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34話 伊藤さん その2

「ほら制度が変わって、一定年数がたつと有期雇用の人を無期雇用に変えなきゃいけなくなったじゃない?」


「そうですね」


「あの会社、それが嫌だったみたいで。4年目の契約が終わった時点で次年度は契約しませんて」


「そんな……伊藤さんの貢献度を考えれば、むしろ正社員にしてポジションを作るくらいしてもいいはずなのに」


 無期雇用が嫌だなんて理由で伊藤さんを放出するなんて。

 数字から見ても、実績から見てもあり得ないだろ?

 あの会社何考えてるんだ……。


「ありがと。でもね会社としてはもっと若い子にお金をかけたいっていわれてさ」


 は??

 年齢?

 年齢しか見てないのか?


「売上を上げるのも、企画を考えるのも頑張れるんだけどね。年齢なんてそんなものどうしようもないじゃないね」


 あの会社は何を考えてる?

 伊藤さんの数字を手放している余裕はなかったはずだが。


「それでどうしたんですか?」


「なんか全部どうでもよくなっちゃって。わかりましたって」


「そうですか……」


「でもねその日の夜にここがはじまったの!」


「セラルンダが?」


「そう。あの日のがっかりなんて、あっという間に吹き飛んじゃった!」


 いい笑顔だ。

 自称神、感謝する。


「そのあとはもうこの世界にどっぷりかな」


「楽しんでいらっしゃるようですね」


「そうだね。やっぱりさ、がんばったことが結果になるってうれしいじゃない?」


「それはそうですね」


「ここなら正社員じゃないからとかいう、訳の分からない理由で私の努力が差別されたしないし」


「そもそも正規も非正規も存在しませんからね」


「そうそう。そしてちょっと俗っぽいけど、きちんとお金が稼げるもの」


 確かに。

 俗っぽいと何と言われようと、満足できる報酬がもらえるのは大きい。


「あのね。ここに来るようになってから、気兼ねなく友人の結婚式に行けるようになったの!」


「ああ、御祝儀とか二次会以降の費用とかいろいろかかりますものね」


「前までは、お金のこととかが頭をちらついて。お料理とかを食べながらどこかでその月のやりくりとか計算しててさ」


「わかります」


「そういう心配がなくなるって、こんなに気持ちいことだとは思わなかった」


 そうだな。

 こういう普通のことが普通にできるようになる。

 実感して初めてその良さがわかるよな。


「もうね、毎日が嘘みたいに楽しいの」


 いい笑顔だ。

 本当はこういうふうに笑う人だったのか。


「でもね、やっぱりそういう良いときっていうのを邪魔する人はいるのよね」


 ?

 表情が?

 何かあったのか?


「実はね……」

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