第105話 足掻け
「ぎゃあぁぁ!!」
腕を抑えるカインを殺そうとした男は叫び、そしてポケットから恐らく救急処置用の粗末な包帯代わりの布を取り出して、左腕を強くきつく縛った。
「が、はぁ、ハァ!!」
──ダン!
男は地面を砕きながら立ち上がり、叫ぶ。
「何をしやがる!! テメェ!!」
その怒りの矛先は手首を切り落としたドンキホーテに向かう。
切り落とした本人のドンキホーテはただ冷たく男を見ていた。その視線はさらに男を苛立たせる。
「この、布……」
たが急に冷静を取り戻したかと思えば、カインを殺そうとした男は唐突に話し始めた。
「この今、血止めのために使った布……これは形見だ! 俺の母さんの!! 何が言いたいかわかるか! テメェも! 遠征隊の一員だ! わかるよな!!」
男はドンキホーテに向かって叫ぶ。
「俺たちは今やっと! 復讐できるんだぞ!? 母さんはこいつらクソ半魔人どもに殺された! こいつらの売った魔法兵器にだ!!」
男の慟哭にもにた叫びは天を裂くほどの執念と憎しみを感じさせる。
カイン達、兄妹はその覇気に押されてただ固まる。
そして同時にここにいる誰もがは理解した。
この男はこの瞬間のためだけに生きてきたのだ。
「そいつらはガキだが! 魔法の知識を持っているなら! 殺すべきなんだ! 母さんのような人間を増やさないためにも! わかったなら退け!」
その執念も、憎しみも、ドンキホーテは理解できた。なぜならそれはドンキホーテ自身が抱いてきた物だったからだ。でもそれでもドンキホーテはこう言わなければならない。
「無理だ」
──ポツ、ポツ。
月が隠れ、雨が降り始める。ドンキホーテの頬に雫が垂れた。ただ相対する二人の男の間にあるのは雨と張り詰められた空気だけだった。
「そうかい、じゃあ死ね」
男は片手で槍を構え突進する。今度は油断などしていない、男の突進する速度は初速の段階で残像にしか見えないほどの速度まで到達していた。
間違いないブリッツ・ステップと呼ばれる熟練された戦士にしかできない移動法だ。
音の壁を超えたその移動に近くにいたカインは飛ばされる。
そして男の持つ槍の軌道は美しく研ぎ澄まされ、まるで光のように真っ直ぐとドンキホーテの首に向かう。
しかし、ドンキホーテはその凄まじい速度の攻撃を紙一重で躱し、剣を男の槍を持つ右腕に交わす。そしてそのまま──。
──ザン
男の槍を持つ腕を切り落とした。
「な、ぁぁ!!」
男の痛みと驚愕から叫びを上げる。
一瞬体制を崩されるも、しかし、男は空中に放り投げられた槍を口で掴みその槍先をドンキホーテの首元に向かって突き出した。
だが男の決死の一撃を、ドンキホーテは冷静に左手に装備した盾で受け流しそしてそのまま盾と共に男の顔面を殴りつけた。
──ドゴ!
と、言う重たい音の後、男は木の葉のように吹き飛び地面に突っ伏し気を失った。
それを確認するとドンキホーテは近くでうずくまっていたカインを見るや、
「君」
と話しかけた。
「出口、知ってるんだろ? 教えてくれここから脱出する」
何を言っているのかカインはわからなかった。なぜ自分達を助けるのか。さっきこの男は自分達の母親を殺した男なのになぜ急に。
「何で、お前が!」
困惑もあった、疑問も、だが何よりも怒りからカインはドンキホーテに問い詰める。
どう言うつもりだ、と、そして何より自分はお前を信用できないと言う意思表明でもあった。
「説明をしている暇は──」
「お前の助けなどいらない! 僕の兄妹は僕が──!!」
ドンキホーテは苦い顔をして叫ぶ。
「お前の母に……! 頼まれたんだ!」
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「う、ぐぅぅ」
男はどこかの野営テントの中で目を覚ます。
「平気かダニエル」
ダニエルと呼ばれた男は起き上がったそして両手に違和感を感じ自身の両手を見る。
両手はなかった。ダニエルの両手が
「ハハ……負けたか」
ダニエルは、カイン達兄妹を殺そうとした男は自嘲気味に笑った。
「俺はどのくらい眠っていましたか、神父様」
ダニエルを起こしたのは。遠征隊を率いていたパラディン、シーライ神父であった。シーライは言う。
「数時間と言ったところかな、ちょうど殲滅も終わった。だが君が倒れていてね心配になったんだ。」
「神父様」
「なんだね」
「裏切り者が……出ました」
「言いたまえ、ダニエル」
「あの黒い髪で、白鎧と青いマント、青い瞳のガキです、やつが……灰色のホウキの構成員を逃した……!」
ダニエルの言葉にシーライは考え込んだ。
「まて、名簿を当たってみようだれかわかるかもしれん」
「エヴァンソ・ドンキホーテ」
その時だった。一言口を挟む者がいたのは。口を挟んできたのは獣人の男だった、男はさらに続ける。
「裏切り者の名は、エヴァンソ・ドンキホーテです神父」
獣人ガリルはそう告げた。




