第120話 最悪のタイミング
──ダダッダダッ
という、馬の駆ける音がガレル山の麓の森に鳴り響く。
その騒音の主たるシーライ神父の一団はとある痕跡を見つけると、神父の号令によって足を止めた。
「遅かったか」
それは馬車の跡だった。突如として道に現れている、不可解な馬車の車輪跡だ。
「神父、これは……」
遠征隊の隊員の一人が聞く。
「ああ、間違いない、魔法で召喚された馬車の痕跡……! それも複数……か」
シーライの言う通り、馬車の跡は枝分かれしており、様々な道へと分岐していた。
もはやこれでシーライ神父は確信していた。
この複数の馬車跡は捜索をまくための囮、これはドンキホーテなどの戦士の芸当ではない。
「間違いない、魔法使いそれもかなり戦い慣れしているものがいる!! それがドンキホーテの協力者だ!」
シーライ神父はそう遠征隊に伝えさらに続けた。
「手当たり次第に探すぞ! 班をそれぞれ編成する!」
自分の指示に迅速に従う隊員達を見ながら、シーライはつぶやいた。
「根絶せねばならんのだ、あのような外道の血は……!」
─────────────
「そんなに後ろを気にしなくても大丈夫じゃ、ドンキホーテ」
「でもよぉ」
走る馬車から顔を出しながら、ドンキホーテは魔女アレンに問う。
「追手がくるんじゃねぇのか?!」
「それなら心配はいらん! 魔法で複数の車輪跡を四方八方に巡らせた、奴らの捜索を撹乱できるはずじゃ!」
馬車の中でそう、自慢げに笑うアレンは
「それよりも」とアレンはドンキホーテに聞いた。
「お主、傷は大丈夫なのか?」
ドンキホーテは、
──ダン!
と胸を叩いた後に言う。
「平気だ!」
「ならばよかった、最悪この馬車を引いている幽霊の馬が消えたらお主に引いてもらうしかないからのぉ」
「……消えることあんのか?」
「……まぁ……」
「……なんだよ、まぁって……」
ドンキホーテは前方を見る、そこには皮も肉もない、ほんのりと発光している骨格だけの馬がドンキホーテ達の、馬車を引いていた。
その馬はアレン曰く幽霊で契約に応じて走っているのだという。
すでに死んだ動物であるため、スタミナという概念がなく、何日も走っても疲れないということらしい。
なるべく消えないことを祈りつつドンキホーテは、馬車の中へ頭を引っ込め、きちんと馬車の座席に座りなおす。
馬車の空気は重苦しかった。黙るカインに曇り顔のマーシー、唯一の救いは寝顔が愛らしいチャルだけだった。
ふとカインがポツリと聞く。
「ドンキホーテ」
なんとドンキホーテに。
「お前も、僕たちのせいで大切な人が死んだのか……?」
僕たちというのは、灰色のホウキのことだろう。ドンキホーテは答える。
「お前のせいじゃないさ」
「でも……僕は……知らなかったじゃ済まされない……!」
「なのに」とカインは続ける。
「それでも、僕はお前にまだ……!」
「それ以上はいい」
ドンキホーテはカインを制止させる。
「気持ちの整理なんてつかなくていいさ、なんて、偉そうなことを言える立場でもないことはわかってる。
でも、俺はそれだけのことをしたんだ、だから──」
ドンキホーテはカインの目をまっすぐ見ていう。
「償わせてほしい、俺は……罪滅ぼしがしたい。許してくれなくても構わない、ただ利用するだけでいい俺のことは、だから、頼む──!」
ドンキホーテは絞り出すように言った。
「──俺に、守らせてくれ……君たちの未来を……!」
座ったまま両膝に掌をつけて頭を下げるドンキホーテにカインは、ただ困惑していた。
「僕は……」
どう答えればいいのかわからない、どうすればいいのかわからない、わからないが積み重なりカインは戸惑う。そしてマーシーの方を見た。
マーシーなら何か答えてくれるはずだと思ったからだ。しかし。
──ぐらり
マーシーがカインにもたれかかる。そして一言ボソリと妊娠した自らの腹部を押さえていった。
「お腹が……痛い」
─────────────
すぐさま、ドンキホーテ達の馬車は進路を変更した。
夜も明けつつある中で、ドンキホーテ達の向かった先は、シラグラ村と呼ばれる、村だった。
「誰か! 手を助けてはくれぬか!」
そのアレンの一言と、多少の金貨をちらつかせ、マーシーのベットと医学の知識を持つ村人の協力を用意することができたドンキホーテ達は、急いで、マーシーを民宿の2階のベットまで運んだ。
マーシーの容体はしかしそこまで悪いものではなかった。前駆陣痛とストレスや疲れ体調を崩した、それがマーシーをみた医学をかじった村人の見解だった。
村人は言った。
「よろしければ、出産までこの村にお立ち寄りになればよろしいのでは?」
そうマーシーの容体はそこまで悪いものではない、安静にしていれば。
しばらく話をしたいと、マーシーが眠る一室から村人を退出させると、ドンキホーテ達は重い空気の中、話せばならなかった。
「聖域に行けるのか?」
最初に口を開いたのはドンキホーテだった。
「聖域って、話じゃ、結構、先なんだろ」
聖域はドンキホーテも後から説明を受けていた。
ガレル山からさらに東にある。聖域、それは衛星エーテラウスに向かって人を飛ばすといういわば転送魔本陣が作られたところらしい。
そのことを自慢げに馬車の中で、説明をしてくれた、チャルも今はマーシーの心配そうにそばにいる。
「ああ、そうじゃ、このことは実際に予見しておった」
「アレンさん、まさか!」
カインは声を荒げる。アレンは冷徹に続けた。
「このまま旅を続ける、出産はワシの魔法で遅らせる、これがワシにできることじゃ」
「冗談じゃない!」
びくりとカインの声にチャルは怖気付く。
「そんなの! 姉様がもし死んだら……!!」
カインの言うことは尤もだった、だがそれでも、カインの脳の片隅には隙間風のように、とある考えが入り込む。
それを見透かすように、アレンは言った。
「ではどうする、追手に殺されるか?」
カインは何も言えなかった。全員が助かるにはそうするしかない、そんなことはわかっていたからだ。だが実質、マーシーを切り捨てると言うような決断をどうしてもカインは受け入れられない。
そんな時だ。
「兄様! 姉様が熱出してる!」
そのチャルの一言で,ドンキホーテ達に緊張感が走った。そしてそれと同時に、馬のかけ音が宿の前に止まる。
次に声が轟いた。
「出て来い! 灰色のホウキども!」
新たな刺客だ。このタイミングで新たな刺客が現れたのだ。
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