夏島華菜の願いⅡ
長台詞から始まりますが、許してくださいね☆
「これからあなたは死後の世界に送られます。しかし、死とは救いではありません。生きとし生けるものに全て、平等に訪れるだけの終焉に過ぎないのです。けれども、死が存在することにより、生きるということは、恐ろしくあるのです。もし、死が存在しなければ、人の子は生きることを苦しむことはないでしょう。神は死の運命を背負っている人の子を、どうにか救いたいと考えておられました。死こそなければ、人の子はより幸せに生きられるのです。エデンの園は、それを如実に表しています。かつて、アダムとイヴという二人の人間が存在していました。彼らは神に作られ、その人生をエデンに捧げるはずだったのです。そこには、死という苦しみはなく、怪我も病気も、精神的な苦痛も存在しない。素晴らしいエデンの園は、まさに楽園というべき場所でした。しかし、アダムとイヴはエデンの園に留まることを選びませんでした。ヘビの言葉に唆されたと言いますが、それで彼らの選択肢がなくなったわけではありません。命の果実を食べることを止め、神に食べることを禁じられていた、知恵の果実を食べることを、自ら選んだのです。それにより、知恵を得た彼らは、楽園追放の責を負うことになりました。命の果実を食べられなくなった、二人の子孫、つまり、あなた方、人の子は、永遠の命を手放すことになったのです。それにより、人は死の運命を背負うことになりました。ですが、これはアダムとイヴの選択によって、もたらされただけに過ぎないのです。あなた方、人の子は、果たしてその選択に、納得しているでしょうか。人の命に比べて、無限にも等しい時間が流れた今において、神代の選択による死の存在は、人の子が納得するような運命だったのでしょうか。死んでしまった人の子が、もっと生きていたかったと、そのような意見を言うことも多々ありました。しかし、人が死ぬという運命は、もはや、変えることができないのです。清純なる魂であれば、エデンの園に戻すことはできるのでしょう。けれども、知恵を得たあなた方を、エデンの園に戻すことはできないのです。エデンは聖域であり、知恵という穢れを受け入れません。ですが、死という運命は過酷です。選択肢を選ぶことができなかった人の子に、何かできることはないかと、神はずっと思い悩んでおられました。そして、一つの結論を得たのです。それが祝福です。私は神の代理人として、死者に祝福を授ける役目を担っています。優秀にも耐え難い死を乗り越えた者に対しての、いわば、ご褒美を与えるのです」
少女は息継ぎをせず、一息に話をした。その長ったらしい話はあまりにも回りくどく、カナの頭を混乱させる。
「えっと……?」
「理解できませんでしたか?」
「うん。ちょっと分からないや」
「そうですか、かいつまんで話せば、人は死ぬのですが、それは、アダムとイヴの責任であり、人がその運命を背負い続ける意味は何処にあるのか、ということです。けれども、人が死ぬという運命はもはや変えられないので、死んでしまった人には、私が神に代わって祝福を与えることにしたのです」
「祝福って?」
「祝福とは、すなわち願いです」
「願い……?」
カナは首を傾げた。
「そうです。あなたが、現世を生き、そして死んだということを代償に、願いを叶えることができるのです」
「そうなんだ」
「あなたは願いを叶える権利を得たのです」
少女は優しく両手を広げ、にっこりと笑った。
「願いか……」
カナは願いと言われて、一つだけ、すぐに思いついた。だが、他の答えを探そうと努めた。その答えはあまりにも、個人的な感情に過ぎない。だが、他の願いは全く思いつかなかった。
「どのような願いでもいいのです。あなたは何を願いますか?」
「あたしは、いいや。やめとくよ」
「何故です?」
少女は頬に指を置き、首を大きく傾けた。
カナに願いたいことが無いと言えば、それは嘘だ。しかし、『後が怖い』と彼女は考えていた。こんなことを願ってしまえば、きっと、しっぺ返しを食らうだろう、と。そのことを察したのか、少女は静かに口を開いた。
「もしかして、何か懸念がありますか?」
見透かしたような、そんな言葉だった。少女は更に言葉を続けていく。
「大丈夫です。何も恐れることはありません。ここは現世とは関係のない場所です。生きている人間には、何も関係しませんよ」
「でも……」
「そうですね。いっそ、私に話してはみませんか? あなたの不安が分かれば、私から解決の糸口を提示することができるかもしれません」
「うん……。じゃあ、少しだけ、あたしの話を聞いてくれるかな……」
カナはゆっくりと口を開いた。




