第108話 狩人と猟犬
肩を貫かれたドンキホーテは痛みに耐えながら、叫ぶ。
「カイン! 家族を守れ! 俺は敵の気を引く!」
「あ……言われなくても!!」
カインはそう言って馬車に魔法をかける。詠唱を省略した簡素な魔法だったがないよりはマシだ。
「姉様、チャル!! 馬車の強度を上げました、なるべく頭を下げて!」
「ええ! さぁチャル! 私のところに!」
妹のチャルは泣きながらマーシーの元にうずくまった。それを確認するや否やドンキホーテは、再び叫んだ。
「カイン! その馬車はいつまでもつ!?」
「わからない! 相手の力量によるとしか!」
「だったら死ぬ気で守れ! それしか──」
そう言ってドンキホーテは腰に差した剣を抜き放ち、
「ない!!」
走り出した。魔弾の射手に向かって。
─────────────
「ほう、ここで走るか」
ドンキホーテのその行動に、魔弾の射手、ジミニー・グレイランはいささか驚く、そのような行動を取るとは予想外だったからだ。
まさかこの距離、恐らく500メートルは有るこの距離を優秀な戦士とは言え一瞬で詰めるつもりなのだろうか?
「無理だな」
少なくともジミニーはそう結論づけた。こちらは馬車を打てばいい、それだけだ。目的はそちらなのだから。
そして引き金に指をかけたジミニーは言った。
「任務完了だ」
直後だった。青い三日月の閃光が突如森から、木々の間から放たれる。
それは闘気の、放出された破壊エネルギーの塊、その光がジミニーに向かって飛んできた。
一瞬ジミニーは焦る。しかし。
「当たらんか、この軌道は」
その言葉通り、恐らくドンキホーテが放ったであろう闘気の光線はジミニーの真横、的外れな方向に飛んでいく。
闘気によってできた光線の射程距離は限られている。ジミニーの記憶では、当てる的によるが、人間大の的で最長100メートルだった。
しかもそれはかなりの訓練を積まなければ達成し得ない達人の領域の話だ。
つまりこの三日月の光弾による攻撃は、脅威ではない。
ジミニーは慌てずに再び、指で引き金を──
──ドゴォ!!
──引こうとした瞬間だった。ジミニーが陣取っていた崖が唐突に崩れ落ちる。何が起こったのか理解ができないジミニーは自身の後方に現れていた、青い光を伴う爆発を目視して初めて気づく。
ドンキホーテの目的は初めから、ジミニーではなかった。
この崖を崩すことにあったのだ。
崖ならば的が大きい分狙いは雑破でも当たる。
逃れようとジミニーは移動を始めるが、もはや遅いそのまま崩れ落ちる土砂と共に、ジミニーは崖の下に落ちていった。
「ぐぅ!!」
だがただで死ぬわけにはいかぬと。ジミニーは弾丸を己が後方、つまり崖の絶壁に向かって撃った。
ボルトアクションライフルから放たれたその弾丸は、魔法が込められており、崖の壁面に直撃した瞬間に炸裂し、弾丸から旋風が起こった。
殺傷能力はそこまでなかったその風は代わりにジミニーの体を運び、土砂の中から弾き出した。
そして、
「次弾装填──」
迫り来る地面、ジミニーは大地に向かって銃を構える。ボルトをコッキングし、ライフルの排出口から薬莢が宙を舞う。
「──今」
そしてその言葉と共にジミニーは大地に向かって弾丸を射出する。弾丸は地面に着弾すると同時に、再び旋風を起こした。
ジミニーの体がふわりと浮いた。勢いが殺されたとにより、ジミニーは無事に地面へと着地した。
「やるな」
ジミニーはただ相手に、裏切り者ドンキホーテに賞賛を送る。
高所から落とされた、ターゲットは目視できない。
ジミニーにできることはもはや限られていた。このまま森の中にいれば恐らく、攻撃を受けるのは必須だからといって何もしないわけにもいかない。
そう思い立ちジミニーがボルトアクションライフルに、銃剣をすぐさま取り付けた瞬間だった。
──ギン!
ドンキホーテの剣とジミニーの銃剣が交差し合う。間一髪ジミニーはドンキホーテの一撃を防ぐことに成功した。
もうドンキホーテはジミニーの懐まで近づいていたのだ。
ドンキホーテは叫ぶ。
「舐めるなぁ!!!」
──まずい。
咄嗟にそう思ったジミニーは、銃剣で鍔迫り合いをしたまま流れるような動作でライフルをコッキングし次弾を装填する。
だが力任せに剣を押し出したドンキホーテの怪力により銃剣はへし折られる。
しかしそれが功を成した、銃剣を犠牲にうまく剣の軌道が逸れたおかげでジミニーは再び、ドンキホーテから、たったの半歩だが距離を取ることに成功する。
ようは銃口さえ向けられればいいのだ。ボルトアクションライフルの銃口が火を噴いた。
その弾丸は、真っ直ぐとドンキホーテの胸に向かい、そして弾ける。
閃光と共に爆発は起こった。
小規模だった、しかし人を殺すには十分な爆発だ。
ドンキホーテはその爆発の直撃を受け、ジミニーも同様にその衝撃を受け、吹き飛ばされる。
「ぐ、うう!!」
ジミニーは苦悶の声を上げつつ、受け身をとりドンキホーテの様子を見た。炎属性の魔法を込めた魔法の弾を放ったのだ、無事では済まないはず。
だが爆炎で様子が見えない、リロードはするべきか、一旦引くべきか。
そしてジミニーはふと気づく、羽付の帽子が無いと、爆風で飛ばされたのか、それとも崖から落ちる時にか、全くここまでスマートにいかないのはいつぶりか。ジミニーは呆れた。
一か八かの賭けだった、ドンキホーテの接近をここまで許すとは完全に彼の少年のポテンシャルを見誤っていた。
それゆえに近距離で爆発する魔法弾を撃つなどという。馬鹿げた真似をする羽目になったのだ。
たがこれで──
「はぁ! はぁ!」
──終わった、そう思ったのは未だにかの少年の実力を軽視していたのだと、ジミニー・グレイランは思い知らされる。
爆煙の中、少年は立っていた。息を切らしながら
「貴様……強いな、ガードしたのかあの一瞬、闘気で」
「あんたはここで倒させてもらう!! 終わりだ! 魔弾の射手!!」
そう宣言するドンキホーテに、ジミニーは不敵に笑った。
「そうか、ならばこちらも本気を出さざる得ないか──」
ジミニーはライフルを持ったまま地面に左手をつく。
「見たことはあるか少年──」
するとジミニー付近の空間が唐突に歪んだ。悪意の塊のようなガスが現れ悪臭と共に四足の犬のような、怪物が姿を現した。
「──ティンダロスの猟犬を」
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