久しぶりだな
「みんな~! 今日は私たちの歌を聴いてくれてありがとうね~!」
「それじゃあ~ね~! バイバ~イ!」
大歓声も冷めやらぬなか、ツインマーメイドの出番が終わった。
二人は観客に笑顔を振り撒き、手を振りながら舞台裏へと入っていく。さすがはトップアイドル、他の参加者とはものが違う。もちろん会場のボルテージは今日一番だった。
「やっぱり生は違うな、ちょっと鳥肌たったよ」
「クソッ! もうちょいチケットの確保が早ければなぁ……」
昌也は間近で観られなかったことが相当くやしかったようだ。まぁ、ツインマーメイドの歌を聴けただけでも儲けもんだと思え、昌也。
「今日の参加者の皆さん、全員スゴかったですけど、今のお二人の歌は特にスゴかったですね……私、憧れちゃいます……」
アミィはうっとりとした表情で余韻に浸っていた。無理もない、初めて聴いたアイドルの歌がこれだからな。
「はぁ……」
キッカさんは相変わらずどこか遠くを見ていた。ライブの間はずっとこうだったみたいだな。
ツインマーメイドが舞台裏へと戻り、次の出演者が舞台に上がった。しかし、ステージ上の様子がどうもおかしい。
周りの観客がザワサワと騒ぎ始めた。どうやら何かトラブルがあったようだ。
そんな中、ステージ上のミュージシャン型アンドロイドが急に暴れだした。
「アアアア!」
ミュージシャン型アンドロイドがステージから飛び降り、ギターを振り回しながら観客席へと突進してきた。
ステージと観客席の最前列までは距離はそんなにない、程なくして、暴走したアンドロイドは観客席へと飛び込んでいく。
観客席は大混乱、皆悲鳴をあげながら我先にと席を立ち逃げ惑っている。倒れる椅子や砂ぼこりが観客の混乱を更に加速させる。
それを境にステージの舞台裏から相当数のアンドロイドが飛び出してくる。アンドロイド達は、みんな一様に正気を失っているようだった。
俺はとっさにアミィに呼び掛けた。アミィは何が起こったのかよく解らず、その場で呆然としていた。
「アミィ! 大丈夫か! 危険だから、俺の傍から離れるんじゃないぞ!」
「は、はい! ご主人様!」
俺はアミィが人並みに呑まれないように、しっかりと手を握る。そして、俺は昌也とキッカさんの安否を確認した。
「昌也! キッカさん! そっちは大丈夫か!」
俺の問いかけに、昌也とキッカさんが答える。
「おう! こっちはひとまず大丈夫だ!」
「こちらも問題ごさいません」
よかった、昌也とキッカさんは、何とか大丈夫みたいだ。俺はアミィの手を握ったまま、改めて周囲の様子をうかがう。
「それにしても、まさかこんな所でこんな目に遭うとはな。全く、運がいいんだか悪いんだか」
「あのウイルスの話、マジだったんだな……自分で話を盛り上げておいて何だけど、実際見るとやっぱり怖いもんだな……」
そうか、昌也はあんなアンドロイドの状態を見るのは初めてだったな。さすがの昌也も、今回ばかりはこわばった表情を浮かべている。
「とにかく、安全な場所まで逃げないと……」
しかし、人混みで上手く行きたい方向に動くことができない。すると、人混みの中からアンドロイドが一体こちらに飛び出してきた。
しまった! 人間とアンドロイドの見分けがつかなかった! その距離は目と鼻の先、完全に油断していた!
「ラァァァ!」
ヤバい! 避け切れない! 俺は思わず目を閉じその場にしゃがみこんだ。
そこで俺は気づいた。アミィの手は既に俺の手を握っていなかった。クソッ! 何で気がつかなかった! アミィはどこに行った!?
「……」
おかしい、飛び出してきたアンドロイドはいつまでも俺の所には到達しない。
恐る恐る目を開けると、そこには先程のアンドロイドが転がっていた。顔を上げると、俺の目の前にアミィが立っていた。
「アミィ……?」
アミィは首だけこちらに振り返りながら、俺に言った。その目には、あの日と同じ様に、みなぎる自信をたたえていた。
「久しぶりだな、恭平。言ったただろ? 恭平に何かあったら俺が守ってやるってよ。そうビクつくな。こんなもんどうってことないよ」
これは、間違いない。あの日のアミィだ。俺の頭の中であの日の光景がフラッシュバックする。
「今はそんなことよりこの状況を何とかするのが先だ! 俺の傍から離れるんじゃねぇぞ、恭平!」
アミィはアンドロイドを見据えて気合いを入れる。その姿は、もう俺の知っているいつものアミィじゃなかった。
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