14話 鈴木さん その2
「職場でのストレスもほとんどなくなったしな」
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「俺はこの街の周辺で、ローリスクで細々と稼いだりするのが中心なんだがな。どんなに弱い魔獣相手でも対峙するときのプレッシャーはかなりのもんだ」
たしかに、会社に本気で自分を殺しにくる人は滅多にいないな。
それに、殺されることも滅多にないだろうしな。
「それに比べりゃ、会社でのプレッシャーなんざないに等しいからな」
なるほど。
「それにな、稼ぎの心配がなくなったからな。理不尽なことには、きっちり言い返せるようになったのも大きいな」
「二階堂さんがそれを許すんですか?」
「あはは、侘坐がいたときとは会社の状況が違いすぎるからな」
「どういうことですか?」
「システムの三人組覚えてるか?」
「もちろんです」
「二階堂さんな、あの三人組をクビにしちまったんだよ」
「あの三人をですか? あの三人無しで、開発含めシステム関係がまわるとは思えないのですが?」
「まわるわけないだろう。おかげで会社は大混乱さ」
たしか二階堂さんでも、あの部署だけは手出しできなかったはず。
どういう事だ?
「あの人はあの部署、というかあの三人だな。あの三人が高い給料貰ってるのが気に入らなかったらしくてな。ずーっと機会を狙ってたみたいなんだよ」
「給料か高いって……。あの三人の仕事量と仕事の質を考えたら、安すぎるくらいでは?」
「それが二階堂さんにはわからなかったんだよ。あの人にはあの三人が、日がな一日エアコンの効いた室内で、適当にキーボード叩いてるように見えてたんだろ」
「そんな」
「なんでも、知り合いの派遣会社の社員にあの三人のことを話したら、その程度の仕事もっと安い給料でできますよって言われたらしい」
「あの三人の業務をもっと安い金額で? あり得ない」
「そ、あの三人の力量を知ってたら、まずあり得ないことだってわかるんだがな」
「二階堂さんは、わからなかった」
「ああ。そしてシステムの部長が席を外してるときに、あの三人に絡みに行ったんだよ」
直属の上司がいないところを狙うか。
最低だな。
「まさかいつものように?」
「ああ。お前らの代わりなんかいくらでもいるって、話をグダグダとやったらしい」
最悪だ。
「そしたらな、あの三人、その場で二階堂さんに辞表を出してな」
「受けてしまったのですか?」
「ああ。しかも即日退職を認めちまった」
最悪だ。
ただでさえ大きな穴が空いたのに、引き継ぎすら無しなんて。
「それで、どうしたんですか?」
「どうにもならないさ」
「二階堂さんが言っていた派遣会社は?」
「連れてきたさ、あの三人の足元にも及ばない連中をな」
「それじゃあ?」
「会社のシステムはトラブル続きになるし、取引先への納品もできなくなった」
「大事ですね」
「大事さ。結局、どうにもならななくなって、原因である二階堂さんが頭を下げて回ることになったんだが」
まだなにかやらかしたのか。
「取引先で、あることないこと吹いたらしくてな」
「今回の件は、あの三人が悪いと?」
「その通りだ。そしたら取引先で何社か事情を知ってる人がいてな、しかも大口の取引先だ。会社側に抗議をいれられた上で、取引をバッサリ切られちまった」
取引をやめるってのはよっぽどの事だな。
あの三人の実力を知った上で、仕事をまわしていた会社だったのか?
「それで、流石の会社も二階堂さんを庇いきれなくなってな」
三人を解雇した段階で、庇おうとしたのもどうかと思うが。
「では、今はもう?」
「ああ、二階堂さんの席はない。退職扱いなのか、懲戒解雇なのかは知らないが」




