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三話目



夜の公園は暗い。

まあ、当たり前だが。

私は8時半から、待っている事にした。服装は黒いパーカーにジーンズ、凡そ思春期の花の女子高生がするような格好ではないだろう。有紗が見たらぎょっとして着替えさせられる。まあ、今から会うヤツらはみんな私がそのような年齢などとは思ってないだろうし、別に構わないのだが。


暇だったので、ブランコを漕いでいたのだが、夜の公園に響くブランコの音はなかなかのホラーだった。





「早いな。」


後ろから声がしたので、振り返るとアイツがいた。昨日と同じ様にショートローブを着ている。やはりこの姿の方がしっくり来てしまうのは──どうなのか。


「そうかな?まあ、遅れたらめんどくさそうだと思ったからね。」


「…お前は、人間をなんだと思ってる?」


「唐突だねぇ、んー…人間を、どう思っているか?…あなたの期待しているような模範的な答えはもっていないよ?」


「そんなのは何となく察してる。どう思ってるんだ?」


「そうだねー…」


私はブランコを漕ぎつつ、考える。

人間をどう思っているか。


「まず、私とは違う種族。次に、吸血鬼とは違って自由。あとは、数が多いからか色んな考えを持つ者がいて、面白い人達…かな。」


「やっぱり、食料とは答えないんだな」


「当たり前でしょ。私、少なくとも“教会リビーデンス”が出来てからはそんな事したことないし。」


「…は?お前何歳?」


因みに“教会リビーデンス”は紀元前1年に生まれた。


「…乙女に年齢を聞くのは失礼だと知らないのかな?」


「驚いただけだ。やっぱり見た目によらないんだな。てか、二千年級かよ…」


アイツは苦笑いをしている。まあ、今でも生き残ってるやつなんてピンキリだろうし、私みたいなのも珍しいのか。


「それで?聞きたいことは他にあるの?」


「──お前は、人の血を吸う気はあるのか?」


「ないよ」


ここは、即答。

有紗と仲良くなってから、よけいにこの考え方は強くなった。

吸血鬼だから人の血を吸わなければいけない、そんな必要はどこにもない。


アイツは、また苦笑いした後、口を開いた。


「そんじゃ、お前の処置だが────」


突然、ブランコの周囲に15人程のショートローブ達が現れた。全員フードを被っている。そういえば、昨日のヤツらもコイツ以外は被っていたな。

そいつ等は各々で武器を持っているが、きっと“聖剣ソレイア”に似たようなものなのだろう。


「──処分はしない」


「え?」



私が疑問を呈したのと同時に、ブランコの鎖を握っていた左腕に何らかのブレスレットらしきものが取り付けられた。


「???」


私が混乱していると、ショートローブの中から二人歩み出て、フードを取った。


「あ、相崎さんと篠葉さん!?」


そう、ご近所に住む人のいいおじさん二人だった。


「あはは…やっぱり莉奈ちゃんなのか…」


相崎さんはデフォルトの笑顔で、篠葉さんはため息をついていた。


「あー、うん。実はだな。俺が今日の事を教会に報告したら、この二人が話に入ってきてな、昔っからの知り合いだったとか言うじゃねぇか、それでお前はそんな悪い奴じゃねぇって事で、処理するんじゃなくて監視で留めておこうって事になったんだよ。」


「え、えぇ……私の覚悟は?」


「知らね」


思わず目が点になって、コイツを見てしまう。正気か。本気か?

まさか教会のヤツらがそんな事考えるのか?


「それで、その拘束具の効能だけど、吸血したら意識を失わせる、だけだから、莉奈ちゃんには何も影響無いはずだよ。」


「なるほどー」


相崎さんが丁寧に説明してくれたので、改めて納得する。

そして、ひとつの事に思い立った。



「あ、有紗の保護か。」



「え」


篠葉さんが思わずと言った感じで声を上げた。


「いや、相崎さんと篠葉さんと出会ったのって、有紗経由だったなーって思って……それなら、有紗の体質の関係で保護してた教会の人としてだったのかなーって?」


「お前……知ってたの?」


「いや、逆に分からないと?分からないと?さすがの鈍感莉奈ちゃんでも気づきますよ?」


聞いてきたアイツに思わず聞き返す。流石にあれに気付かない程私だってお馬鹿ではない。

というのも、有紗には特殊な体質がある。


通称“愛し子(レディルラッセ)

吸血鬼の餌とも呼ばれるが、そちらは蔑称なので私は大嫌いだ。

普通の人間とは違い、血が凄いのである。言うなれば、万能の薬みたいな。

だから吸血鬼は、とにかく“愛し子(レディルラッセ)”を奪おうとする。

まだ吸血鬼がわんさかいた頃には“教会リビーデンス”が“愛し子(レディルラッセ)”を使って吸血鬼釣りみたいなこともしていた。因みに蔑称はそこから来ている。


「お前…ん?いや、矛盾してるじゃん……で、何、あの子と一緒にいたのはそれが目的?」


「むしろ逆?」


「は?」


「いやだって、“愛し子(レディルラッセ)”ってとにかく狙われるじゃろ?」


「はぁ…まあ、そりゃあな」


「だから、守ろうかと」


「…は?」


「だから、有紗を狙ってくる吸血鬼共を片っ端からぶん殴ってやろうと」


「……何のために?」


「有紗を守るために?」


そこまで聞いて限界が来たのか、相崎さんは笑い転げてしまった。

篠葉さんも、苦笑いになっている。流石、幼少期から私達の事を見てきただけはある。何となく分かってはいたのだろう。

周りの“教会リビーデンス”の人達からも困惑の雰囲気が伝わってくる。


「え?なに、てことはお前、吸血鬼に狙われる“愛し子(レディルラッセ)”を守ろうとして吸血鬼が守ってたって事?何それ?」


「えーだって、有紗可愛いじゃん?もしも殺されたりしたら人類の損失だよ!」


「お前は人類じゃねぇだろ!?」


「有紗はいい子だし」


「…はぁ」


とうとうため息をつかれてしまった。なんだ、悪いか。


「お前が井上有紗と一緒にいたのは、吸血の機会を狙う為ではなく、吸血しようと襲ってくる吸血鬼を守るためだった。って事だな。…なんだよこの矛盾。おかしいだろ……」


「まあ、それは合ってるだろうねぇ。莉奈ちゃん昔っから有紗ちゃんが危ない目にあうと、率先して助けにいってたし、ある時は身代わりになってたりしたし…暴力団のところにわけも知らないのに代わりに乗り込んでいった時はこっちの肝が冷えたよ…」


「あう、その節はすみませんでした…」


前に有紗が厄介事に巻き込まれて、暴力団の事務所に呼ばれた時に、私が代わりに乗り込んでいって、片っ端から構成員をのした事があったのだ。確かに普通に考えたら無茶である。


「はぁ。で、お前の名前は何なんだ?まさか本当に寺臼莉奈が本名じゃねぇだろ?」


「あ、うん。寺臼莉奈は孤児院経由して、頑張って手に入れたある意味本名だよ!」


「あーはいはい。それは調べがついてる。んで、俺が聞きたいのは吸血鬼としての名前だよ。名簿に乗ってる可能性もあるし。」


かなり和やかになってしまっていた空気がもう1度張り詰める。

吸血鬼の名前。それは時としてとても大事なものになる。


「──アリス・ツェリュイア」


目を瞑って、目の所だけ吸血鬼化させる。


「──知ってる?」


にっこりと微笑んで、アイツの方を見てやった。





後日聞いてみると、何でもその時の私は悪魔のような女神に見えたそうな。なんじゃそりゃ。


因みに、私のこと名前は一切聞いたことも見たことも無いそうだ。残念。


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