毎年続く春の一日
全員部活に参加が義務付けられた学校の部活動に馴染めない4人が繰り広げる部活動。
今日は、司と由宇の二人だけ。
会議用の長机。
場所はいくらでも空いているのに足がいつでも届く距離の対面に座りあっている。
司は黙々と手紙を読んで分別している。
由宇は左のほほを机に直接置きながらその様子を黙って見ている。
「「……………………」」
「なあ。」
「なに?」
「二人遅いな?」
「そうね。」
「「……………………」」
「なあ。」
「なに?」
「この部活の名前知ってる?」
「『主に会話で成り立つ世界』だっけ?」
「おい部長!それで合ってるけど部活の名前くらいは覚えろ。名目は『戦争・テロなど暴力行為に頼らず、外交などの会話をする努力で世界を平和にする事を模索する部活』だよな?会話はどこへ行った?」
「部活を設立するのに、そんな名目を付けたのあんたよね?」
「部活作るにも、生徒会を納得させる名目が必要なんだよ!」
「それで?結局何が言いたいの?」
「なんか、話そうぜ。」
心底うんざりした顔をされた。
普段のキリっと整った顔がここまで崩れる顔芸も『残念美人』の由来の一つだ。
「あんたとあたしで用事以外に、何か会話する事あるの?」
「………無いな………」
「分かればよろしい。あたしは忙しいの。」
「もしかして、いつものか?」
「今は春よ。もしかしなくてもいつものよ。」
「桜の花が葉っぱに変わる頃には皆分かるだろうけど、顔が良いのも大変だな?」
「スタイルも良いけどね!」
胸を反らして自慢する司に胸の膨らみが強調される事は無かった。
スレンダーな8頭身美人なのは認める。
なんの努力も無しにこの美しさ、一目見てつく時の仇名『天然美人』の由来の一つだ。
司が部活に参加出来ないのは、サークルクラッシャーだからだ。
部活の男女関係をことごとく破壊する。
女子だけの部活に参加しても、持ち前の運動神経でレギュラーを勝ち取る。
だが試合会場で他校生から告白されまくり、試合に遅れ不戦敗の連続。
部活内の雰囲気は最悪になり、人間関係を破壊する。
怪獣のように全てを破壊する『ゼットン』の仇名がついた由来の一つだ。
「人に話し掛けておいて、あんたも黙ってるじゃない?」
「すまん。少しお前のスタイルに見とれていた。」
「あー。はいはい。あんたの嘘はすぐ分かるから。」
「それで、何人生き残った?」
「駄目ね。下駄箱、机の中、ロッカーの中は全て廃棄。勝手にカバンの中に入れたのも廃棄。友達を連れて複数人で来た人もお断り。今年は一人で告白に来た勇者はゼロ。手紙も一人で直接持ってきた人の分だけを読んでいるけど、名前なしの呼び出し状ばかりだったわ。」
「あたしの外面以外も好きになってくれる人が現れると良いんだけどね……」
「おまえ、それは地球人が宇宙怪獣に…………」
「二人も来ないし、そろそろ帰ろうか?」
立ち上がる時に、司は由宇の右足の小指を自分のかかとで踏み抜く。
由宇は激しい痛みで声も出ない。
「ほら、どうしたの?帰るわよ?」
「お前は、鍛えられない所だけを的確に狙ってくるな!」
「だって。あんたが筋肉の鎧をまとったから、弱い所を狙わないと効果が無いじゃない?」
春。二人きりだと毎年毎年、会話も行動もあまり変わり映えがしない。
毎年繰り返す二人きりの春の一日が終わる………のは寝る寸前だったりするのは別の話。