お散歩しましょう!
「いや~ 今日はしっかり晴れてくれてよかったな、アミィ」
「はい、本当に……」
次の日、俺とアミィは、二人で外へと繰り出した。初夏の日差しを浴びて、俺達は並んで石畳の上を歩く。空を見上げれば、澄んだ青が目に飛び込んでくる。
アミィも空を見上げながら、顔に笑みを浮かべて、嬉しそうにはしゃいでいる。こうやって遊びに繰り出すのは初めてだから無理もない。
でも、そんなアミィからは、心なしかぎこちなさを感じずにはいられなかった。やっぱり、そう簡単にはこれまでの失敗を振り切ることなんて出来ないよな。
俺達は昨日の俺の提案通り、部屋の近くの『高天崎中央公園』へとやってきた。世の中は機械化が進んでいるとはいえ、やっぱり木々の緑に囲まれるのは気分がいいもんだ。
俺達が住む『高天崎市』は、国内で有数の『科学と自然の共存』を掲げた大都市で、こんな自然に囲まれた場所が多く存在する。
だから、アミィに街を案内するのも楽じゃなかった。とはいえ、今日の目的はアミィを元気付けることだから、移動は最低限で済ませて、早々にこのこの公園へとやって来た。
ここは高天崎市の公園としては一番規模が大きく、出店も何軒か出ている。辺りを見回すと、家族連れやカップルとおぼしき人達がちらほらと見える。
梅雨も明け、これからだんだん暑くなってくる季節。天気がちょっと心配だったけど、本当に晴れてよかった。でも、相変わらずアミィの様子はなんだか少し堅苦しい。
このまま公園を歩いてたって、アミィの気分は晴れないままだ。何かアミィに喜んでもらえるいい方法はないのか? 俺がそんなことを考えていると、遠目に移動式のソフトクリームの売店が見えた。
そうだ、確かアミィは甘いものが大好きだって言ってたよな。アンドロイドを食べ物で元気付けるなんてなんだか妙な気持ちだけど、一か八かやってみるか!
「そうだ! アミィ、今日は色んなところを回って疲れただろ? ご褒美に、ソフトクリームでも食べようか!」
「え、ええっ!?」
そんな俺からの提案を聞いたアミィは、口を手で覆いながら、大袈裟に俺から距離をとる。
「そんな! 私はアンドロイドなので疲れませんし! それに、私、ご褒美をもらえるようなことはなにもしてないですっ!」
「いや、アミィが居なかったら、こうして公園をゆっくり歩けなかったし。だって、ほら、この公園、いつもカップルばっかりだり、一人じゃ居づらいんだよ」
「あ、その、カ、カップル、です、か……」
そんな俺の言葉に、アミィは口をモニョモニョさせながら、顔を赤くしている。なんともアンドロイドらしからぬ反応に、冗談を言った俺の方が恥ずかしくなってしまう。
「と、とにかく! ソフトクリームを買ってくるから、ちょっと待っててくれよ!」
俺は自分の顔が赤くなっているのを見られないように、早口でアミィにその場で待っているように言ってから、ソフトクリームの売店へと向かった。
まったく、なにを意識しているんだか。アンドロイド相手にこんな気持ちになるなんて、自分の女性に対する免疫のなさに呆れてしまうよ。
…………
「はい、落とさないようにね、アミィ」
「ありがとうございますっ!」
俺からソフトクリームを受け取ったアミィは、本当に美味しそうにソフトクリームをなめる。小さな舌でソフトクリームをなめるアミィは、まるでミルクを飲む子犬のようだ。
間違いなくアミィは喜んでくれている。思惑通りの、アミィ自然な横顔を眺めていると何だかこっちまで嬉しくなってくる。
でも、そんなアミィの笑顔も長続きはしなかった。むしろ、アミィの表情はソフトクリームを食べる前よりも次第に沈んでいく。そして、アミィは立ち止まって、俺に言った。
「ご主人様、ご主人様は、なんでこんなに私に優しくしてくれるんですか? おかしいじゃないですか、こんなお仕事も出来ないアンドロイドによくしてくれるなんて。私、解らないです」
アミィはソフトクリームを両手で握りしめて、俺から顔を逸らす。次第に溶け始めるアイスクリーム、溶けたソフトクリームがポタポタとアミィの手を伝う。
違う、俺はこんなアミィの姿を見たくてソフトクリームを買ったわけじゃないんだ。お願いだから、そんな顔をしないでくれ、アミィ。
「いいんだって、アミィ。俺がしたいようにしてるだけなんだからさ」
「で、でも! 私は! メイドなのに! アンドロイドなのに!」
「確かに、アミィはちょっと失敗が多いかもしれないけど、アミィが一生懸命頑張っているのは解ってるから。それに、俺、アミィが来てから本当に毎日が楽しいんだ。アミィは嫌がるかもしれないけど、仕事帰りに、『アミィ、今日はなにをやっちゃったかな?』なんて考えたりして、ワクワクしてるんだ、本当だよ?」
これは俺の偽りのない本心だ。アミィがやってくる前は、変化のない毎日にうんざりしていた。味気のない食事、無駄に積もっていく貯金、すべてが停滞していたんだ。
「いえ、そんな、嫌がるだなんて……」
そんな俺の気持ちが伝わったのか、アミィの顔に、ぎこちなくはあるけど、かわいらしい笑顔が戻る。やっぱり、アミィは笑顔でいてくれるのが最高にかわいい。
「そうそう、笑ってよ、アミィ。それが一番、俺も嬉しい。家事なんてゆっくり馴れていけばいいからさ」
そう、俺が望むのは、完璧な家事をするアンドロイドでも、命令に従順に従うだけのアンドロイドでもない。ずっと変わらず、俺の傍から居なくならず、笑顔を向けてくれる存在なんだ。
「は、はいっ! 解りましたっ! 私、ご主人様のために、これからは笑顔でいるようにしますからっ!」
アミィのこの言葉、これは命令されたから笑顔でいるという意味なのか。それとも、アミィの努力目標なのか、今の俺には解らない。
そもそも、アンドロイドに感情を望んでいる俺がおかしいんだろうな。でも、こんなことを思ってしまうほど、アミィの表情や仕草は本当に人間らしいんだ。
こうして、俺とアミィは再び公園を並んで歩き始める。でも、俺はアミィのことをなにも解っていなかったんだ。そして、間も無く、俺はアミィの本当の姿を知ることになるんだ。
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