第112話 一命
「テメェ……!」
ドンキホーテはジミニー向かって、驚きにより言葉を詰まらせた。それもそのはずだ、彼は撃ったのだドンキホーテでもなくカインでもなく、素性も知らぬ男を。
「ドンキホーテ、ここは休戦と行こう、何か齟齬があるようだ」
その言葉にドンキホーテは剣を引いた。その様子を見届けたカインは言う。
「ねぇ……様、チャルごめん、もう……」
「カイン?」
「兄様?」
姉と妹の問いかけが集中を切らせたのか、がくりとカインは足をつき、そのままドサリと音を立てて倒れ伏した。
「カイン!」
マーシーが悲痛な声を上げ、妹のチャルは泣き出す。ドンキホーテも思わず駆け寄った。
「クソ、何が起きてるんだ!」
ドンキホーテはカインの様子を観察する。ひどい有様だ。
足は内出血が起こり、見ただけでわかる、とてつもない痛みが走っているのだと。
「ひどい熱……! カインごめんなさい……私が……魔法を使えれば……!」
マーシーはそう言うしか無かった。
「やだぁ! 兄様、死なないでぇ!」
妹のチャルもただ泣くことしかできない。
「どうしてこんなことに……ッ!」
ドンキホーテは急いでポーチの中を探る。今どうにかできるのは自分のみだ、だが効くかどうかわからない外傷用のポーションしか見つからなかった。
「クソ!」
ドンキホーテは地面を叩く。回復魔法を使うしかない、だがドンキホーテの回復魔法は激痛を伴うそれにカインが耐えられるかどうか。
「待て、この子は今どう言う状況だ」
すると、敵であるはずのジミニーが問う。
「ッ! 動くんじゃねぇ──!」
「待て」
食い気味に、ジミニーは言う。
「休戦だと言ったろ、この子状況を教えろ」
するとマーシーが、重々しく口を開く。
「強化魔法を使いました……その反動です」
その言葉を聞くと、ジミニーは懐を探り始める、すると液体の入った瓶を一個取り出した。それをおもむろに蓋を開けると、倒れ、マーシーに抱えられているカインに近づき、
「おい──!」
瓶の中身をカインに飲ませた、ドンキホーテの制止を振り切って。
姉のマーシーはその瓶の中身の内容を見抜いていたようで、ただ、カインの口に瓶の中身が入っていくのを見ると。
一言、
「ありがとうございます」
とジミニーに涙ながらに感謝した。
「兄様! 兄様!」とチャルが泣く、その傍らでカインの体から内出血が引いていく。
ドンキホーテは驚きつつ、ジミニーに問うた。
「カインに何を飲ませたんだ?」
ジミニーはからになった瓶を見せながら言う。
「生命の霊薬、準エリクサー級の回復薬だ」
ドンキホーテは目を丸くした。準エリクサー級の回復薬など高級中の高級である。
「このお嬢さんは、目がいいな一瞬で霊薬だと気づいたようだ、やはり灰色のホウキであることは間違いないな、魔法関連の知識が断然違う」
恐らくマーシーのことを指しているのだろう、その言葉にドンキホーテは、なおさら訝しげな顔をジミニーに向ける
「なんでこんなことを、敵……なんだろ」
「……残念ながら──」
するとジミニーは苦々しそうな顔をしながら言った。
「私が聞いた報告では、妊婦と子供が標的だと聞かされていない」
「それって……!」
「ああ、私は……ちょうどそこで死んでいる男から合図と共に馬車を狙撃しろと言われただけだ」
ジミニーの指を指す先には、事きれたもう一人の刺客の男が倒れ伏していた。
「馬車に、君が盗み出した、灰色のホウキの魔法兵器があるから、とな。その兵器の正体が妊婦と子供とはな、馬鹿にしてくれる」
「じゃあ、あんたも……」
「私はそもそも、灰色のホウキの遠征には金で雇われただけの傭兵だ、薄汚いが、女子供を殺すほど落ちぶれてはいない」
そう語るジミニーの目には確かな怒りが、沸々と沸き立っているのがドンキホーテには感じられた。
この男なら信用できるのでは無いかと、思った矢先だった。
──ダン!
ジミニーが、天に向かって唐突に発砲した。
「アンタ何を!」
ドンキホーテが問う、マーシーたち姉妹も驚いて思わずジミニーの方を見てしまった。
すると天から一羽の鳩が血を流しながらぼとりと落ちてきた。
鳩の胸には奇妙な十字模様が刺青のように入っている。
その十字をみてマーシーが思わずつぶやいた。
「これ……秘跡……!」
ジミニーは「ほう」と感心したように言い、こう続けた。
「その通りだ、お嬢さん、神父めやはり一枚噛んでいたか」
「どういうことだよ」
ドンキホーテの疑問にジミニーは答える。
「これは、秘跡。聖職者が使う魔法のようなものだ、恐らくこれは視覚共有の秘跡、つまりこの鳩の視界を通じて『誰か』は私たちの様子を見ていたというわけだ」
「なぁ、その誰かって……」
「ああ、君の考えている通りだ、ドンキホーテ」
「シーライ神父か……!」
─────────────
「ジミニーが裏切った」
「どうしますか神父」
「どうもしない私たちがやれべきは決まっている」
「ならば──」
「ああ、遠征隊全員に通達しろ──」
「──裏切り者を殺せ、とな」
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