メリーさんです!
メリーさんの声で、紫崎が俺の存在に気づいた。そして紫崎はこちらへとやって来て俺の手元の弁当を見る。こりゃ参った、これじゃあ隠れて食べていた意味があまりないな。
「どうも、響先輩。なかなか可愛らしい弁当じゃないですか」
「よう、紫崎君。この弁当については色々あるんだ、できればスルーしてくれたら助かるよ」
午前中の空気を引っ張っているのか、何だか話しかけづらいな。俺は苦し紛れのように紫崎に目の前のメイドアンドロイドについて話を振ってみた。
「ところで、彼女は紫崎君のメイドなの? 何だか仲が良さそうだけどさ」
そんな俺の質問に、紫崎がぶっきらぼうに答える。
「いや、実際の主人は親父です。お目付け役として俺に付いて回ってるんですよ。会社では一応秘書課所属のアンドロイドって事になってるみたいです」
その言葉に、メイドアンドロイドが反応する。そして、メイドアンドロイドは紫崎をギュッと正面から抱き締めた。
「そんなぁ~ 酷いですよぉ~ わたしはぁ~ 坊っちゃんだけのメイドさんですよぉ~」
「わっぷ! こらメリー! 会社では抱き付くなってあれほど……」
目の前に広がるのは何だか微笑ましい光景。紫崎はメイドアンドロイドの胸のなかであっぷあっぷしている。仕事中の態度とは大違いだな。
「……ハハッ」
「笑うな! メリーもさっさと離れろ!」
「あらあら~ そんなに恥ずかしがらなくてもいいじゃないですかぁ~ どうせ三人しかいないのですしぃ~」
「三人だからダメなんだよ! 全く……」
それにしても、このメイドアンドロイドの名前はメリーというらしいな。どうやらこっちの紫崎が素みたいだ。いつもこうなら話しかけやすいんだけど。
「いや、ゴメンゴメン、あまりに仲が良さそうだったもんだから、つい笑っちゃって。気を悪くしたなら謝るよ」
「いえ、気を悪くするなんてことはないんですけど。こちらこそすみませんでした、食事の邪魔しちゃいましたね」
「そこはもう気にしなくていいよ。ところで、紫崎君はここに何しに?」
「あぁ、僕も昼飯ですよ。立場上やっぱりオフィスには居づらくて。それじゃ、僕はこれで失礼します」
「あ、坊っちゃ~ん、待って下さいよぉ~」
こうして紫崎は離れたベンチへ歩いていった。そしてその後ろをメリーさんがポテポテと付いていく。それを見送った俺は、改めてアミィお手製の弁当に目を落とす。
「さて、それじゃあ改めて、いただきますっ!」
俺はゆっくりと時間を使って弁当を平らげた。味付けは予想通り全体的に甘かった。これから毎日この弁当を食べることになるのかな。そう思うと思わずにやけてしまう。
…………
「ごちそう様でした」
俺は弁当を食べ終えデスクへ戻ろうと立ち上がった。すると目の前には、メリーさんがニコニコしながら立ちはだかっていた。
「うわあっ!」
「こんにちはぁ~ 響さん。ちょっとお時間いいですかぁ~?」
「何!? 何!? どうしたの!?」
「だってぇ~ わたし自己紹介してないじゃないですかぁ~ わたしにも自己紹介させてくださ~い」
そうきたか、なんとまぁマイペースなメイドさんだ。紫崎も後ろで諦めたような顔でメリーさんを待っている。
「わたしはぁ~ 琢磨坊っちゃんのメイドのメリーと申します~ 坊っちゃんのこと、宜しくお願いしますねぇ~」
メリーさんがペコリと頭を下げる。メリーさんの声を聞いていると眠くなってくるな。
俺はメリーさんをまじまじと観察する。いや、どうしても観察してしまう。
髪型はピンクのウェーブがかかったセミロング。眼鏡の奥の目は開いているか閉じているかいまいちはっきりしない。
しかし、それにしても、デカい。俺が見上げてるってことは身長は2メートル近くあるんじゃないか?
更に目を引くのは暴力的なまでにデカい胸。身長差で俺の目の前に胸がどアップで迫っている。自他ともに認めるロリコンな俺でもこの迫力には圧倒されるばかりだ。
「あぁ、宜しくね、メリーさん」
「はいは~い。さて、それではわたし達はそろそろ戻りますねぇ~」
「いや、メリーが戻るのは秘書課だからな」
「もちろん、解ってますよぉ~」
「どうだか……」
メリーさんがちゃんと秘書課の方に戻った事を確認し、俺と紫崎は並んでデスクへと戻る。
「響先輩、ちょっといいですか」
「何だい? 紫崎君」
「言わなくても解るとは思いますけど、色々と面倒なことになりそうなので、ここでの事は内密にお願いします……」
「それじゃあ俺の方も弁当の件は内密に頼むよ。こっちも言わなくても解るとは思うけどさ」
こうして、俺と紫崎に共通の秘密ができた。何だかこれからは紫崎とは仲良くできる気がするな。
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