ラール……! テメェ!」
あれでは死ぬだろうと、ドンキホーテはジールを見つめたが、笑ってその哀れな男を一瞥した後、叫んでいるカールに足を向ける。
「よう、待たせたな」
「テメェ、兄弟を!!」
カールは地面を蹴り、加速した。遅い、まるで舞い落ちる花びらを掴むかの如く、ドンキホーテは接近戦を仕掛けてきた、カールの首を左手で掴んだ。
ラールの、弟の剣をいつのまにか手にしていたカールをドンキホーテは嘲笑する。
「弟の敵討ち……立派だなぁ、涙が出てくるぜ」
万力を込めて自身を締め上げるドンキホーテに対して、カールは絞り出すように言った。
「死ね、悪魔め」
「死なねぇよ、馬鹿が」
ブチリと、カールの首は握り潰された。
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