二話目
その次の日。
私はいつも通りに支度をして家をでた。
学校に行くのだ。
吸血鬼が学校に行くのはおかしい?何を言う。
15歳のうら若き少女が普通の平日に街にいたら、そちらの方が目立つ。
ましてや、学校に通っていないなどとバレれば、何処かから“教会”にバレるに決まっている。
「お、はろー。莉奈。昨日はよく眠れたかい?」
「おはよう。有紗。有紗は地震大丈夫だった?」
角のところで待っていたのは私と同い年で、親友を名乗ってくれている大切な人。井上有紗。
因みに私の名前は寺臼莉奈という。
「そういえば、何か昨日の地震の影響でどっかの私立高校の人達が1時的にうちの学校に避難してくるらしいよ?」
「え、まじ?まあ確かに教室は余ってるけどさぁ…」
「ふっふっふ、いい男子が見つかる事を期待するとしようではないか…」
「有紗ってほんと面食いだよねぇ。」
「莉奈が男子に興味無さすぎるだけでしょ。ふつーその程度は気にするってば。」
「えぇ…そうかなぁ?」
そんなたわいのない話をしながら、校門を潜る。
そこで
見てしまった
昨日のアイツを
有紗の言っていた事は本当のようで、近くの偏差値高い私立高校の制服をきた名前も知らぬ高校生が、沢山いた…のだが、昨日の1番最初に私を発見し、“教会”の連中のリーダー格を務めていたようなアイツが何故ここにいる!?
いや、私立高校の制服は着ているから、そこに通っていたという事は分かるのだが…。
「おーい。莉奈?どした?」
「っ!?」
バレた?
一瞬だが、こっちをちらりと見た気がする。
だが、まあ、昨日の状態ならいざ知らず、この擬態している状態では見つける事など不可能だろう──多分。
自分で自分を誤魔化し、不思議そうな顔をする有紗についていった。
──「あれ?」
そんな声は聞こえなかったといいきかせて。
そんで、お昼休み。
空き教室に他の学校が来たからといって、授業が特別面白くなったり、つまらなくなったりすることはなかった。まあ、当たり前だが。
そこで、私は1人で屋上へと向かっていた。
この学校の屋上は立ち入り禁止だが、鍵が何故か大抵空いているので、よく有紗とそこでお昼ご飯を食べているのだ。
今日は購買の日なので、有紗に売店に行ってもらい、私は屋上で場所を確保することになっていた。
しかし、
「やっほー?昨日の“吸血鬼”サン♪」
屋上の扉をあけようと手を掛けた瞬間に、首に“ナニカ”が回された。
「っ!」
咄嗟に目を動かし、後ろを見ると、昨日のアイツ。
手に持っているのは“聖剣”だ。絶体絶命の大ピンチである。
「なんで…」
「いやぁ、びっくりしたよ。まさか学校に通っているとはねぇ………“寺臼莉奈”ってのは殺して手に入れた戸籍なのかな?」
「そんなわけない…めんどくさかったけど、正規で手に入れた戸籍だよ。」
「…ふーん。ま、どうでもいいけどさ。それで?なんで学校に通ってるわけ?吸血鬼なんかが。学校にいる生徒を喰うため?先生を殺すため?」
「…なんでそういう物騒な考えしか出てこないの……普通に通ってるだけ…」
「…変なやつ。」
コイツが不満そうな顔をしたので、何となくコイツはからかいがいのある面白そうな奴らしいと思う。まあ、“教会”として出会わなければそこそこいい関係が築けていたのではないだろうか。
「ははっ、否定はしないよ。普通の人が考える吸血鬼像と私とでは違いがありすぎるからね、まあ、私が吸血鬼であるとこは何よりもの真実ではあるのだけど。」
「──そうか。」
アイツは、顔を一瞬曇らせる。何を考えているのだろうか。というか、百面相だな。
因みにこの格好だと、屋上の扉を前に、私にアイツが抱きついているように後から見ると見える構図だったりする。
「ま、いいや。殺すなら殺して?」
私は諦めたように笑う。
実際、もう諦めた。それに、コイツは私が置かれている状況が結構分かっている。ならば、私が死んでも周りの人間に迷惑をかけないように考慮してくれるだろう。そうとなれば、心残りは余りない。元々、長すぎる生命だったのだ。
運悪くこうなったのだとしても、何も思う所はない。
昨日、逃げ続けたのは有紗とのお別れが最悪の形になってしまうのではないかと危惧したから。別に私が死ぬかどうかは後回しだった。
「随分と、諦めがいいんだな。」
「あなた達に任せれば、きっと有紗も納得してくれるでしょうし。」
「…有紗…?…まさか。」
コイツが何かを言おうとした瞬間だった。
階段の下から有紗の大声が聞こえてきたのである。
何でも、外は突然の天気雨でどしゃぶり、それならば大人しく教室で食べようとの事だった。
「わ、わかった!」
コイツもここで殺したら面倒臭い事になると分かったのか、“聖剣”を離し、離れてくれた。が、受難は終わらなかった。
話をしたあと、有紗が昇ってきてしまったのである。
「え…?莉奈が……莉奈が……あ、逢い引きっ!?」
「唐突に人聞きの悪い事を叫ばないで!」
「いや、だってあの莉奈だよ?あの莉奈が男子と二人っきり…お邪魔してしまった?いや、そうだよね。何、告白?告白?どっちから?で、結果は?あれ?というか意外とあなたいい感じの顔ね?なら、ガチめに莉奈と付き合ってくれない?この子、本当に恋愛とか疎くて心配なのよね…ほら、結構顔は整ってるし、中身も可愛いわよ?どうどう?」
有紗は私とコイツが二人でいるのに物凄く妄想を膨らませたらしく、マシンガントークを始めてしまった。というか、心配ってなんなのさ……。
「あー、いえ、ちょっとお尋ねしたいことがあっただけなので……それについてはご遠慮しておきます…」
「あ、そうなの?残念……ま、少しでもそう思ってくれたら、ぜひ連絡して頂戴!」
私は有紗に手を引かれて、階段を降りてゆく。
アイツはちょっと驚いたような顔つきだ。
私は掴まれていない右手を動かし、魔力による書き置きを残す。
──今日の九時、昨日の公園にて──
それを見たのか見ていないのか、私は知る術もなく有紗についていった。まあ、間違いなく見ていたとは思うが。