ありがとうな
遊園地を楽しむこと数時間。空は茜色に染まっている。俺達はアイスクリームを食べながら、並んで石畳の上を歩く。
「いや~ それにしても、今日は遊んだなぁ。こんなに遊んだのは子供のとき以来だよ」
「はい、本当に、来られて良かったですね。たくさん遊べましたし、ご主人様にプレゼントまで貰えて、私、本当に幸せですよ」
俺はこんな時間がいつまでも続けばいいなと考えていた。しかし、無情にもその願いは叶うことはなかった。
ガシャーン!!
「な、何だ!?」
周囲から何かが割れる音と、複数の悲鳴が上がっている。程なくして、周囲に人が縦横無尽に行き交い始める。
俺は、悲鳴の発生源に目をやった。そこには、奇声を上げながら歩くアンドロイドがいた。どうやら、遊園地のキャストアンドロイドが暴れだしたようだ。
「クソッ! 何でこんな日にまで!」
俺は自分の運の悪さを呪った。こんな楽しい日を邪魔されたらたまったものじゃない。
俺はアンドロイドの処理を遊園地の警備に任せて逃げようと考えていた。
「逃げよう! アミィ!」
「ご主人様!?」
俺はアミィの手を引いてどこか安全な場所に逃げようと走り出そうとした。その衝撃でアミィの右手からアイスクリームがこぼれ落ちる。
「!!」
すると、アイスクリームと一緒にアミィの左手に持っていたものが地面に転がった。どうやらさっき俺がプレゼントしたぬいぐるみを落としたようだ。
「ぬいぐるみが!!」
アミィの右手が俺から離れ、ぬいぐるみに向かって駆けて行く。しかし、運悪くその先には暴れるアンドロイドが近づいてきていた。
「危ないアミィ!」
俺は咄嗟にアミィに覆い被さった。アミィに怪我をさせないよう、夢中でアミィを俺の体で包む。
「アァァ!」
アンドロイドが俺に拳を振り下ろす。俺がアンドロイドを見上げると、その目は完全に正気を失っていた。
ゴッ!
「ぐぁっ!」
頭上からの一撃、俺の背中に鈍い痛みが走る。その後もアンドロイドの攻撃は止まらない。
このままでは、遅かれ早かれ俺は力尽きるだろう。それでも、俺はアミィを抱き締め続けた。もうアミィにあんな無茶をさせたくなかったんだ。
それでも、その時はやって来てしまう。俺の体の下からいつもと違うアミィの声がした。
「おい、離してくれよ恭平。これじゃあ、恭平を守ってやれないじゃないか」
「アミィ……」
俺は無意識にアミィを抱く手を緩めてしまった。すると、俺の腕の中からアミィがスルリと滑り出る。
「ふぅ、悪いな恭平。今回は俺が守ってもらっちまったみたいだな、ありがとうな。でも、もう大丈夫だ、後は俺に任せておきな」
アミィは俺の方を見て、微笑みながら言った。そして、アミィが暴れるアンドロイドを見据える。
「しかし、やっぱりやりにくいよな。こいつらは何も悪くないのによ」
俺の頭上からアミィのやりきれないような声と、アミィがアンドロイドを殴る音がした。すると、背中の痛みが少し引いて、アンドロイドからの俺への攻撃が止む。
「ギッ!?」
俺が顔を上げると、アンドロイドがアミィの方を睨んでいた。それをアミィは動じることなく、静かに見据えている。
「ガァッ!」
アミィに向かってアンドロイドが拳を横凪ぎに振るう。その軌道は、確実にアミィの頭へと向かっていた。
「これくらいならこれで十分だ!」
アミィは迫り来るアンドロイドの手首を拳で上へと弾き飛ばす。そして、アンドロイドの手が勢いよく跳ね上げられた。
「ギイッ!?」
跳ね上げられた手に引っ張られる形で、アンドロイドが仰け反る。すると、アミィは怯んだアンドロイドの目の前まで飛び上がった。
「お前にはなんの恨みもないが、しばらく寝てな!」
アミィはそのままアンドロイドの顔面に向かって拳を振り下ろす。
その衝撃で仰向けに叩きつけられたアンドロイドは、機能が停止しているようだった。
「ふぅ、これでひとまずは大丈夫かな。すまねぇな、悪く思うなよ」
アミィは手をパンパンはたき、倒れているアンドロイドに声をかけながらながら息をついた。
俺は何とかその場に立ち上がり、安全を確認するために周囲を見回した。
「!!」
すると、誰かがアンドロイドに囲まれているのが遠目で見えた。
距離は遠く、このまま逃げれば俺達は安全に逃げられるだろう。それでも俺には放っておけない! 俺は無意識に叫んでいた。
「アミィ! 頼む! 誰かが襲われている! 助けたい! 協力してくれ!」
俺の叫びに、アミィは呆れたような口調で答えた。
「いいのか? 逃げなくてよ。全く、お人好しなこったぜ。まぁ、恭平ならそう言うと思ったよ。いいぜ、それじゃあ行こうか! 恭平!」
俺達は、アンドロイドの群衆に向かって走り出した。頼む! 俺達がそっちに行くまで、間に合ってくれよ!
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