12話 チャンネル登録者が爆増するおっさん
ヒカリンとひとしきり驚き合った後、彼女はすぐにスマホでの配信を辞めるように言ってきた。
「ぷんぷん、そう言う事は早く言ってくれないと困るよおじさん」
彼女曰く、他のユーチューバーに俺の状況を見られてしまうのは不利に働く可能性があるそうだ。今はユーチューバーもこちらにいるから、配信を目にする事はできないけれど、チャンネルに動画を保存せず削除するようにと念を押されてしまう……。再生数が伸びそうなので、ちょっともったいないと思ったが命が関わって来るので仕方ない。
「あれ?」
「ぷんぷん、何かな?」
「スマホの電源が切れてる……表示だと充電は80%以上あったはずです」
「んん……あ、そっか。0時から4時まで私達は『ユーチューボ界の闇』にいるわけで、4時間以上こっちでの録画はできないんだね」
「なるほど……24時間利用できるわけじゃないのか」
「そうだね。4時間以上配信できたら、現実世界でおじさんの意識がもどってない事になっちゃうし? 配信も6倍速になっちゃうんじゃないのかな」
「ふぅん……」
『ユーチューボ界の闇』と現実を、4時間だけ共有できるのが俺の能力だと考えればいいのか? 視聴者の反応はリアルタイムだったわけだし。
いやしかし、それだとおかしい事になる。配信を4時間して、その後も俺はこの異世界に居続けている。これから18時間異世界にいたとして、日本の時間では1秒も経たずに朝の4時に目を覚ますっておかしすぎないか?
『ユーチューボ界の闇』が単純に、現実世界より時間の流れが6倍早いって事ではない、のか……。
その辺をヒカリンに聞いてみると、『最初はもっとこっちの世界にいる時間は短かったの。それがどんどん長くなってきて、その辺の時間差については未だ解明されてない謎なの』と、一蹴されてしまう。
そうなると……時間のズレという説明がつかない以上、視聴者や現実世界の世間様に、『ユーチューボ界の闇』が実在するという事実を納得させ辛いのではないだろうか。
なんだか腑に落ちない要素は多々あるが、ここはそういうモノだと思って割り切っておくか。この世界には色々と未知数な点があって、その辺の解明は他の熟練ユーチューバーさんに任せよう。
まず『ユーチューボ界の闇』に上手く順応していく。それを最優先に生き延びなくては……。
13ポイント、おっと……16ポイントになったステータスポイントをどのように振っていくのかが、今後の生死を分かつ重要な分岐点だ。
「そろそろ夜だし戻ろっか。天幕へ」
ヒカリンにそう促され、俺はポイント振りに頭を悩ましながらクレアさんが指揮する陣地へと降りていった。
チャンネル登録者が1万6000人まで増えた事実を喜ぶより、生き残れるか心配でちっとも嬉しくなかった……。みんな、こんな不安と戦いながら日々動画を投稿しているのかと思うと、胸の奥にじんわりと来るものがあった。