24話 シルシル暴走
「あのヤカンはロクサブロウだったか」
……。
「よくもまあ妾をポコポコと」
そうだったな。
バレていないのだったな。
「いえ、私ではありません」
「お主、妾を馬鹿にしておるのか?」
「馬鹿とまでは……」
「ロクサブロウ、いい度胸じゃ、ぶお」
「ロクサブロウさーん」
「シルシル、怪我はないか?」
「はい、大丈夫です。僕こう見えても結構頑丈なんです!」
いや、見るからに頑丈そうだが。
早く元の大きさに戻ってもらえると助かる。
そのサイズで抱きつかれると、さすがに体が折れそうだ。
「ロクサブロウさん、あの飛び交っていた武器はなんですか? ヤカンのように見えましたが」
どうやら、しばらく離してはもらえないようだな。
「ヤカンだ」
「へ?」
「だからヤカンだ」
ヤカン
「ほら」
「……」
まあ、どう反応していいかわからんよな。
なんせヤカンだしな。
俺が逆の立場でも反応に困る。
「凄いです!」
?
「鍛えれあげられたヤカンは、あんな大きな魔獣を倒せるんですね!」
いやヤカンを鍛えた覚えはないんだが。
「ロクサブロウさんも、かなりの鍛練をされているんですよね?」
鍛練?
あの竜との一年は鍛練になるのか?
「僕も負けないように自分を鍛えないと!」
この目は……。
本気だな。
しかし、シルシルの巨体に抱き締められても、いまだに折れないのか。
爪もかなり食い込んでいるようだが、出血もしない。
一体どういうことだ?
「シルシル、そろそろ離してもらってもいいか?」
「ああっ、すいません。僕、興奮してしまって。ロクサブロウさん、怪我はないですか?」
「私は大丈夫なのだが」
「?」
「ルンダルナ先生がな」
「先生?」
「シルシルに撥ね飛ばされてのびてるぞ」
「ああああ。僕はなんてことを!」
いや、シルシル。
取りあえずもとに戻ってからの方が。
「先生!」
ほら、そんな全力でゆするな。
ルンダルナ先生の首が。
「おぁぁぁぁあああぁぁぁ」
……。
ルンダルナ先生から変な音が。
シルシル。
もしかしてルンダルナ先生に恨みでも……。
ありそうだな。
「うぇぇぇぇあああえぇぇぇ」
奏でる音が変わったな。
顔があまり他の人に見せてあげない方がいい感じに。
シルシルは鬼だな。
「シルシル、そろそろやめないと。ルンダルナ先生が本当に不味いことになりそうだ」
「は!?」
「ぃぃぃぃぃぃ」
「せんせーい!」
「全くひどい目にあったのじゃ」
「申し訳ありません」
「はあ、もういいのじゃ。シルシル、次はきをつけるのじゃぞ」
「はい」
「よかったな、シルシル」
「ロクサブロウ、お主はちょったと待つのじゃ」
あれだけ衝撃を受けていのに……。
忘れてはくれなかったか。
シルシルを止めるのが早かったな。
「あのヤカンの主は」
「レガレス先生!」
「ええい、話の腰を折る奴が次から次へと。今度はなんじゃ!」
「街が、ティアムの街が襲われています!」
まだまだ騒動は収まりそうにないようだ。




