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五話目


「あー、おはよー…藍哉…」


「おう、おはよう…?」


私が机の上でぐだりながら挨拶をすると、藍哉は疑問符を頭のうえにいっぱい浮かべながらも返してくれた。あいつは意外と良い奴である。まだ出会って1週間程しかないけれども。


私がこうなっている原因は有紗である。


昨日の帰り道、いつものように藍哉と私の関係を邪推する有紗が、何故か怒り出してしまったのである。

何でも「莉奈はいくら心配しても意に介さない!もういいもん!」とか言って。


そして、今朝「今日は学校休む」とだけ連絡が来たのである。

有紗の家に電話をしたら有紗は朝から部屋にこもって出てこないのとのこと。

完全に怒らせてしまった…と、猛反省中である。

だかしかし、私はいくら有紗が怒ろうとも恋愛など一切する気はない。

だから、藍哉との関係を邪推してくれれば良かったのだが…まあ、仕方あるまい。


とりあえず、学校が終わったら適当な菓子折りを持って有紗の家に行こう。



そうして、授業が始まったのだが…


当てられた質問は全問不正解。

体育ではよろけて何度も転び。

先生からもクラスメイトからも物凄く心配されてしまった。






「あーうー…藍哉ぁ…」


5時間目。

有紗のいない学校生活がここまで大変とは…私は有紗がいないとホントに何も出来ないのかもしれない…。


「お前なぁ……お前の方がやばくないか?………ん?」


藍哉にへるぷを求めると、意外にも応じてくれた。

ホントにこいつ良い奴なんだな…


だが、

藍哉はサッと顔色を変えると、そそくさと教室を出ていってしまった。

どうしたのだろうか。


こっそり気配を絶って、藍哉の後をついていくと、アイツは屋上前のフロアで何やら電話をしているようだった。

そこで、私の頭は藍哉の言葉で真っ白になった。


「井上有紗が攫われた?」





「っ!?!?」


私は咄嗟に藍哉の元へと走る。


「どういう事!?」


「っ……何で来てんだよ…」


「何でじゃない!どういう事!有紗が!どうしたの!?」


「…部屋からいなくなったって。篠葉さんから、連絡が。母親はドアから出てないって言うし、部屋はめちゃくちゃに荒らされてて、窓が割れていた。」


「……きゅう、けつき?」


「恐らくな。……来るのか?」


「…私なりに探す。」


不可視の術をかけると、屋上の扉を開ける。


「は?まてまて、流石に自由に行動されると…知らない奴がお前を犯人だと思うかもしれないし…」


「知らない。片っ端からのしていけばいい。有紗を助けるのにほかの事を考える理由なんてない。」


藍哉がなんか止めようとしてきたけど、無視して言いたい事だけを言う。

目だけ戻して、街を見渡す。

家、家、家、家……。

有紗は特有の雰囲気を持っているから、恐らく遠くからでも分かるかもしれない。


見つけた。


「あそこの廃ビル。」


私は藍哉にそれだけ言うと、屋上から飛び降りてそこへ向かった。







後から藍哉が付いてきている感じはしない。

恐らくこの拘束具には居場所を探知させる効果もあるだろうから、大丈夫だとは思うが。


廃ビルの屋上に辿り着き、そのまま床をぶち抜いて五階に降りると、そこには。


「…はぁ?なに、だれ?」


5人の男。1人が、有紗を、不躾に持っている。


「有紗を、返して!」


「ははっ?なに。助けに来ましたよーってか?…無謀なお嬢さんだぜ」


「うっわ、うぜえやつじゃん」



私の言葉に男達は笑う。げらげらと。何がおかしい。

男達の目は真っ赤。間違いなく吸血鬼。

だけど、何かがおかしい。


「哀れな“吸血人ブロード”か」


「はぃ?何ですかー?」


吸血人ブロード”。それは簡単に言うなら吸血鬼の創り出した不完全な吸血鬼。吸血鬼は人間を吸血鬼にする事が出来るが、それはあくまで対等な関係としてだ。しかし、吸血人は違う。吸血人は吸血鬼の下僕。一から十まで吸血鬼に支配された存在だ。


「さっさと有紗を返しなさい。死にたくなかったら。」


「るっせえよ、小娘。こいつはマスターの所に連れていかなきゃなんねぇんだ。手前なんかに渡せるかよ。」


「マスター?なるほど、それがあんた達をそうした吸血鬼ってわけね。」


「ふぅん…何も知らねぇ小娘って訳じゃねぇんだな。」


「もう一度いう。殺されたく無かったら、有紗を返しなさい。」


「はっ。たかが小娘に吸血鬼になった男5人が負けるとでもぉ?」


「吸血鬼…?ホントに哀れな人達ね。あなた達は吸血鬼のなり損ないでしょ?」


「…は?何言ってんだ?まあいい。死ね!」


5対1。

普通に考えたら無理のある戦い。

だけど、たかが吸血人が──吸血鬼に勝てるとでも?



「再三忠告はした。これから起こる事はあなた達の自業自得よ。」


「ははっ!」


5人のうち3人がこっちへと切りかかってくる。

手に持っているのはただのナイフ。そんなもので殺せるわけがない。


一人目は殴殺。二人目は扼殺。三人目は斬殺。


私が淡々と殴り、締め、切るのを見た。もう二人は、さっと顔を青くする。


「なっ…てめぇ、なにしやがる…!」


だが、有紗を持っていた男が笑った。


「はっ…そういえば…このお嬢さんを助けに来たんだよなぁ?」


そう言って有紗を持ち上げる。

有紗はぐったりとしてて、無理矢理首根っこを掴んで持ち上げられたのに、されるがままで意識は低迷しているようだった。


「このお嬢さん。なんか特別なんだろ?吸血鬼に関わる特別な事…つまり、血がよ?」


そいつは、有紗を持ち上げて、首筋に──


「っ。あ、ぁぁぁぁぁっ!?」


私は地面を蹴り、擬態することも忘れ、魔力もだだ漏れになりながら、その男に全力で殴りかかった。


だが、男はそれを予測していたように、魔力障壁を展開する。


「あ、がっ?!」


私は衝撃をもろにくらい、もんどり打って壁にぶつかった。


「ははっ、ご大層なことをするなぁ。なんだ、お前さんも吸血鬼だったのかい?なるほどねぇ。ならその自信も納得だ。」


私は虚ろになった目で辺りを見回す。

そこで、先程殺した男達が目に入った。

吸血鬼の血は基本的に吸血鬼とって毒になる。

だが、吸血人なら?

そんなまともな思考で動いたとは思わない。



斬殺した男の血を口に垂らす。


つまり、吸血だ。

約2000年ぶりの吸血。

相変わらずその味は気持ち悪かった。


だが、効果はあった。

吸血は吸血鬼の一番簡単なパワーアップの方法。


私の身体が発光したようにも感じた。

実際は魔力が暴発して、身体中から魔力が迸っただけだったのだが。


ブレスレットが血に反応して、意識を失わせようとしてきたが、私の突然増量した魔力によって内部構造が麻痺したらしく、無残に散った。


突然の私の変わり身に、男は目を見張ったが、その瞬間。


「か、ふっ…」


そんな言葉を漏らして、その男の腹は衝撃だけでぶち抜かれ、五臓六腑が飛び出す。それが刹那のあいだで私の漏れた魔力が燃え上がり、その男の全てを焼き付くした。

魔力障壁は私の魔力ももってして簡単に打ち破られたのだった。

そして、先程殺した男達をも焼き、廃ビルは地獄と化した。



私は有紗を抱きかかえ、残った1人の男の方へと視線を向ける。


ぱちぱちと炎が燃え、私の周りだけは酸素を確保するために炎が上がらないようになっている。有紗が酸欠になってしまったら大変だし。そこだけがまともな思考になっている事に自嘲しながら、口を開いた。



「それで?どうするの?」


「う、あ、あ…ぁぁ…」


男はへたりこみ、目を見開いている。

そして、気絶した。


「…そのまんましんじゃえ」


私の手から放たれた炎刃は、その男の首筋へと迫り──弾かれた。




「おいっ!?…っ!?」


上から声がしたので、見上げると、藍哉がびっくりした表情でこちらを見ている。

どうやら、藍哉が弾いたようだ。

その後にはわらわらと人がいたので、この男の回収は任せてもいいだろう。


私は頭が段々と冷えてくるのを感じ、改めて自分の姿を見て少し恥じた。


制服は私の魔力か炎によってか、ボロボロになっている。左腕の部分は吹き飛んでいた。スカートも破れており、乙女としてはかなり失格な格好である。

髪が白銀になっているのに気づいたので、目を確認したら赤くなっていた。

いつの間に擬態が解けてしまったのだろう。


「あ…お前が、それ、全部やったのか?」


藍哉が死んだ男達の残骸を指さしていうので、頷いた。

この状態で声を発したり直視したりすると、藍哉に吸血鬼としての効果がかかるかもしれないので、細心の注意を払いながら。

擬態をもう一度施し、有紗に怪我がないか確認していると、再び声がかかった。


「…そうか。んで、ブレスレットはどうなった?」


「あ」


藍哉が聞いたその事に少しだけ青ざめる。

先程、壊した…気がしないでもない。殆ど覚えていないが。


「はぁ…まあ、あがってこい、そこ、地獄みたいになってるぞ。」


既に火は止めたが、どうやら焼け跡が酷いらしい。

藍哉の声に従い、上に上がると、藍哉の後ろにいる人達から敵視や困惑の目を向けられた。

その目に改めて私は吸血鬼だからな、と思っていると。


「間違いなく協議会で問題になると思うぞ」


言われてしまったぁ。

まあ、そんな気はしたけど。

むくれていると、下から声が聞こえた。


「り…な……?」


「有紗!大丈夫!?どこも痛くない!?」


「うん…」


そう言って笑う有紗。

だけど、その笑顔は物凄く痛々しかった。


掴まれていた所は痣になっているし、手足も物凄く冷えている。

顔は全体的に血の気が無く、見た目は傷は無いが、中の臓器は何かしたらダメージをおっているようだ。


「おい。とっとと戻るぞ。こいつの治療が先決だ。お前の件についてはとりあえず後回しだな」


「うん。分かってる。有紗、もうちょっとだけ我慢しててね。」


有紗の体にダメージがこれ以上入らないようにもう一度抱き抱えて、私と藍哉は“教会リビーデンス”の本拠へと最速で飛んでいった。





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