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番外編〜目の不自由な人のお金の見分け方〜

今回は番外編です。

時系列的に少し後のお話になります、ご了承ください。

「ねぇ、どうやってお金の区別つけてるの?」

昼休み、私たちは屋上へと登る階段に座ってお昼を食べていた。

ここは人通りも無いため、2人きりでゆっくりと過ごすことができていた。

今まで彼女と一緒にいて、彼女は目が見えないなりにやり方を工夫して生きているということに何度も気付かされた。

例えば通学だったり、服を着替えることだったり、階段を登ることだったり。

そんな私が新しく疑問に思ったのはお金の区別である。

硬貨ならまだしもお札など区別のしようがないのではないか。

由美ちゃんは昆布のおにぎりを口に入れようとしてそれをハンカチをしいた膝の上に置いた。

そしてカバンからお財布を、ポケットからスマホを取り出し、近くに備えてお財布を開いた。

由美ちゃんはお札の端の部分をこすり、その後千円札を取り出してこちらに見せる。

《これが千円》

次に一万円札を取り出してこちらに見せた。

《これが一万円》

最後に五千円を取り出してこちらに見せた。

《五千円》

由美ちゃんはそう全てのお札の値を当てると、その見えない目を細めて少しニヤッとしてドヤ顔を決めた。

目が見えないので自分の今の顔がどんなものかわからないからだろう、少し不細工だったけれど、そこがまた可愛かった。

パグによく使うブサ可愛いとはこの事なのだろうか?

まるでマジックを見せた後のマジシャンのように自信満々な顔をしている由美ちゃんに私は見えないとわかっていながらも微笑み返し、「おぉ」と驚きの声を返した。

《3枚揃ってれば大きさでわかるよ》

《揃ってなければお札の下側にある目印触ればわかるよ》

そう言って由美ちゃんは3枚のお札を私に見せてくれた。

確かに千円札には横に長いザラザラしたものが、五千円札には花のような丸のようなものが、一万円札にはL字型のものがそれぞれついていた。

世の中良く出来ているものだなぁ、目が見えなくてもお札の区別がつくのか。

「なら小銭は?」

《小銭はギザギザがあるか無いかと穴が空いてるかどうか》

《500円玉と1円玉はわかりやすい》

由美ちゃんは50円玉を私にみせて《これはギザギザあるから50円》、とまたもや得意げに言ってきた。

「すごい、あってるよ」

きっと由美ちゃんは目が見えない自分でも1人でなんとか出来てるんだよ、ということを伝えたくてこうしてくるのだろう。

得意げな表情も自信に溢れた表情も不細工なドヤ顔も、今まで生きてきた中で得た自信の表れなのだと思うととても力強く思えた。

私はその彼女の自慢に最後まで付き合ってあげようと思った。

「じゃあ最後に100円と10円を当てて見せて」

由美ちゃんは財布の中を探って、しばらくしてから10円玉を取り出した。

《これが100円》

「え?」

由美ちゃんはたしかに10円玉を取り出した。

しかしメッセージに流れてきたのは100円だ。

音声の読み違えだろうか。

由美ちゃんは「えっへん」という擬音語が適切なほど自信を持ってみせてくる。

私はその10円をよく調べてみた。

「あ…」

《どうかしたの?》

「…これ、ギザ十…」

それを聞いた由美ちゃんはさっきの自信の表情とは違い、顔を真っ赤にしていた。

ギザ十を拳の中で握りしめ、悶えているようにも見えた。

しばらくしてから落ち着くとまたスマホにメッセージが届いた。

《交換してください》

由美ちゃんは顔を隠してギザ十だけを私に向けて一直線に腕を伸ばしている。

私は「了解」と伝えてお財布から10円玉を取り出して彼女に渡し、ギザ十を受け取った。

このギザ十は使えないな、貴重だし、大切だから。

由美ちゃんの膝の上にあったおにぎりの海苔はすでに水っ気を吸ってしまっていた。

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