14話 号令を下すだけでも、すごい評価をもらえるおっさん
明くる日。
異世界で迎える初朝、正確には15時間の異世界生活が経った頃。
「アシェリート様。今回の戦果はお見事でした。スタインの豚王子と揶揄されていた貴方様の見方もきっと変わっていくでしょう」
陣を引き払い、整列した軍隊に見守られて俺とクレアさん、そしてヒカリンの三人は馬上で並び立つ。
「ご覧になって、感じてください。兵達がアシェリート様を見る目を」
その数は1500若干名。
みんな、昨日の大変な戦いを共にした仲間だ。精悍な顔つきで俺達を見ている。主にその視線はクレアさんとヒカリンに向けられるものばかりだが……ちらほらと一緒に負傷兵を助け出した兵士の顔ぶれもあったので、つい手を振ってしまう。
すると驚いたような顔をして、すぐに頭を下げてきた。だが、顔を上げた時には口元はゆるみ、目は細められている。
その小さな笑顔に親しみをほんのりと感じた。
「民を率いる者としての責務を忘れずにお願いします。以前のように調子に乗って愚行に走ってはいけません。もぎ取りますからね?」
ど、どこを!?
隣でつらつらと怖い事を述べてくるクレアさん。
「きっと父君も貴方様の功績を喜ばしく思っておいでてしょう。胸を張って凱旋いたしますよ。『黄の冠位者』、『終末を呼ぶ黄昏』も付いていると知れば、父君は大喜び間違いなしでしょうね」
そう言って、クレアさんは眼前に並び立つ多くの兵士達の前で馬を止める。俺も釣られて止まっておいた。
「アシェリート様、ささ帰還の号令を」
え?
この人数を前に俺が命令するの?
「愚図豚みたいですよ、アシェリート様」
小声で悪口を言ってくるクレアさんは、ロリエルフという見た目とは恐ろしくギャップのある人だ……。
と、とにかくこれ以上、大勢の視線が俺に注目しているのも心臓に悪い。あぁ、こんな時に視聴者がいれば心強いのに……今はいない戦友たちのありがたみを痛感してしまう。
とにかく、プレッシャーから一早く開放されたい俺はできるだけ大声で叫んでみる。
「みっみな! き、き昨日は良く頑張ってくれた! 引き続き、が、凱旋までの道のりを頼む!」
すると、兵士達はぽかーんとし始めた。
「えらい謙虚になったもんだ」
「昨日は最前線で指揮を取ってたらしいぞ」
「あのブタ王子が!?」
「負傷兵を自分の手で運んでいるのも見かけたな」
「おいおい、あのブタ王子がか!?」
「戦争で人が変わっちまったのか?」
「どっちにしろ、俺はこっちの方がいい」
「ちがいない」
と、少しざわついたあと……。
大地が震える程の雄叫びが上がった。
あまりにも大きく迫力のある大音声だったため、それが俺の命令への返事だというのにしばらく時間がかかった。
「おじさん、人心掌握術がうまいね」
なんてニッコリと笑いかけてくるヒカリンに、思わず溜息が出てしまう。
そんなんじゃない。
元の評判が最悪だと、何をしてもいい方向に捉えてくれるものなのだ。
それに、道中の安全を心の底から祈っただけだ。現実で芽瑠が待っているのだから、こんな所で死ねない。
「そんな事ないです。大勢の前で喋るのは、緊張します」
だから正直に答えてみると、
「おじさん、なんかじわる」
と言われてしまった。
んん?
いじわる……? 俺のどこがいじわると感じたのだろうか?
……確かに彼の有名なヒカリンに色々と教えてもらっている立場でありながら、さっきのは良くない対応だったのかもしれない。特に溜息のあたりか?
ヒカリンにはもう少し優しく接するべきなのかもしれないな……。
じわる → じわじわくる(面白い・ウケる)
イラストはお友達の佐藤賀月さまより描いて頂きました!
ヒカリンです。
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