ナナミでGO!
「ふふ」
教室の一番後ろの窓側の席。
そこに座るのは絶世がつく程の美少女、相川ナナミ。
普通では考えられない程の不気味な笑みを浮かべている。
それもそのはず、彼女は正真正銘の腹黒女なのだ。
幾人の男子生徒を騙し、騙し、騙し、給食のデザートをかっさらった小学生界の悪魔。
それが彼女、相川ナナミ。永遠の10歳。
「……はぁ」
そんなナナミを見ながら、隣席で溜息をつくのは相川ケント。
彼はナナミの親戚でいとこにあたる。
性格は極めて温和。成績優秀。平和主義。小学生差別撲滅委員会の会長。
『僕はあなたとは違うです。僕は物事を客観的に見れるんです。あなたとは違うんです』
がモットーな今の世の中ではありえない小学生界の聖人君子だ。
そんな彼がなぜか憂鬱そうな顔している。どうしたのだろうか。恋の悩みだろうか。
(ナナミの奴、また今日の給食のデザートの事考えているな……)
なるほど。どうやら、彼はいとこのナナミの暴挙に困っている様子。
流石は小学生界唯一の希望の星。
給食の時間。
小学生にとって待ちに待った時間だ。
教師の眠くなるような小難しい話。授業の合間に入る教師の笑えないネタ話。特に辛いのはテストの時に全く不必要なのに書かねばならない板書。
そんな辛い時間を乗り越えて、やっとめぐり合えた砂漠のオアシス。
エネルギー切れ状態の小学生が元気になる時間である。
特に男子は声を上げて喜ぶだろう。
それなのに。
「…………」
なぜか男子一同は皆気まずそうな顔をしている。
女子は至って普通。寧ろ、給食の時間なので元気に友人達とキャッキャしている。
しかし、男子は皆、沈黙だ。
お調子者の宮本すら、下唇を噛み締め、俯いて元気が無い。
異常である。
そんな男子の異常にも女子は心配するどころか、気にした様子も無く、寧ろ、
「ごめんね〜」
と、笑顔で謝るだけ。更には、
「あんたらってホント馬鹿だよね〜」
と、逆に陥れる者すら居る始末である。
「ク……おい! 男子一同! 今日こそは堪えるんだ! いいな! 今日は我々が待ちに待ったプリン! これは絶対に失うわけにはいかない!」
立ち上がったのはクラスの学級委員長。男子の中ではリーダー格の遠藤。
「そうだ! 遠藤の言う通り!」
「だな! 今日はプリンだ!」
「それを失うわけにはいかない!」
「よし! やったるで! 今日こそ負けないぞ!」
流石は学級委員長。クラス男子の士気を高め、一つにまとめた。
まさしく、鶴の一声。
給食が皆に配られ、それぞれ自らの席に着く。
そして、合掌。
「いただきます」
それが合図だった。
男子の眼がみるみる変わる。警戒心を宿した草食動物の瞳だ。
男子一同が警戒の眼を向ける相手。
それは、
「ねぇ、市原くん。そのプリンちょうだい?」
絶世の美少女こと、相川ナナミは自分の近くの少年にそう笑顔で告げた。
(狙いは市原だったか!)
男子一同、冷や汗を垂らす。
クラス全員が市原と相川ナナミに注目する。
市原はゴクンと息を呑む。どうやら、ナナミの笑顔に激しく動揺しているようだ。
情報屋大井の話では、市原はナナミに惚れているという情報がある。だとすれば、今の一撃は彼にとって凄まじいモノであったであろう。
(深呼吸! し・ん・こ・きゅ・う!)
リーダー遠藤が深呼吸のジェスチャーを出し、緊急回避を試みる。
「すぅーはぁー、すぅーはぁー」
市原は深呼吸。
なんとか形勢を整える事に成功。深呼吸の効果は抜群である。
男子は安堵する。一方、女子は残念そうだ。
それから、男子一同は祈るように瞳だけで市原を応援。
市原はそれを受け止め、頷くと、男子一同の期待に応えるべくナナミと向き合う。
そして、
「いや、その……無理です」
市原は精一杯の抵抗を見せる。少し前までなら、市原はナナミがちょうだいと言う前から既にデザートを差し出していた。しかし、今では拒否する意志を見せている。
見事な成長である。
しかし、敵も甘くは無い。そんな少し拒否された程度で引き下がるなら、クラスの男子は苦労しなかったであろう。
悪魔は最新兵器を持ち出した。
「だめ……なの?」
「「「っ!?」」」
上目遣いに少し泣きそうな顔。そして、泣きそうでそれでいて甘い声。更には両手を顎の下に持ってきて、可愛さ20%増加。
これには男子一同驚愕だ。ムネキュンだ。
一方、女子は誇らしそうに男子を見下す。
(ク……やつらめ。相川に新たなワザを……)
リーダー遠藤は悔しそうに顔をしかめる。
これでは市原も玉砕してもしょうがない。遠藤は諦めの溜息をついた時だった。
「リーダー! リーダー!」
隣に居た石川が遠藤の肩を揺らす。
「なんだ? ……どうした?」
遠藤は相川ナナミの最新兵器の対策方法に頭を巡らそうとしていたので、イライラしたように対応する。
石川は必死に何かを指差す。
「ん?」
遠藤は眼を凝らす。そこにはブルブルと震えながらも、何かを護るようにする市原が。
「まさか……!」
驚愕するように声を上げる遠藤。
市原の両手の中にはまだプリンが存在していた。
「市原の奴……」
戦力となる遠藤ですら驚愕するあの最新兵器に堪え、市原はプリンを護り抜いていたのだ。
「なんで……」
「嘘でしょ?」
「そんな……」
先程まで勝ち誇っていた女子一同も驚いていた。まさか、あの兵器が市原如きに破られるなんて思ってもみなかったのだろう。
「よっしゃ! 市原、よくやった!」
「市原! お前は漢だ!」
「俺はお前を見直した!」
男子の士気は一気に盛り上がり、勇者、市原に賛辞を送る。
「そんな……馬鹿な」
相川ナナミもそれは予想外だったらしく、いつになく動揺を見せる。
しかし、ナナミだって女子の期待を背負っているのだ。
こんな一個も奪う事も出来ず、引き下がるわけにはいかない。
「市原くん、プリン欲しいなぁ〜。プリンくれたら、私……少しだけ市原くん好きになっちゃうかも」
脅威の攻撃力だ。
しかし、今の市原には効かない。
彼は今、神となろうとしているのだ。
悪魔なんかに挫けるような彼では断じて無い。
「…………」
彼だって好いている相手の頼みを断るのは辛かったはず。
でも、みんなの為に。漢の誇りの為にも、彼は――
「はい」
彼は。
プリンを。
まも――
「わぁー、市原くん、ありがとぉ。少しだけ好きなっちゃったよ」
相川ナナミはプリンを手にしていた。
市原は神にはなれなかった。
でも、とても嬉しそうなのは、彼が愚か者だったからだろう。
市原が敗れてから、次々と他の男子達もやられていく。
相川ナナミの新兵器はアレだけは無かったのだ。リーダー遠藤の対策も追いつかず、次々に同士はナナミの新兵器の前に敗れていく。遂には指揮執っていたリーダー遠藤すらナナミの手に落ちてしまった。
万策が尽きたかに思えたその時だった。
「まったく、何をやってるんだか」
呆れたように呟くのは、相川ナナミのいとこでありながら、小学生界の聖人君子こと、相川ケント。
「ケント」
「面目無い」
「すまない」
「俺達はダメだった」
「お前だけが最後のツナだ!」
「頼む、ケント!」
情けなくもナナミの兵器やられた敗者達がケントをすがるような眼差しで見る。
「しょうがないな。まぁ、見ててよ。僕は小学生差別撲滅委員会の会長だからね。そんないくらナナミが絶世の美少女だとしても、ナナミが美少女だから、デザートをあげるなんて差別、僕が差別撲滅委員会の会長の名に賭けて、撲滅してあげるよ」
まるで何かの名台詞を言う如く不敵な笑みを浮かべるケント。
おお! と男子から期待の眼差しが送られる。
「でも、お前だって、いつも相川にデザート渡してなかった?」
不意に誰かが言った。
「言われてみれば、渡してたな」
「うんうん、渡してた」
確かにいつもクラスの男子全員のデザートが相川ナナミに奪われている。
よくよく考えれば、男子全員奪われているという事は、彼、相川ケントもデザートをナナミに奪われていると言う事だ。
そんな彼の言葉を信じて良いのか?
「ふっ」
ケントは痛い所をジャストミートにつかれたはずだ。
それなのに、彼は余裕の笑みを浮かべていた。
「確かに、僕はいつもナナミにデザートをあげている。別に“奪われている”わけじゃない。そう、“あげている”んだ。僕の意志でね」
そのモノ言いに誰もが希望の光を見た。
思い返して見れば、ケントはいつも興味無さげにナナミにデザートを渡していた。
ただ、普通に彼女が欲しいと言うからあげていた。別に断ろうと思えば断れる。
「おお! ケント!」
「判っていたぜ! お前ならやってくれるって!」
「流石は差別撲滅委員会の会長!」
「超カッコイイッス!」
キラキラとした男子一同の期待の眼差しを一身に受けても、彼の自信は揺らがない。どれ程の自信があるというのか。
そして、彼は鋭い視線を走らせる。
男子総員16名中15名のプリンを奪った悪魔に。
悪魔は満面の笑みで近づいてくる。流石のケントも不敵の笑みは消え、警戒したように悪魔の動向に注視する。
「ケーント」
流石はいとこ。フレンドリーに語り掛けてきた。
普通の男子ならこれだけでどぎまぎしてしまう。
しかし、
「ん? 何か用?」
何気ない普通の反応。
男子から驚嘆の声があがり、女子からも少し驚きの声があがる。
「…………」
ナナミは少し瞳をパチクリさせながら、沈黙。彼女も驚いているようだ。
「うん、ちょっとね」
彼女の視線はプリンへと向かう。それをケントは確認すると、小さく笑みを浮かべる。
「その……プリン。私にくれないかなぁ?」
(出たぁ! 新兵器!)
誰もがそう思った。
クラスみんながケントに注目する。大概の男子はこれで固く固めていた壁を崩された。
しかし、やはり大見得を切るだけあって、彼の反応は一味違った。
「あのさ……確か15人分のプリン、貰っていたよね?」
「え? う、うん」
まさか問い返されるとは思ってなかったのか、少し戸惑いながらもナナミは答える。
「ふぅん」
意味深に頷くと、ケントはニヤリと笑う。
そんなケントに少し不気味に思ったのか、ナナミは警戒する。
「ナナミはいつも僕らのデザートを貰った後、女子のみんなに配っているね。そして、必ず余る一つのデザートはナナミのモノとなる」
「……?」
クラス総員31名。男子16名。女子15名。
女子全員に配っても必ず一つは余る。その一つ余るデザートは男子からデザートを奪った勲章としてナナミに与えられる。
しかし、だから、それがどうしたというのか。
クラスみんな、怪訝そうにケントを見る。
ケントはまたも口元をニヤリとさせる。
「知ってる? デザートって意外とカロリー高いんだ。よく肉の方がカロリーが高いって勘違いしている人がいるみたいだけど、実際は肉の脂がカロリーが高いだけであって、肉自体にはそんなに高くない。寧ろ、脂肪を燃焼するのに必要なたんぱく質が含まれているからちゃんと食べた方が良いんだ。でも、お菓子は違う。お菓子には、塩分や砂糖とか色々カロリーが高いモノが含まれている。ナナミの好きなポテトチップスだって塩が袋の内側にたくさんついているだろう? そのプリンだって、甘ったるいキャラメルや生地にたくさんカロリー高めの塩や砂糖がたくさんたくさん入っているんだ」
全て言い終えるとケントは様子を見るようにナナミに顔を向ける。顔はイヤらしいくらいな笑みを浮かべている。
「何が言いたいの?」
ナナミはケントが何が言いたいのかわかっている。わかっていても引き下がるわけにはいかないのだ。
「いやいや、別に言いたい事はありませんよ。“ただ”、自分のプリン一個、貰った一個、更に余った一個……三個も食べるとなると」
「だから……何が言いたいの?」
いつもの甘えモードを解いて素で尋ねていた。そこまでナナミは追い詰められているのだ。
クラスみんなが息を呑む。まさかこんな展開になるとは誰も想像しなかったのだろう。
そして、ケントは告げる。
女性にとっては禁句とも言えるワードを。
ケントは告げる。
絶世の美少女と言われる彼女、相川ナナミ相手に。
「太るよ?」
雷が落ちた。
教室に雷が直撃した。
ケントは言ったのだ。
女性が食事中に一番言われたくないワードを、躊躇無く言ったのだ。
これは女子にとってかなりの痛手だ。
太る。彼女らにとってこれは一番嫌な言葉である。
「…………」
「…………」
勝ち誇った表情のケント。俯いているナナミ。
形勢は一気に傾いた。男子はガッツポーズをし、女子はプリンを苦い表情で見つめている。
それは奪われたプリンが戻る希望の光。
今までにありえなかった事である。通常の男子はいつも護り徹し、自分のプリンを取られないようにするのが常だった。
しかし、ここに新たなスタイルを生み出した者が現れた。
そう、今までの防御スタイルではなく。
攻撃スタイル。
奪われたプリンを奪還しつつも、相手の攻撃を牽制する。
攻撃こそ最大の防御。
遂に初奪還&悪魔に初勝利を手にする神が現れた。
「ぷっ……」
――かに思えた。
ナナミの肩が小刻み震えていた。笑いを必死に堪えるかのように。
「な、なに?」
そんな彼女の様子に狼狽えてるケント。
「ぷっ……」
「くすくす」
「あははは」
周りの女子もつられるように笑い始めた。
男子一同狼狽する。
「な、何がおかしい?」
警戒するようにケントはナナミに尋ねる。
「ううん、ちょっとね」
余程おかしいのか目元の涙を拭う。そして、不敵な笑みを浮かべ、口を開く。
「確かに、デザートを3つも食べると太るよ。でも、それは何もしなかった場合……でしょ?」
「ん?」
何やら意味深な言葉を吐くナナミ。
(何もしなかった場合……?)
ケントは怪訝な表情を浮かべる。
(まさか……!)
何かに気付いたケント。
苦虫を噛み締める顔をすると、舌打ちする。
「昼休み、ヤケに女子が居ないと思ったらそういうわけだったのか」
「どういう事だ? ケント」
まだ状況把握しきれてないリーダー遠藤と他の男子がケントに尋ねた。
「あ、うん。遠藤、思い出してみて。昼休み、彼女達がどうしていたかを」
ケントはそう答える。
「女子がどうしてたか……?」
「そういえば……最近、教室で見掛けないなぁ」
「俺、体育館で見掛けた気がする」
「俺も俺も! 確か、バレーしてた」
「バスケもしてたぞ!」
「おい! って事は、まさか……」
男子一同、冷や汗を掻く。
「うん、彼女達は運動して食べた分を燃焼してたんだ」
ケントは苦々しい表情で結論を告げる。
勝ち誇った表情を浮かべた少女達。
それはプリンを取り戻す希望の光が潰えた瞬間だった。
「糞……折角、俺のプリンが戻ってくると思ったのに」
「畜生、姑息な奴らめ。運動してまでも俺達のデザートを奪うのか」
「もう、終わりだ。俺達が相川に勝つなんて無理があったんだ」
男子には諦めムードが漂い出す。
そんな時、声を上げたのはリーダー遠藤。
「おい! まだ勝負は終わっていないぞ。確かに俺達のプリン奪還は失敗した。でも、それがどうしたっていうんだ! 元々、返ってくるモノじゃなかっただろう? ケントが俺達の為に奪還を試みようとして、失敗しただけじゃないか! 俺達の当初の目的は相川ナナミからプリンを護る事! ケントを見ろ! 奴はまだプリンを持っている!」
確かに、ケントは確かにプリン奪還は失敗した。
しかし、まだプリンは奪われていない。
つまり、それはまだ勝負がついてないという事。
そう、彼にまだ初勝利の可能性が秘めているという事だ。
「おお、そうだ! まだ、ケントはプリンを持っているじゃないか」
「奴は俺らに気を利かして、プリンを取り戻そうとしてくれただけで、まだ勝負に負けてない!」
「そうだ! 奴にはそんな余裕があるんだ! プリンを護るくらい楽勝のはずだ!」
「おお! ケント! ケント! ケント!」
「「「ケント! ケント! ケント! ケント!」」」
ケントコールが鳴り響く中、さっきまで瀕死状態だった男子の士気が一気に盛り上がる。
それには女子達も狼狽してしまう。
相川ナナミも男子の急激な盛り上がりに狼狽える。
そんな中、冷静さを保っている人物が居る。
それは、コールを受けている彼。
相川ケント。
「…………」
そんな冷静さを見て、ナナミは冷や汗を垂らす。
まだ勝負はついていない。
確かに敵の攻撃は封じた。
だからといって、他に策が無いというわけではない。
相手は小学生界の差別撲滅委員会の会長であり、聖人君子だ。
侮れば、足元をすくわれる。
全力で、迅速に勝負をつけなければ。
先手を取ったのは相川ナナミ。
「ケントぉ、私、プリン欲しいなぁ」
上目遣いに甘え声。
確かに攻撃力は高い。
しかし、所詮は使い古した手。
彼、相川ケントには通用しない。
「…………」
涼しい顔をしてシカトだ。
おお! と、男子から感嘆の声、女子からは悔しそうな声があがる。
しかし、これで終わるナナミではない。
「ケ・ン・ト〜。ケントって、結構、カッコ良いって前から思ってたんだぁ〜。もし、プリンくれたら……す、……好きになっちゃうかも」
赤面もじもじ。
男子は血を吐いた。女子はキャーと叫んだ。
先程の攻撃力を数倍に上回る威力だ。
「ぐっ……!」
流石のケントも揺らぐ。
しかし、彼も意地がある。
「ふ、ふぅん、でも、“かも”でしょ?」
かも。
そう、ナナミはいつも好きの後に『かも』をつける。
自身の保身の為に。
それを指摘する事によって、『好き』攻撃を封じる。
男子からまたも感嘆の声が上がる。女子からも感嘆の声があがる。
ケントはナナミ攻撃を完璧に封じる。
「じゃあ、好きになっちゃう」
封じる。
封じるはずだった。
「だからぁ」
ナナミは上目遣いでケントを見る。
「プリン……くれるよね?」
ケントは知っている。
ナナミがいくらこんな可愛い顔で自分を見ても、甘い言葉を吐いても、それは全てプリンを得る為の演技だと知っている。
だから、頷いてはならない。
頷いては――
「うん」
「わぁ、ありがとう! ケント、大好きぃ! じゃ、プリン貰っていくね!」
そう満面な笑みを浮かべるとナナミはプリンを持って友人達の所へ去っていく。
「…………」
残されたケント。
絶望した男子達がケントの周りに集まる。
「どうして?」
「なんで、プリンあげたんだよ!」
「折角の初勝利がぁ……」
絶望した彼らはケントを責める。
「まぁ、待て。ケントだぞ。あれだけ攻撃力の高いワザを堪えてきた奴だ。あんな好きになるという言葉でやられるような奴ではない。きっと、策があるに違いない」
リーダー遠藤が宥める。
「そうか!」
「そうだよな」
「疑って、すまん」
「よし、その策とやら訊かしてくれ」
「なんでプリンを相川に渡したんだ?」
「なんで頷いたんだ?」
男子みんなからケントへと期待の眼差しが向けられる。
そう、それは次の戦いの勝利への希望。
彼はなぜ頷いてしまったのか。
何か策でもあったのか?
頷いたら見返りなんて無い上に彼女にプリンを奪われる事はわかっていたのに。
どうして?
なぜ?
「だって……かわいかったんだもん」
所詮、こいつも愚かな男子のひとりに過ぎなかった。
P.S
「思ったんだけど、先にデザート食べれば奪われないで済むと思うんだけど」
「それに気付かないんだよ、うちの男子は。馬鹿だから」
馬鹿馬鹿しい作品を最後までお読みになって下さってありがとうございます。
読んで判っているとは思いますが、プリン戦争です。
面白かったら幸いです。