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【旧】アミィ  作者: ゴサク
七章 オレは進のお姉ちゃん
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帰れ!!!

 天気は快晴、これなら飛行機も問題なく飛ぶことができるだろう。俺とアミィは、進君の家の前までやって来た。

 いよいよ、進君との別れの日が来た。見送りに来たのは俺とアミィだけ。他の皆には進君が海外に行ってしまうことはあえて話していない。


 キッカさんやメリーさんなんかは寂しがるかもしれないけど、あんまり大人数で見送ると、進君が泣いてしまうと思ったからだ。

 どうせなら、進君には笑顔で旅立ってほしい。皆には俺からちゃんと話しておかないとな。


「やあ、進君、俺達だけで悪いけど、見送りに来たよ。元気にしてたかな?」


「うん、今日は来てくれてありがとう、恭平お兄ちゃん、アミィお姉ちゃん」


 進君の顔は、初めて出会ったときより大人びて見えた。何がここまで進君を変えたのか、結局俺には解らなかったな。


「進くん、次に帰ってきたときは、また一緒に遊びに行こうね。お姉さん、ずっと待ってるから」


「うん、また遊びに行こうね、アミィお姉ちゃん」


 俺達が進君と会話をしていると、進君の家から三人の影が見えた。一人はジュリさん、後の二人は……どうやら進君の両親みたいだ。


「どうも、私、片瀬(かたせ) 典明(のりあき)と申します。こっちが家内の……」


「初めまして、片瀬(かたせ) 桃子(ももこ)と申します。進が色々とお世話になったようで……」


 進君の両親が俺達に自己紹介をする。進君の父親は、年はそこまでいっていなさそうだけど、いかにも厳格そうな見た目をしている。対して、母親の方はとても柔和そうで、親しみやすい見た目だ。


「初めまして、響 恭平と申します。こっちはうちのメイドのアミィです」


「は、初めまして! 私、アミィと申します!」


 俺達もそれぞれ進君の両親に自己紹介をする。よくよく考えたら、出会った日が別れの日になるってのも妙な感じだな。


「あぁ、君がアミィちゃんか。進とジュリから話は聞いているよ、うちの進にとてもよくしてくれたんだってね。進の奴、旅行中も君のことをとても嬉しそうに話すものだから、一度会ってみたいと思っていたんだ」


「そ、そうなのですか!?」


「あぁ、『ぼくに、もう一人お姉ちゃんが出来たみたい』と言っていたよ。ここまで進がなつくのはジュリ以来だ。本当に、ありがとう。恭平さんも、今日まで進によくして戴き、感謝します」


 典明さんが俺とアミィに深々と頭を下げる。俺にならともかく、アミィにまで頭を下げるなんて、進君の父親は、物凄く人が出来ているんだな。


「いえ、俺達はただ、偶然遊園地で知り合って、それから仲良くさせてもらっただけですし……」


「わ、私も、進くんと一緒に過ごせて楽しかったですよ!」


 俺達は二人とも頭を下げられた経験なんて無いもんだから、妙に慌ててしまう。そして、いよいよ進君が旅立つときがやって来た。


「それじゃあ、ジュリ、留守中の家の管理は任せたぞ」


 ジュリさんの顔には、いつもの元気な笑顔はなかった。ただ、事務的に、機械的に、典明さんに返事をする。


「解りました、旦那様。屋敷の管理はお任せください。それでは、行ってらっしゃいませ。(わたくし)、旦那様のお帰りを、お待ちしております」


 そういって、ジュリさんは典明さんと桃子さんに頭を下げる。その顔は、能面のように無表情で、寒気すら覚えるほど不自然だった。違う、こんなのジュリさんじゃない! おかしい、何が起こっているんだ!


「進、最後に、みんなにお別れの挨拶は?」


 桃子さんが進君に別れの挨拶をするよう促す。そして、進君は、俺達に、最後の挨拶をする。


「恭平お兄ちゃん、アミィお姉ちゃん、そして、ジュリお姉ちゃん、今日までぼくと一緒にいてくれてありがとう。他のみんなにも、よろしくね。それじゃあ、ぼくは行くよ。バイバイ」


 俺達も、進君に別れの挨拶をする。やっぱり誰であろうと別れは辛い、何だか泣けてくる。それでも、進君は最後まで泣くことはなかった。


「あぁ、あっちに行っても元気でね、進君」


「落ち着いたら、連絡ちょうだいね、進くん」


 そして、最後にジュリさんが進君に別れの挨拶をする。さっきまでの表情に、わずかな笑みを浮かべて。


「あぁ、元気でな、進」


 それだけ? それだけでいいのか? いいのかよ! ジュリさん! そんな俺の気持ちとは裏腹に、進君は車へと乗り込んでしまった。


 そして、程なくして、進君を乗せた車は遠くまで行ってしまう。俺達は、車が見えなくなるまで進君を乗せた車を見送った。


「行ってしまったな……進君」


「はい……何だか私、胸に穴が開いたみたいです」


 本当に、アミィも人間らしいことを言うようになったもんだ。俺はふと、ジュリさんの方を見る。その顔は、見るに耐えないほど、涙で染まっていた。


「なぁ……恭平……オレ……何でこんなに泣いてるのかな……昨日、泣かずに見送るって決めたのによ……オレ、解らねぇんだ……解らねぇんだよ……」


「ジュリさん……やっぱり、進君のこと……」


「言うな! 言うんじゃねぇ! これでいいんだ! これでいいんだよ!!」


 絶叫するジュリさんを見て、アミィが言った。恐らくは、今、ジュリさんに一番言ってはいけないことを。


「ジュリさん、本当に、これでよいのですか?」


 その言葉を聞いたジュリさんの感情が爆発した。激しく、苛烈に、哀しく、痛々しく。


「うるせぇ!! いいも何もあるか!! こうするしかなかったんだよ!! オレに何ができるってんだ!! 言ってみろ!! アミィ!!」


「ジュリさん……」


「帰れっ!! 二人とも!! 帰れ!! 帰れ!!! 帰れ……よ……! 頼む……帰ってくれよ……! もう、放っておいてくれ……!」


 ジュリさんはその場に膝を折って崩れ落ちた。とてもじゃないが、もう俺達にかけられる言葉は無かった。


「帰ろう、アミィ」


「でも……」


「今は、俺達に出来ることは無いよ。後は、ジュリさんに任せよう」


「解りました……ご主人様」


 俺とアミィは進君の家の前を後にした。その背後からは、ジュリさんのすすり泣く嗚咽が聞こえ続けた。

ここまで読んで頂き有り難うございます!

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