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11話 世界を変革せしおっさん



「チャンネル登録者が多い人はそれだけステータスを強くできて、逆に少ない人は弱いの。この世界じゃ生き残れないって事。おじさん、わかる?」


 いや、言ってる事は理解できるが……。

 冷や汗が背中を伝う。



「ほら、ステータスって念じれば自分のポイントが感じられるでしょ?」


 言われるがままに念じると、確かに脳裏に3ポイントという数字が浮かびあがった。


「ユーチューボのチャンネル登録者1000人につき1ポイントもらえて、各ステータスへ自由に割り振れるのが私達の特権なの。これで自分を強化してこの過酷な世界を生き抜くんだよ」


 って事はヒカリンさんは登録者600万人以上なわけで、ステータスに振れるポイントも6000あるのか!?

 俺、3ポイントしかないんだが……。


「体力・魔力・攻撃・防御・素早さ・色力(いりょく)の六つの項目に振っていくの。この異世界での成人のステータス平均値はだいたいオール10ぐらいだから、全部で60ポイント前後なんだよね。チャンネル登録者30万人のユーチューバーでも300ポイントあるから、常人の5倍も強いってこと」



 それならどのユーチューバーもこの世界では英雄並みの力を持っていると言ってもいい。

 30万人以上のチャンネル登録者がいればの話だが……。


「この事を早く教えたかったの。じゃないと、自分を強化しないと危険でしょ? ほら、自分のステータスを念じてごらん?」


 ステータス……と思い描けば、確かに自分の能力値らしいイメージが浮かび上がる。




【アシェリート・シュバルツ・ハッシュトスタイン】

【人族】


体力3

魔力42

攻撃3

防御5

素早さ1


色力

赤0 青20 黄0 緑0 紫0 黒0 白0


 と脳裏に浮かぶ。



「魔力が42?」


「当たりキャラだね。はぁー『神精(しんせい)取り換え子(チェンジリング)』はめぐまれてる。その42ポイントって、『神精の異端児』からしたらチャンネル登録者4万2000人分だよ。私なんかオール7だったのに……色力(いりょく)なんか黄以外0だったし」


 そうか、取り換え子(チェンジリング)の方は元の人物によってのステータスがあるわけで、異端児はそれがないのか。僥倖ではあるけど……最低でも他のユーチューバーは300ポイントも持っていると思うと憂鬱だった。



「しかも生まれが人間種の貴族様ってなかなかないよ。他の『取り換え子(チェンジリング)』って、孤児院育ちとか盗賊団の子だとか、魔物って人達もいたからね。でも最初から権力を持ってるからって油断しちゃダメ。チャンネル登録者が減ればステータスもランダムで低下するから」


「は、はい……人外の方もいるのですか……」


 油断などできようもない。

 俺は絶対数が少ないのだから。



「色々と戸惑う気持ちもわかるけどね、おじさんもこっち側に存在するようになったんだから、覚悟と信念を持って欲しいの」


「……覚悟?」


「うん。ユーチューバーってさ、よく何のためにユーチューボやってるんですか? って聞かれるでしょ」


 それは有名ユーチューバーだけの話で、よくそういった質問をされているのを目にしてきた。なので一応は頷いておく。



「私がどうしてユーチューボをやってるかと言えば……そんなの、世界を救うために決まってる」



 ぴい。

 真顔で朗らかな笑顔を浮かべているヒカリンには悪いが、それは信じられない。そもそもユーチューボをやる事がどうして世界を救う事に繋がる? 素直に金のためだと言われた方がまだ納得いくのだが。



「おじさんも、できたら私と同じ信念を持って欲しいの。なにせ私の弟子になるわけだし?」


 いや、あんた。

 企業案件ばっかりで商品紹介の動画を出しまくってるだろ。

 ユーチューボは金のためなんじゃないのか?



「そんな白々しい台詞をよく言えるなって顔してるよ、おじさん?」


「ッッ」

 

 図星を突かれてしまう。


「わかるよ。でもここに来てしまったなら、理解して欲しいの」


「……何を?」



 ほんのわずかだが、ヒカリンの顔が陰る。だがそれは勘違いだったと思えるほどに一瞬で、彼女はすぐに笑顔になった。


「この『ユーチューボ界の闇』と現実世界は繋がってるの。この異世界で人が死ねば、現実世界でも人が消失してしまう」


「う、ん?」


()った設定だな』とか『面白いシステムですね』とか、視聴者(リスナー)のコメントが脳裏に流れていくばかりで、俺はいまいちヒカリンの言っている内容を噛み砕いて飲み込めない。



「『ユーチューボ界の闇』と現実には、それぞれが互いに呼応している生物がいてね。魂の繋がりって言えばわかりやすいのかな。繋がっている誰かが死ぬと、現実世界でも消えてしまうの。最近、失踪事件が多いと思わない?」


「何を……言っている?」


「例えば異世界にAという生物がいて……その生物Aと現実世界のB君は繋がっています。生物Aが死んでしまうと、現実世界にいるB君は消えてしまう。そういう事なのだ」


 失踪って……そういえばヒカリンはちょうど1年前からこのユーチューボ界の闇が発見された、と言っていたじゃないか。ちょうど俺の両親が消えてしまった時期と被る……この異世界が原因って事なのか?

 


「何が誰と繋がっているかは残念だけどわからない。けれど一つだけ確実にわかっているのは、この異世界でユーチューバーが命を落とすと、現実でもそのユーチューバーは消えて無くなるよ」


 それは……やっぱりそうか、としか言えなかった。

 戦場での痛みや間近に迫った死を感じてきた以上、なんとなくだが納得できる。だが、やはり信じ切れない点もあった。



「それは本当なのですか?」


「何人もの犠牲を出して、この世界で足掻(あが)いているユーチューバーがやっと手にした事実だよ」


 ヒカリンの金眼がサッと伏せられる。


「……私は身を()って体験した……」


 太陽が落ちる彼方へと顔をそむけた彼女の表情は見えない。ただ、ヒカリンの輝かしい金髪も、今は沈みゆく陽光に照らされ大きな影が伸びていた。

 大切な誰かを失ったのだろうか?



「一部の連中に行われた実験によっても……証明されてるの」


 実験とは……ユーチューバーによる実験? 気にはなったけど、どんな実験だったのか聞きたくなくなった。

 ヒカリンの声が少しだけ震えていたのだ。


 しばらくは互いに無言で、ただただ遠くを見つめ続けた。

 そんなバカバカしい話はあるはずがないと一蹴する事なんてできなかった。


 ここまで俺が体験してきた殺し合いは間違いなく本物で、ここにいるヒカリンも実在している。



「だから……」


 ふとヒカリンが俺の方へと顔を向けた。


 彼女の目は心なしか潤んでいるが、ここは気付かないフリをして耳を傾けるのがベストなのだろうか。


「なるべくこの『ユーチューボ界の闇』で命を守ったり、救ったり、多くの生命がなくならないように行動することが、現実世界の人間を救うことになるの」


「そうですか……じゃあ、何故さっき傷を負った兵士達を放っておこうとしたのです?」



「小を殺して大を生かす、だよ。あの戦場は、まだ目覚めたばかりのおじさんにとっては危険だったの。もちろん大天才である私が傍にいれば万が一はないけど……色々と早く知って欲しかったの。世界の在り方を理解できる、知り得て行動を起こせる『新調律者(ニューチューバー)』にリスクを背負わせたくなかったって点で、私も少し焦ってたかな?」



 それに、とヒカリンは人差し指を立てた。


「あとは、おじさんが何をしでかすのか興味があったかな……どんな人間性なのか知りたくて」



「なるほど。俺の命と観察を優先したってわけですね」


「そう。もう一度言うけれど、私がユーチューボをやる理由は少しでも世界の人々を救うためだよ」


 まっすぐに俺を見つめてくる嘘偽りのない眼に、少しだけたじろいでしまう。




「お金目当てなら、もういらないぐらい稼いじゃってるよ」



 えへへと嫌味なく、歳相応の少女らしい笑みでヒカリンは肩を震わす。



「私が必死になってユーチューボに動画を毎日投稿し続ける理由は、チャンネル登録者を減らさないよう、増やしていって……ここでの私の力を強くするため。そして世界を救えるだけの力を手にするため」


 俺が酒におぼれて抱いた疑問、どうして億以上稼いでいるヒカリンが毎日投稿を欠かさず行っているかという、その答えが……まさかこんな内容だったなんて。


「もちろん、ここで……現実で生き残るためでもあるよ」


 こんな、大人にすらなっていない女子高生の細い肩に、どれ程の重圧を背負ってユーチューバーをやっているのだろうか。俺には想像もつかない。

 彼女が明るく振る舞えば振る舞う程、痛々しく映ってしまうのは俺がおっさんだからだろうか?



「私は恵まれてるから、世界を救うなんて思いがあるの。他のユーチューバーの中には、この過酷な世界で死なないように、毎日ユーチューボに動画投稿を死に物狂いでしてる子達もいる」


 俺と立場が同じようなユーチューバーもいるのか。というか、登録者30万人いても命が危うい『ユーチューボ界の闇』って、やばいんじゃないだろうか。



「異端児に取り換え子(チェンジリング)……ここに来てるユーチューバーの思想や立場は様々。最低限の共通ルールはあるけれど」


「はい……」


「この世界で強大な能力を持つユーチューバー同士で争ったりもしてるの……日本じゃ0時から4時は寝入ってしまう。そのルールを突いて、異世界では殺せない相手でも、現実で眠っているところを狙い、協力者に殺させる。なんて事もありえるから……『入れ替え子(チェンジリング)』は現実での見た目が違うから住所特定されにくいけど、バレない様にね」



 怖すぎる。

 だが……この『ユーチューボ界の闇』を知ってしまった以上、そうまでして守りたい者、殺したい者が出てきてしまうという事なのだろう。



「この異世界の全ての生物と現実世界の人間が繋がってるわけではないからね……そこはちょっと安心できるけど、誰が消えるかは完全に運任せって状況だよ」


 村人Aが死ぬと、現実では誰かが消えるかもしれないし、消えないかもしれない、という事だろう。

 唯一、繋がりが完全にハッキリしているのはユーチューバーだけ。



「この事実を世界は……現実世界の人々は知っているのですか?」


「有名ユーチューバー以外、知らないよ。こんな異世界があるなんて言い出しても信じてくれないし、下手したら精神病棟行きだよ」


「一部のお偉いさんとかも?」



 総理大臣とか国防長官とか、経済産業省とか……政界の著名人や影響力の強い官僚など、国の指針を決める人間が知っているのなら対策が()られるのでは? 

 人口の消失は国の損害だろうに。



「うん、今のところ信じられる根拠がないから。誰もこの異世界があるって証明できる何かを持ってないんだ。だから暗黙の了解として、この異世界の事は一部のユーチューバー間を除いて秘密にしてる」


「……どうしてですか?」


「お偉いさんが把握して、国民の受け入れられる体勢が整ってなかったら、日本のみんなはパニックになっちゃうでしょ?」


 それもそうだ。


 貴方がたは異世界の誰かと繋がっているかもしれません。その人が死んだら自分も消えるかもしれません。手出しできるのは有名ユーチューバーだけです、なんて政府が公式に発表したら最初は馬鹿らしいと思う人々も……周りの人間がある日突然消え出したら信じる他ないし、恐怖でパニックになる。

 しかも、いつ消えるかわからないのなら、真面目に生きる意味なんてない。好きな事をして、仕事を辞めて、犯罪に手を染めてしまえ! という思考を持つ者が増えるかもしれない。



「……もし、この異世界を撮影なり録画できて、それをユーチューボで配信できる奴がいるとしたら?」


「そんな能力の持ち主は今まで一人もいなかったけど、いたら凄い事になるだろうね」


「どんな風にです?」


「具体的にはわからないけど、世界は……『ユーチューボ界の闇』も動き出すだろうね! ほんとうに様々な勢力が、それぞれの目論見を持って活動してるから」



「じゃあ……世界は動き出すかも?」


 悪い方か良い方か、それはわからないけれど……俺よりも権力のある奴らが事実を把握して早急に対策を講じるべきだろう。こんな女子高生一人が、ユーチューバーだけが背負うには重すぎる案件だ。



「いや、だから生配信してるっぽいんです。この光景を」


「え? それが君のスキル?」

「ええと、俺にもよくわかってないです」


 ぽかんとするヒカリン。



「なに、おじさん……あっ、私これでもおじさんの師匠なのに、頼りなく見えちゃったかな? ここにいて悲しい事もあったけど、楽しい事だってたくさんあったよ。だから気を使って、面白い冗談なんて言わなくていいんだよ」


「え」


「でも、ありがとう。おじさんって優しいんだね」


「いやいや、冗談じゃなくて本当なんです。ほら、スマホよ来い」


 そういえばこのスマホって宙に浮いてると他人から視認できない物だったなと気付き、手に取ってヒカリンに見せてやる。



「え、これてってスマホだよね?」

「はい」



 画面には、


『ヒカリンちけえええwww』

『ガチでヒカリンとのコラボ?』

『なぁ、これって本当にゲーム配信なの?』

『さっきの話、妙に信憑性があったりしますよね』


『この1年で、失踪事件が急増してるよな』

『そろそろ配信されてから3時間50分ぐらい経つけど、4時間経たずに配信切れたら怖いな』


『つまりは、誠な内容であれば戦乱の世に様変わりであるな』


『いやいや、さすがにそれはないっしょ』

『でも、こんなゲーム出てたら話題にならない?』

『それな』



 視聴者のコメントが大量に流れていた。

 そんな画面を、スマホを食い入るように見つめていたヒカリンは、

 


「えぇぇえぇぇえええええ!?」


 絶叫を藍色の空に響きかせた。


「ん!?」


 そして、俺の驚愕が続く。


 ヒカリンとのコラボ、という話題性が人々の注目を集めたのだろうか。

 視聴者数が1万人以上、チャンネル登録者も1万人を超えていた。

 



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