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とうさん

作者: ハイド


  とうさん


 僕が三才の時、僕の父さんは交通事故で亡くなった。

 それ以来、僕は母さんと二人で小さなアパートで暮らしてきた。

  

 そして、その日は学校から帰ると珍しく母さんが家にいた。

 いつもはファミレスのパートで帰るのは大体6時くらいなので、どうしたのかな?と思ったけど、でも僕は嬉しかった。

 いつもより早い夕ご飯を食べ終わると母さんが話があると言ってきた。

 「実はね裕樹、母さん結婚することになったの」

 僕は驚いていると更に母さんは続けて

 「母さんのお腹に子供がいるの」

 母さんは少し顔を赤らめて言った。

 それから、今週の土曜日に新しいお父さんと会ってほしいと言われた。

 僕はうんとだけ言った。

 

 そして土曜日に僕は新しいお父さんとレストランで会った。

 新しいお父さんは背が高くて眼鏡を掛けていていた。

 ニコニコしていて、僕に色々と質問してきたけど、僕は適当に答えた。

 印象としては特に嫌な感じはしなかった。

 そして、来月から僕と母さんは新しいお父さんと暮らすことになると言われた。

 そして月末になって僕と母さんは引っ越しをした。荷物も少なく、引っ越しはすぐに済んだ。

 新しいお父さんの家は一軒家でそこで僕は初めて自分の部屋を与えられた。机は今までのものを、あと初めてベッドで寝ることになった。

 いつも母さんと二人でいたのでなんだか落ち着かなかった。


 その日は土曜日で母さんは検診で朝から病院に行っていて、家には僕と新しいお父さんの二人だけだった。

 僕はリビングで本を読んでいると、新しいお父さんは二階から降りてきて、

 「ちょっと縁側で話をしないか?」と言われた。

 僕はうんと答えて新しいお父さんを縁側に腰を掛けた。

 「みかん食べるか?」

 そう言って新しいお父さんはみかんを一個僕に差し出した。

 ありがとう、と言って僕はみかんを受け取った。

 新しいお父さんは庭を眺めながら

 「いきなり新しいお父さんとか言われても中々実感ないだろうし、馴染めないこともあると思うんだけど、俺は母さんも、裕樹も、これから生まれる子供もみんな家族だと思ってるから、安心してほしい」

 僕はその言葉に何も答えず、庭を眺めていた。

 「こんなこと言っても、そう簡単には信じてもらえない事はわかってるんだ。でも、その気持ちは俺にはよく分かる」

 僕は新しいお父さんに向いて

 「なんで僕の気持ちが分かるの?」

 と訊ねた。

 新しいお父さんは、にこりとしながら

 「それは、俺も俺の両親の本当の子供じゃなかったからだよ」

 と言った。

 「えっ?」

 僕が戸惑っていると

 「裕樹、赤ちゃんポストって知ってる?」

 と訊ねてきた。

 知らない、と答えると

 「女性が赤ちゃんを産んで、でもその子を色んな事情で育てられないと、病院の赤ちゃんポストに入れるんだけど、俺もその赤ちゃんポストに入れられた子供だったんだよ」

 新しいお父さんは足をぶらぶらしながら話してくれた。

 「俺が高校生の時にね、たまたま両親とテレビを見てたときに、両親の血液型がA型だと知ってね。俺はB型なんだけど、A型の両親からB型の子供が生まれることは非常にまれでね。何となく気になって市役所で戸籍抄本を見たら、俺が養子だって分かったんだ」

 新しいお父さんは、なんだか嬉しそうにしゃべった。

 「で、俺は両親にその事を聞いてみたら、実はって教えてくれたんだよ」

 僕は何も言うことが出来なかった。

 すると新しいお父さんは続けて

 「でも俺は嬉しかったんだ。血を分けた子供でもない俺を実の子供のように育ててくれた両親を心から感謝し、尊敬した。だから、俺も俺の両親のように、裕樹の事を自分の子供だと思って育てるし、これから生まれる子供と分け隔てなく接する」

 そう言うと、新しいお父さんはにこにこしながら僕の頭をくしゃくしゃとかき回した。僕はだまってされるがままでいた。

 「俺の言ったこと信じてくれる?」

 新しいお父さんが訊ねてきた。

 「分からないけど、信じてみたい」

 と僕は答えた。

 「分かった。今はそれでいいよ。じゃあ男同士の約束な!」

 新しいお父さんはそう言うと握った拳を差し出してきた。

 僕が意味が分からずに戸惑っていると、

 「男同士の約束をするときには、お互いの拳をぶつけるんだよ」

 と教えてくれた。

 僕は新しいお父さんと自分の拳をぶつけた。

 

 それから僕たちは黙って庭を眺めながらみかんを食べた。

  

 

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