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リリの家 2


 リリは円いダイニングテーブルへ2人をうながした。

 プリエは頭に乗ってるちびニャを気にして、頭に手をやってそーっと歩き始めた。

「ちびニャ、気にしなくても落ちないよ。走ったって平気だよ」フェリスが見かねて言った。

「え?そうなの?」プリエは手を下ろして普通に歩いてみた。

 ほんとだ。ちびニャ、全然大丈夫みたい。すごい。

 3人がテーブルに近づくと、テーブルの上で長く伸びて寝ていた猫が、目を開けた。寝ぼけた顔で3人を見ると、テーブルからトンと下りた。

「ちゃあちゃん、起こしてごめんね」

 リリにちゃあちゃんと呼ばれた全身茶トラの大柄な猫は、両手を前につっぱりお尻をたてて気持ちよさそうに大きく伸びをすると、そばにあった爪とぎで爪をバリバリ研いだ。

「この子、大きいね」プリエはちゃあちゃんの顔を遠まきに覗き込んだ。「かわいい顔してる」

「大きいけど中身はビビりんぼ。ちゃあちゃんはイケメン草食男子ってとこかなー。甘えん坊でかわいいよ。小さいことはかわいいことなんだけど、大きくてもやっぱりかわいいのよねー」リリはまたメロメロの顔をした。すかさず、茶トラのちゃあちゃんがリリのそばにきて、リリにお尻をむけた。

 あれ?なんかリリのピンク色が濃くなったような?目の錯覚かな?

「ちゃあちゃん、にゃにかな?お尻ぽんぽんだにゃー?」リリは赤ちゃん言葉ならぬ、猫言葉になって、茶トラのお尻の付け根あたりを手でぽんぽん叩いている。目じりは下がりまくっている。

 うわっ、リリ、変。

「リリ、いつもこんなだよ。僕にもにゃー言葉になるときあるし」フェリスが嬉しそうな顔で言った。

 ん?まあ、さっきの2人のじゃれ方からして、あってもおかしくない。フェリス、なんかニヤけてるしし。マザコン?

 フェリスは眉をひそめた。

「はーい、ちゃあちゃん、ぽんぽんお仕舞いね」

 リリがそう言うと、茶トラのちゃあちゃんはそのままの姿勢で名残惜しそうな顔をリリに向けたが、すぐにスタスタと歩いていった。

 プリエが椅子に座ると、ちびニャはテーブルの上に飛び降りた。リリがネズミのおもちゃをちびニャの前に転がすと、ちびニャはおもちゃにじゃれて遊び始めた。

「あ、で、ちびニャはどうして子猫のまま?」プリエはさっきの話を思い出してリリに聞いた。

「この子、子猫の時に死んだの」リリはネズミのおもちゃを持ち上げた。ちびニャは必死にネズミに両手を伸ばしている。

「え?あ、この()たち、向こうで死んだ()たちなんだ…」プリエは家の中にいる猫たちに目をやった。

「そう。ちびニャは私が向こうで暮らしてた時に拾った子。小さな子猫で最初は元気だったのに、すぐに原因不明の口内炎でお口が痛くてあまり食べれなくなって…日に日にやせ細って…それでも頑張って最後までゴハン頂戴って言ってた。食べようとしてた…生きようとしてた…けど、ほんとにあっと言う間で、きちんと名前も付けてあげられなくて『ちびニャ』のまま」リリはネズミのおもちゃをちびニャの前に落とした。ちびニャはコロンと横になり、ネズミを抱きかかえるようにしてガジガジし始めた。

「ちびニャ、かわいそう」プリエは沈んだ顔をした。

「かわいそうじゃないよ」リリは力強く言った。「ちびニャはあっちで最後まで一生懸命生きて、今、こっちでこんなに楽しく暮らしてる。この子たちはみんな最後の最後まで生きようとする。どんなに辛くても最後まで生きようとする。少なくとも私の知ってる子たちはみんなそうだった。ちびニャもそう。自分で命を絶とうとするのはきっと人間だけ」

 プリエはフェリスの話を思い出した。『自殺に近い』

 けど、今さらそんなこと言われたって…

「ちびニャが死んだ時、私が行くまで必ず待っててね。あっちでいっぱいゴハン食べようねって約束したの。ちびニャは子猫のままで待っててくれた。もっともこっちでも成長できるんはずなんだけど、ちびニャ自身が子猫で居たいんだろうね。小さいね。かわいいね。ってのが気にいってるのかな。かわいいもんねー」そう言って、リリは遊んでいるちびニャの額を指で撫でた。

 すると、またもすかさず、ちゃあちゃんがリリのそばにやってきて、リリにお尻を向けた。

「ふふっ、ちゃあちゃん、また来たにゃー、またお尻ぽんぽんにゃ?」リリはまた猫言葉になって、強めにお尻の付け根ぽんぽんをし始めた。ちゃあちゃんは気持ちよさそうな顔をして、しっぽはピンッと立ちお尻の位置がどんどんあがっている。「ほーら、ぽんぽんーぽんぽんー ちゃあちゃんは甘えちゃあーだにゃー」そう言いながら、リリは満面の笑顔でぽんぽんしている。

 リリがまた変になってる…あれ?リリの色、やっぱり変わってる…?あ、この子…ちゃあちゃんも向こうで死んだ子なんだ。ん?猫も死んだらこっちへ来るんだ?犬も?牛も?豚とかも?鳥も?魚も?

「動物は違うよ。肉体をなくしてもこっちで個性を保てるのは、人と強く繋がった子だけ。強く愛し愛された子だけだよ」フェリスがプリエの疑問に答えた。守護者のフェリスとしては、これは今までも向こうでずっとやってきていた事で、極自然な事だった。

「そうなんだ…じゃあ、ここに居る猫たちはリリと繋がってるってこと?みんなリリが向こうで飼ってた猫?」プリエは目をまるくした。

「あはっ、さすがにみんなじゃない」リリがちゃあちゃんにぽんぽんを続けながら言った。「預かってる子も多い。飼い主さんが向こうを生き抜いてこっちへ来るのを待ってる子たち。人に強く愛された子たちだから愛してくれる人が居ないとね。私が預かって愛情そそいでる。これが私の仕事。はい、ちゃあちゃん、終わり。いっぱい、ぽんぽんしたよー」ちゃあちゃんは、さっきと同じく名残惜しそうな顔を一瞬リリに向け、歩いていった。

「仕事…ってお給料とか貰うの?」

「え?ああ、こっちは、お金って無いから。お金持って死ねないって言うでしょ?あれホント。お金が欲しくてお金稼いだって何の意味もないからね」そう言いながら、リリはちびニャからネズミのおもちゃを取り上げて、ちびニャの前で左右に振った。ちびニャはネズミの動きに合わせて首を左右に振って、飛びかかった。

「かわいー。あたしにもやらせて」リリはネズミのおもちゃをプリエに渡した。プリエはちびニャの前でネズミを振った。

「ユーディ、『(せい)は向上を目指すもの。』とか言ってなかった?」リリは大きな瞳でプリエを見た。

「あ、うん。言ってた。 ちびニャ、また登るの?」ちびニャはねずみに飽きたのか、またプリエの腕をよじ登り始めた。

「あはっ、やっぱり」リリは苦笑いした。「ユーディさ、かっこ良いくせに、言い方が小難しいんだよねー」

 あ、それは…確かに。「けど、すっごく素敵だったー お姫様だっこしてもらったの」プリエは嬉しそうにリリに言った。

「わお!そりゃ、ラッキーだったね!」リリの猫耳がピンッと立った。

「うん。それで飛んでくれたの。すごく気持ちよかったー良い夢見た気分」プリエは思い出して幸せそうな顔をした。

「どうせ、向こう戻ったら忘れるし」フェリスが水を差す一言を言ってしまった。

「じゃあ、戻らない」プリエは一発でカチンと来た様子だ。

「えっ。困る」

「知らない」

「知らないって…プリエさ、さっきの話、理解できてる?このまま戻らなかったらどうなるかわかってる?」フェリスが溜息交じりに言った。

「わかってるもん。辛いのが続くんでしょ」

「そうだよ。一番困るのはプリエ自身なんだからね」全く、拗ねるなっての。

「別に良い」

「良くない。やっぱりわかってないじゃないか」ああ、もう腹立つ。

「わかってる」

「わかってない」もう…これなら、聞いてくれなくたって、いつもみたいに一方通行の方がよっぽどマシだ。

「フフッ。仲良いねー」リリが笑顔で言った。

「どこがっ」2人そろってしまって、反射的に顔を見合わせ、お互いムッとした表情で顔をそむけた。

「ははっ、だってね…」リリは周りを見回して指差した。「ほら見て、ちょうどやってる。ぽーちゃんとあんちゃんの三毛猫姉妹。あの子たちの爪立てない叩き合いみたい。ふふっ」

 リリが指差した先で、2匹の三毛猫が後ろ脚だけで立って向かい合い、耳を後ろに倒して目をつぶって猫パンチしあっている。パンチするよりも構えている時間の方が長い。

「ねー、かわいいでしょ。あの子たちは何しててもかわいい」リリは猫たちを見て幸せそうな顔をした。

 あの()たちはかわいいけど…

 プリエはフェリスを見た。目があって、ぷいっと顔をそむけた。フェリスは小さく溜息をついた。

「でね、話戻すと」リリは2人の様子にはお構いなしに話しを続けた。「ユーディの言う向上って、地位とか名誉とかお金とかって、そう言うんじゃなくて、人としての成長。だから、こっちで言う上とか下ってのも人としての部分。向こうで有名だったとかセレブだったからってこっちで上に居るとは限らない。向こうでホームレスしてた人の方がずっと上に居るってのも普通にあるんだよ。こっちでの仕事は、お金稼ぐためじゃなくて、人として成長するためにするの。ま、私の場合は、ただ単に猫が好きだからやってるんだけどねー。 ね、ちびニャ」リリはプリエの頭の上にちょんと座っているちびニャに声をかけた。ちびニャは小さくみゃーと鳴いた。

「あ、じゃあ、フェリスも猫の預かりが仕事?なんだ?」

「僕は違う。どっちかっていうと、猫と同列かな」

「え?じゃあ、何やってんの?」

「フェリちゃは図書館通いが趣味のひ弱なインテリボーイだよねー」リリが先に答えた。

 あ、ほんとに、リリが言ってるんだ。

 プリエは小さく笑った。

「僕の仕事は…守護者だよ」フェリスは目を逸らしながら言った。

「あ、それも仕事なんだ?」

「うん」

「ちゃんとできてる?」

 フェリスはプリエを少し睨んだ。

「あはっ、すぐに爪なしパンチ、始まっちゃうねー 何か飲む?食べる?」リリはプリエに聞いた。

 そういえば、お腹すいて…ないな。あれ?喉もかわいてない?

「こっちでは、食事も睡眠も必要ないから」フェリスが答えた。

「え?どうして?」フェリスがあたしの心の声に答えるのも、なんかもうすっかり慣れてきちゃったな。

「食べ物とか睡眠は肉体が必要としてるだけ。肉体がないのに、要ると思う?」

 まあ、そう言われたら…「だからお腹すかないんだ?」

「うん」

 そう言えば、トイレも全然いきたくなってない。

「別に食べたって良いんだよー ケーキなんてどう?」リリがキラキラの目で言った。

「ケーキあるの?」プリエは嬉しそうな顔をした。

「作ってあげるー 何ケーキが良い?」リリの猫耳がピンと立った。

「え?じゃあ…苺のケーキ」作るって、今から?

「りょーかいっ。ちょっと待ってね」リリはそう言うと、顎に手をあてて何か考え始めた。

 ん?ここ、キッチンとかなさそう…だけど?





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