温泉まんじゅうです!
「ご主人様、どうですか? 変じゃないですかね?」
「変じゃないよ、似合ってる似合ってる」
アミィは少し恥ずかしそうに、俺の前でクルクルと回って見せる。俺とアミィは、早速タンスの中に入っていた浴衣に着替えた。
紺色の浴衣にうぐいす色の帯、普段着から着替えるだけで何だか別世界に来たような心地だ。
一番小さいサイズの浴衣でも、アミィにはちょっと大きいみたいで、浴衣に着られているような感じがまたかわいらしい。
「さて、それじゃあ早速、温泉街に行ってみよう!」
「はい! 私、さっき駅から出たときにチラッと見て、行ってみたいと思ったところがあるんですよ!」
「おぉ、いいじゃないか! 時間は十分あるから、今日は色んなところに行こうな、アミィ!」
そして、俺達は部屋から出て、玄関へと向かおうとする。すると、部屋から出てすぐにカグラさんとバッタリ鉢合わせた。
「あら、響さん、アミィちゃん、お出掛けですか?」
「はい、ちょっと温泉街を回ってみようと思いまして」
俺の言葉を聞いたカグラさんは、微笑みながら俺達に確認してきた。
「そうですか。それでは、お食事はどうなされますか? もし外で食べてこられるようであれば、少々量を調整致しますが」
「いえ、せっかくですから、食事は戻ってからしっかり戴きます。板長さんが腕を奮ってくれるっていうから、楽しみで仕方ないですよ。な、アミィ」
「はい! 板長さんのお料理、楽しみにしていますね!」
「左様でございますか。それでは、こちらの方は準備しておきますので、どうぞごゆっくり、散歩をお楽しみくださいませ」
そう言って、カグラさんは玄関まで付いてきて、頭を下げながら俺達を見送ってくれた。
さぁ、いよいよ温泉街へ繰り出すときが来た。俺達は、少し離れた温泉街まで手を繋いで、ゆっくりと歩いていった。
…………
15分ほど歩いて、俺達は温泉街に辿り着いた。行き交う人々は、あらゆる色彩の浴衣に身を包み、温泉街を闊歩する。
俺達もその群衆に溶け込み、温泉街を並んで歩く。少し目線も気にはなるけど、それでも俺はアミィの手を離さない。
「さて、それじゃあ、早速アミィが行ってみたいって言ってたところに行こうか。アミィはどこに興味があるんだ?」
「えっとですね……私、ちょっとあれが気になって……」
アミィは目を少し伏せて、はにかみながら立ち並ぶ建物の一つを指差す。そこは、店先から湯気が噴出する、温泉まんじゅう屋だった。
「うん、いいじゃないか! 一緒に食べよう! それにしても、やっぱりアミィは甘いものが好きだよなぁ。あんまり甘いものばかり食べてると、太るんじゃないか?」
「ご主人様! 私はアンドロイドですから太りませんし、女の子にそんなこと言っちゃダメなんですよ!」
俺の冗談を、アミィは頬を少し膨らませながら真面目に拾ってくれる。顔を赤くしてプンプンと息を巻くアミィ、こんな表情をするアミィも新鮮だな。
「ゴメンゴメン、それじゃあ、買ってくるから少しまってな」
「はい! お願いしますね、ご主人様!」
俺はアミィを道の脇の長椅子で待たせて、温泉まんじゅう屋まで歩いていく。
最近、アミィはあまり俺に遠慮をしなくなった。俺としてはこのアミィの心境の変化はとても嬉しい。
「おまたせ、アミィ。熱いから気を付けな」
「はい! ありがとうございます、ご主人様!」
俺は二つ買った真っ白な温泉まんじゅうの一つをアミィに手渡し、アミィの横に腰掛ける。そして、俺とアミィ、同時に温泉まんじゅうにかぶりつく。
「んぐっ」
「はむっ」
俺の口の中に、あんこの優しい甘味と、皮のフカフカとした食感が広がる。間違いなくアミィが好きな味。こいつは買って大正解だ。
「やっぱり蒸したてのまんじゅうは違うよな……どうだい? アミィ、初めての温泉まんじゅうの味は」
俺は横目でアミィを見ながら味の感想を聞いてみる。その問いかけに、アミィは口許をハフハフさせながら答えた。
「ちょっと熱くて食べにくいですけど、やわらかくて、とても甘くて美味しいですよ! 私、この味、大好きです!」
ジュリさんに出されたお茶の件もあるけど、アミィはどうも少し猫舌なのかもしれないな。
少しずつ俺の知らないアミィの一面を知ることが出来て、俺はとても嬉しい。
俺達は温泉まんじゅうを食べながら、町並みを眺める。
行き交う人々、活気溢れる店通り、街路樹から散っていく紅葉。まるで絵はがきの中の世界に迷い混んだような錯覚さえする。
そして、俺達は冷えきらないうちに温泉まんじゅうを食べ終えた。俺とアミィは肩を寄せ合い、しばらく流れる時間に身を任せる。
「ご主人様、私、ずっとこうしていてもいいですよ。ご主人様が隣にいてくれるだけで、全てがどうでもよくなるような、そんな気持ちがします。本当に、私、ご主人様のメイドでいられて幸せですよ」
アミィは少しトロンとした目で、俺の肩を頭でコツンと叩きながら、俺に言った。俺だって同じ気持ちさ。アミィさえ隣にいてくれれば俺は幸せだ。
「そうだな……でも、今日はせっかくだから、もっと色んなところに行こう? 俺もずっとこうしていたいけど、もっと、もっと二人で知らないことを見つけていくのも楽しいと思うからさ」
「そうですよね……でも、もう少しだけ、このままでいさせてもらってもいいですか?」
「あぁ、もちろん」
長椅子の横に据え付けられた赤い番傘の下、俺達は甘い会話を楽しむ。俺とアミィの二人きりの温泉旅行は、まだまだ始まったばかりだ。
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