第113話 新たなる刺客
ドンキホーテとカイン達兄妹は、馬車を走らせていた。屋根を破壊された馬車は屋根の代わりに、馬車に入っていたキャンプ用のテントを広げて風を凌いでいた。
それでも隙間風を完全に遮ることは難しく、ドンキホーテは妊婦であるマーシーの体調を心配していた。
だがそれでも向かわねばならかった。ガレル山の麓まで。
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「どういうことだ?」
数時間前、馬車の修復中、ドンキホーテはジミニーの言葉に戸惑いを隠せなかった。
「つまり君たちに協力してやると、言いたいのだ」
ジミニーは言う。
「今回の件、明らかに私たち傭兵団の名誉を傷つける行為をシーライ神父はやった。妊婦と子供を傷つけるのは道理に反する。モラルだけの話ではない、神父の所属する、聖十字教の教え的にもアウトのはずだ」
「……告発してくれるのか」
「そうだ」
「なんでそこまで……」
「信用してくれなくていいさ、だが私たち傭兵にもプライドやルールはある。だからこそやるのだ」
そういうとジミニーは歩き出す。
「この先に私が乗ってきた馬車がある、奴らは私たちが裏切ったと思っているだろう。ならば私が撹乱してやる馬車が二つ、私の目的も恐らく相手側に筒抜けだろうからな、それを利用する」
「逃げられるのか、アンタ、相棒の猟犬も俺が……」
ドンキホーテの疑問は尤もなものだった。だがジミニーはニヤリとドンキホーテに笑みを浮かべ言った。
「あれぐらいでは奴は死なんさ、任せておけ、それに逃げ足だけには自信がある」
そういうジミニーの目には自信が宿っていた。
「ありがとうな、ジミニー……さん」
「いいさ、これは名誉と正義にに関わることなのだ」
「名誉と正義……」
「我々は人殺しだゆえに、名誉や正義、モラルにこだわらぬならば化け物と変わらない」
「そう、だな……」
「……? どうした?」
「なぁジミニーさん」
ドンキホーテは切実にジミニーに問うた。
「化け物に堕ちた奴は、どうすればいいんだ?」
ジミニーはしばらく沈黙するそしてやがて、羽付帽子のツバをつかみ目線を隠すとポツリと言った。
「そんなの、決まっている──」
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「──償えばいい……か」
そして現在ガタガタと揺れる道をドンキホーテはジミニーの言葉を思い起こしながら馬車を走らせ移動していた。
もうすぐ、ガラル山の麓だ、ドンキホーテはもうすぐ暗くなる空を見ながら黄昏る。
償う。この行為は償いなのだろうか、ドンキホーテは問う。
未だにカインは目覚めない、強化魔法の副作用のせいだ
マーシーも体力に限界があるようで馬車の中で寝ていた。
末の妹チャルも泣き疲れ、兄妹と共に寝ている。
この三人に対してやっていることは償いなのか、安全地帯とやらに送り届けるのはきっとこの三人の命を救うことになるだろう。
しかしそれは自分の自己満足なのではないのか。
彼らが本当に求めているのは──
「大丈夫?」
ふと誰かに声をかけられた。
ドンキホーテが視線を横にやると、そこにはチャルがいた。可愛らしい金髪のウェーブがかかった髪を揺らしているその姿はとても愛らしい。
ちくりと罪悪感がドンキホーテを襲う。
「どうした、ここだと寒いだろ」
ドンキホーテのいる御者台はいま屋根がない。出発を忙しなくしてしまったせいで、そこまでの修理は出来なかったのだ。
だからこそ、暗にドンキホーテは言う。テントに戻っていて大丈夫だと。
だがチャルは引き下がらない。
「何か手伝えることある? 私、手伝う!」
「な……! はは、大丈夫さ」
「ん! 手伝うの!」
なぜここまで押しが強いのか、ドンキホーテは思い返す。
そうだそういえばこの子はジミニーに襲われる前にキャンプの手伝いをドンキホーテに申し出てていた。
何故かマーシーと同じくチャルはやけに協力的なのだ、ドンキホーテに。
「気を、使わなくていい、俺は大丈夫さ」
それは本心だった、カイン兄妹達は自分を恨む権利がある。そうドンキホーテは思っていた。だからこそ、そんな気遣いなどさせるのは間違いだと彼は思っていた。
だがチャルは引き下がらない。
「貴方! 辛そうなんだもん!」
「え?」
「辛いんでしょ! だったら私が助けてあげる!」
意味がわからなかった、なんで、なぜ、問う前にチャルは言う。
「貴方は母上を殺した」
「……そうさ、だから……」
「でも姉上と、お兄ちゃんを助けてくれた」
「それは……」
「だから意味わかんない! 貴方にありがとうっていえばいいのか、貴方のことを嫌いになればいいのか!!」
嫌い、それは恐らく言い換えれば恨みになるのだろうとドンキホーテは思った。彼女がまだ語彙が成熟していないが故の言葉なのだと。
「だからね、今は貴方のことを助けるって決めた」
「なんでさ」
「母様ならきっと! グス……そうするから!」
涙を滲ませながらそう言うチャルにただドンキホーテはつぶやいた。
「そうか、ありがとうな……」
そして同時に馬車を走らせながらドンキホーテは目頭が熱くなるのを感じた。
そして吐き出すように、ドンキホーテは声を絞り出す。
「ごめ……ごめんな……さい、俺、君たちの、お母さん、殺すつもりなんて無かった。俺は……俺は……!」
馬車は走る、道を添って、泣くドンキホーテを乗せながら。
「くそ……ごめん! 俺が泣くのは違うよな、ごめん、ごめんよ」
ただ泣くドンキホーテを前に何も言わずに、チャルはドンキホーテの手を握った。
「私だって泣きたい」
「そう、だよな」
「でも、今は貴方に譲ってあげる」
「……?」
「泣く時間、譲ってあげる! だから次は私が泣くから!」
「……はは……ありがとう、な」
そんな二人の会話をマーシーは少しだけ微笑みながら聞いていた。
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「ここのはずだ」
ドンキホーテは馬車を止める。ペンダントはこの地を指している。
この目の前に広がる、ガレル山麓の洞窟に。
「みんな起きてくれ」
馬車の簡易テントの中にいるカイン達兄妹にドンキホーテは呼びかける。
「今、行きますドンキホーテさん」
そう言ってマーシーは出てくるその後からチャルもドタドタと騒がしく出てくる。そして最後にカインがだるそうに馬車を降りた。
思わずドンキホーテは歩み寄り言う。
「その、大丈夫か? カイン」
「触れるな!」
カインに手を貸そうとしたドンキホーテは手を払い除けられる。
「すまない……」
「一人で、僕はいける!」
そう言ってカインは重たそうな体を制御しながら歩き、マーシー達の元へと行く。
「わかった、じゃあついてきてくれ光はこっちに──」
そう言ってドンキホーテが洞窟に先導しようとした時だった。声が響く。
「その必要はもうない、テメェらはここで死ぬんだからな」
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