チョークのささやき
6月。梅雨の蒸し暑さとともに、教育実習生がやってきた。
実習生の先生は、リクルートスーツのジャケットを、教卓の椅子に掛けた。
ワイシャツからのびた腕は細く、スカートのウエストは薄い。
先生は、チョークと黒板が、柔らかく、優しく接触するように板書する。しっとり、ゆっくりと。
他のどの先生とも違う。甘いささやきのような響きに、思わず下を向いた。先生たちの目をぬすみ、まぶたをとじる。否応なく、耳に意識が集中する。
あまりに場違いな官能が、耳介から頬、首筋へ伝わっていく。指先がふるえてしまうほどの。