アミィだから、好きなんだ
「キレイですね、ご主人様」
「あぁ、綺麗だな、アミィ」
窓の外には遊園地の明かりと星々が煌めいている。気付けば、観覧車は頂上まで登りきっていた。
すると、突然外から大きな音がした。その音は、ゴンドラの窓ガラスを細かく震わせる。
目の前を光の奔流が覆う。赤、青、緑、紫。様々な色が輝いては、消えていく。
その光は、まさに空に咲く大輪の花。俺達の目は、咲き誇る花達に釘付けになる。
「これは……花火か……」
「凄いですね……こんなキレイな景色初めてです……」
この花火はまるで俺達の事を祝福してくれている様だ……なんて思ってしまう。観覧車から望むこの光景は一生忘れることは無いだろう。
窓から目を外せばそこには俺の愛するパートナーがいる。この事実だけあれば、俺は他には何も要らない。
「ご主人様……私、今日が今までの中で一番幸せです。これからはもっと楽しい思い出を作っていきたいです……ご主人様と二人で」
「そうだな……アミィ」
俺にはアミィに話しておかなければいけない事があった。これは俺がアミィを迎え入れた理由に関わることだ。
「アミィ、ちょっと聞いてくれないか」
「何でしょうか、ご主人様」
アミィは俺の雰囲気を察して背筋を正す。俺は初めてアミィに自分の身の上話をした。
昔、俺には一人の妹が居たこと。そして、15年前の事件でその妹を失ったこと。
「俺の妹の名前、亜美って言うんだ。亜美の奴、アミィに似ておっちょこちょいでな。いつも付きっきりで面倒を見ていないと危なっかしくて。それでも、亜美は俺にとってはたった一人の、大切な妹だったんだ」
そう、顔は全く違っても、声は全く違っても、アミィの言動は本当に生きていた頃の亜美によく似ていた。
だからこそ、アミィが失敗を重ねても、俺はアミィを叱ったり遠ざけたりすることはなかったんだ。
そんな俺の話に、アミィは目を真ん丸にしている。アミィは自分の名前が持つ意味を初めて知って驚いているみたいだ。
「亜美さん……私と同じ名前、ですね」
「ああ、そうだな。俺がアミィを迎え入れたのは、家族が居なくなった寂しさを誤魔化す為だったんだ。ずっと一人だったからね……両親ももう居ないし。初めてアミィと会った時は、まるで亜美が戻ってきたみたいで、嬉しかった」
アミィは俺の話をただ黙って聞いてくれている。俺は自分の伝えたいまま、アミィへ思いの丈を伝える。
「それからも俺は、アミィに亜美の面影を重ねていたんだよな。でも、アミィと一緒に暮らす内に、そうじゃなくなっていった。ときどきアミィがおかしくなる事もあって不安だったけど、今思えばあっちのアミィには助けてもらいっぱなしだったよな。今のアミィも、そうじゃない時のアミィも、俺は大好きだよ。妹のことは関係ない、アミィだから、好きなんだ」
そうだ。
ちょっとドジだけど可愛くて。
そして時々カッコいい。
そんなアミィが好きなんだ。
俺はアミィの方に手を伸ばし、そのままアミィをを抱き寄せる。軽いアミィの体は、たちまち俺の方へと引き寄せられた。
「ご主人様!? 何を……」
アミィはいきなりの俺の行動に目を見開いて驚いている。そして、俺とアミィは、黙ってお互いの目を見つめ合う。
「こういうことは本当は男の方からしないといけなかったんだよな。ゴメンな、アミィ。さっきアミィがくれた精一杯の気持ち、嬉しかったよ、だから、これは俺からのお返し」
「ご主人様……」
俺達は顔をゆっくりと寄せ合い、やがてお互いの唇の距離がゼロになる。アミィは俺のキスを、ゆっくり目を閉じて受け入れてくれた。
さっきの一瞬のキスとは違う、長い、長い、キス。俺の人生の中で、今のこの時間が一番幸せだ。
このまま時間が止まればいいとさえ思った。しかし、やがてアミィから唇を離す。
「ぷはぁっ……息をするのを忘れちゃいましたよ」
アミィがはにかみながら言った。その顔がとても可愛くて、つい、頬がほころんでしまう。
「ハハッ……」
俺達は今日お互いの気持ちを確かめ合うことが出来たと思う。それが偽りであっても俺には関係ない。
俺とアミィは、お互いを最愛のパートナーとして生きていく決意をした。
これから先様々な困難があるだろうが、アミィと一緒なら乗り越えられると信じている。
そろそろ観覧車は地上へと辿り着く。この二人だけの時間は終わりを告げようとしていた。
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