第111話 勝敗
「なぜ殺さない」
ジミニーは問う。すでに刃は首の皮に届いており薄く切れ、血が滲んでいる。
もう少しドンキホーテの剣が加速したままであれば、恐らく首を飛ばされていただろう。
しかし当のドンキホーテ本人はあろうことかそのチャンスを不意にしたのだ。
ジミニーはそれが不可解であった。
「殺したくなかった」
ドンキホーテはそうとだけ答えた。
「なにしてんだぁ! このぼけがぁ!!!」
頭の中でデリメロが騒ぐ。
「テメェ、なんで俺を止める! 殺せばいいんだよ! どうせなぁテメェの手は血で染まったんだぜ! 今更善人ぶんなよ!」
騒ぎ続けるデリメロだが、しかしドンキホーテは耳を貸さない。
集中しろ目の前の出来事に、俺は俺だ、そう言い聞かせたまま目の前のジミニーを見つめる。
「殺したくない、か」
フッと、ジミニーが笑う。
「きみ、状況がわかっているのか?」
そのジミニーの問いかけは最もなことだった、ドンキホーテは今、裏切り者の烙印を押されている。このまま命を取らずに彼を、ジミニーを逃せばどうなるか。わからないわけではなかった。
それでも、ドンキホーテの心に一抹の、しかしヘドロのようにドロリとした思いが心に残る。
その思いの名は罪悪感と呼べるものだった。
人の命を奪ってもいいのか、このジミニーという男にも帰るべき家があるのではないのだろうか。
ドンキホーテはそう思う。灰色のホウキとの戦いの時には気づいていなかったその思い。いや気づかないようにと言った方が正しいのだろう。
そしてようやく、誰かの母親を、家族を殺したという、実感をローザを殺した時にできたのだ。被害者のつもりだった、灰色のホウキに人生を狂わされた哀れな被害者の。
今や自分が加害者側に回ることなど思いもしていなかった。正義の味方だとすら思っていた。
デリメロの言う通りだ今更、善人ぶっている。だがそれでも人の命をとりたくない、そうだ、今だからこそドンキホーテに人を殺す気は無かった。
これ以上の過ちを、繰り返したくはない、もし対話で、奪わなくていい命があるのなら、ドンキホーテはそう思っていた。
それがどれほど甘いことなのかわかっていたとしても。
「アンタにも帰るべき場所があるんなら、もう俺たちに──」
──ペキッ
「ッ!」
その時だ、何かが、枝を踏んだ、その音に気を取られドンキホーテは思わず、音のする方向に目線を逸らしてしまった。
目線の先には怯えた顔の、カイン達兄妹がいた。
「カインどうしてここに!」
──ガチャリ
その時だ、ボルトアクションライフルのコッキング音が鳴ったのは。
──ダン!!
銃声が森に響き渡った。
─────────────
敵を引きつける。そのドンキホーテの言葉を信じて僅か1分。カイン達、兄妹は馬車の中でうずくまっていた。時おり聞こえる爆発音から、ただドンキホーテの言葉を信じるしか無かった。
だが──
──ドゴォォ!!
「ヒッ!」
「怯えるな……! チャル!」
カインは必死に、怯える妹のチャルに言い聞かせる。一体どうなったのか、ドンキホーテは。
死んだのかそれとも生きているのか、それすらわからなかった。
「大丈夫よ、あのお兄さんが守ってくれるわ」
カインの姉マーシーはそうチャルに言い聞かせるが、チャルは言い放つ。
「なんで? お母さんを殺した人なのに?!」
その言葉に誰も反論することができなかった。いかに反論しようとしても、納得のできる答えなど今のチャルに与えることなどできないだろう。
マーシーはただ、黙りこくることしかできなかった。
──ガサリ
その時だった、どこからか草木が揺れる音がし、そして、
馬車の屋根が切り払われたのは。
「ッ!」
急に視界が開けたことにカインは驚く、なぜ、なにが、そう疑問が渦巻くと共に目の前に現れた、馬車の外、屋根を切り離したであろう男の見下した視線で全てを理解した。
「見つけたぜ、こいつらがボーナスかぁ!」
刺客は一人では無かった。
次の瞬間、カインは目眩しの閃光の魔法を唱えていた。
─────────────
──はぁ、ハァ!
息を切らしながらカインは走る、姉と妹を浮遊魔法で浮かし抱えて。
「身体強化!」
魔法を自身にかけたカインは、大地をけり加速する。その脚力は常人のそれとは遥かに凌駕していた。
「姉様、チャル! 揺れるよ!」
「カイン、そんな魔法を使ったら──!」
カインが自身にかけたのは身体強化魔法であった。
本来、常人や魔法使いというものは戦士に比べ非力な存在である。
では、戦士と近距離での戦闘をする場合、魔法使いはなすすべがないのか?
否だ、その対策法が、身体強化魔法なのだ。魔力を通し常人の以上の膂力、瞬発力を引き出す。だがこの魔法にはリスクがあった。
そのリスクがマーシーの心配の通り、カインの足にかかる。足が引きちぎれそうな感覚がカインを襲う。動悸が止まらない。
が、そんなことは気にしてはいられない。
例え、自身の体がバラバラに引きちぎられようと、この腕の中にいる姉と妹の命をもう一人の刺客に渡すわけにはいかぬのだ。
「だから! お前に! 託さなきゃ!」
──ペキッ
そしてドンキホーテの姿が見えた頃にはもはやカインは憔悴しきっていた。
足元の枝を踏んでしまい、その音に気づいたドンキホーテがカインの方へと目を向ける。
「カイン! どうしてここに!」
ドンキホーテは問うがそんなことはどうでもいい、後ろは振り返っていないもう一人の刺客がどこにいるのかもわからない。だから、早く。
──ガチャリ──ダン!!
森に、銃声が響いた。
「が、ぐああ!!」
カインの背後から声がする。
「何を……ジミニー!!!」
カインに相対していた、男が片手だ弾丸を放った。
その弾丸はカインを追っていたはずのもう一人の刺客の男の胸を貫いていた。
「何を、は、こちらの……セリフだ、なぜ妊婦と子供を襲っているのだ」
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