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電脳戦線黙示録~War of The Apocalypse~  作者: Win-CL
第六章 最後の日

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2019年1月 第1週⑤

 [バアル=ゼブル]たちに送り出されて、広場を出る。


 目の前に伸びるのは、城へと続く一本道。

 両脇に並ぶ建物群――その窓からは、例の黒い敵が湧き続けている。


 道の全てがそれで埋まっていないのは――

 広場にいた仲間たちのおかげだろう。


 侵入不可エリアであっても、外側からの攻撃は届くようで。

 遠距離攻撃によって、敵の進行を一時的に食い止めていた。


『でも……どうやって城まで行くの?』


 集中砲火により、前方の敵を削っていくのが一番手っ取り早い。

 ――が、それでは自分たちまでダメージを受けてしまう。


『このまま行こう。……良い手がある』


 ――使わせてもらうぞ。


 ≪聖域の加護≫――

 [admiral]から別れ際に受け取った、大量の課金アイテム。


『……どんだけ課金して溜めこんでたんだ?』


 自分もその犠牲者の一人ではあるけれど……。

 今となっては、ありがたいことこの上ない。


 流石に、オークションなどで購入した分もあるだろうが――

 それでも、三人で分けても十分な数があった。


 ――準備は万全。

 城へと駆けだす。


 アイテムの効果で無敵になった自分達を包み込むように――

 味方の支援攻撃が飛んでくる。


 ≪Adonai(終わり無き)Melek(戦いの王国)≫レベルの殲滅力はない。討ち漏らしもある。


 それでも――

 自分達が通り抜けるには、十分すぎるほどのスペースが確保されていた。


『……俺たちができるのはここまでだ』

『あとは頼んだぞ! お前ら!』


 進んでいくにつれ、段々と弾幕も薄くなってくる。


 敵の数が増え――

 受け取っていた≪聖域の加護≫も底を尽きた。


『……余ったら返せって言ってたのにね』

『あぁ……謝らないといけないな』


 ≪聖域の加護≫が無かったら、この段階で詰んでいたかもしれない。

 [admiral(あいつ)]には、そう簡単には返しきれない程の恩ができた。


 ……少しずつにでも返していきたい。

 全てが元通りになったら、必ず。

 

――――


 城も、もう目と鼻の先――

 視界からはみ出るほどの大きさになっていた。


 あと少しの距離なのに、敵が障害となって上手く進めない。


『俺が前に出て――』

『邪魔だから下がってろ』


 [ЯU㏍∀(ルカ)]さんが、高火力攻撃であたりを薙ぎ払う。

 通常のモンスター程度ならば、紙切れに等しいのだろう。


 それでも――

 敵は続々と数を増やしていく。


『――キリがないな……!』


 再びの爆炎――

 しかし、先ほどのような広範囲攻撃ではない。

 前方へと一直線に伸びる炎の槍だった。


 再び道が開くが、さっきよりも幅が狭い。

 あっという間に、敵によって埋まってしまうだろう。


 そう思っていたのだが――


『……行くぞ、[ケルベロス]。お前は左側だ(・・・・・・)

『え? ――っ! はい!』


 二人で先に敵の中に突っ込む。


 ――――!?


『そんなことをしたら――』


「「≪This (汝等) gate (ここに) divides (入るもの) hope and (一切の望み) despair(を棄てよ)≫」」


 天へと伸びる一対の“門”。


 左に[o葵o]が、右に[ЯU㏍∀(ルカ)]さんが――

 それぞれ《奥義》を使用したのだった。


『あ――』


 湧いてきた敵を遮断する、即席の通路が目の前に展開された。

 効果は五分。範囲も限られている。

 それでも確実に、自分達を城へと導いてくれた。


 完全に抜けきり、城の敷地内へと突入する。


『目的の尖塔ってどうやって行くんだっけ』

『……このまま真っ直ぐ進めば、階段が見えてくる筈だ』


 城の構造は、広場を出る前に[パイモン]から聞いた。

 普段の状態で変わっていないのならば、真っ直ぐ進めば辿りつけると。

 これまで走っていた間にも、地形に変更が加えられている様子は無かった。


 ――いけるさ。きっと。

 このチームなら。


 プレイヤーも人間(NPC)もいない。

 がらんどうになった城の中を、真っ直ぐに突き進んでいく。


 城の所々には窓が設置されていたが――

 外を景色を一望することはできない。


 外から見た時と同じように、全て黒く塗りつぶされていた。


 その光景が、酷く閉塞感を与える。

 重い空気が纏わりつくかのように、沈黙が自分達を包んだ。


 前方で、影が蠢く。

 どうやら、ここでも敵が湧くのは変わらないらしい。


 唯一の救いは、街中よりも窓の数が少ないということだろうか。


 ――だからと言って、安心はできなかった。

 後ろからも敵は追ってきている。


 そしてその速度は、徐々に上がっているように見えた。


『……いつまで続くんだ?』

『まだ、数分は……』


 走りっぱなしになるだろう。

 このままだと、追いつかれる可能性もある。


 そうなった場合は、どうするべきだろうか。

 多少の攻撃を受けても、構わず走り抜ける方がいいのか。


 それとも――


『チッ――』


 [ЯU㏍∀(ルカ)]さんが短く舌打ちをする。


『――え?』


 そして足を止めたかと思うと――

 背後から迫ってくる敵へ向けて攻撃を放つ。


『……お前ら、先行け。絶対に足を止めんじゃねぇぞ』


『[ЯU㏍∀(ルカ)]さん!?』

『なんで――』


 言われた通り、足は止めない。

 どんどん距離が離れていく。


『速度特化のお前らが、私に合わせてどうすんだ』


 城に入ってから、戦闘を行わず進んでいた。

 それによって、移動速度の差が出始めていたのは確かだったけど――


『それなら私も――!』

『止まるな!』


 [ЯU㏍∀(ルカ)]さんが声を張り上げる。

 [ケルベロス]が息を呑んだのが分かった。


『お前は[グラシャ=ラボラス]の速度に合わせた装備してんだろ。ギリギリまで一緒に行くのがお前の役割だ』


 自分のできることを見誤るなと、そう言っていた。


『……分かりました』


 その返事を聞いて安心したのか、ため息を吐いた後――

 大きく息を吸う[ЯU㏍∀(ルカ)]さん。


 ――次は自分の番か。


『[グラシャ=ラボラス]!』

『――はい』


 あの時の怒気は感じられないが――

 それと同じぐらい、大きな声を張り上げる。


『ここまでしてやってんだ! 私だけじゃない、お前以外の全員が!』


 咆哮(ほうこう)――


 誰よりも強く。格好良く。

 自分の目標でもあった獣が()える。


『全員が、お前に賭けてんだぞ!』


 一言も聞き逃さないように。

 決して忘れることのないように。


『――これで失敗したら、ぶっ殺すからな』


 その言葉を最後に、VC(ボイスチャット)から離脱する。


『…………』

『――! [ЯU㏍∀(ルカ)]さんっ!!』


 最後まで好き勝手にモノを言う人だった。


「失敗しても怒らないから」

「失敗したらぶっ殺すからな」


 真逆の意味のはずなのに――

 それでも[シトリー]の言葉とダブって聞こえたのは何故だろう。

 どちらも、とても暖かいのは何故だろう。


 歯を食いしばりながら――

 二人で駆け続けた。


――――


 幾つもの階段を駆け上がって、幾つもの扉を抜けて。


 もうすぐ、目的の場所へと辿り着こうかという段階で――

 ギギギッという音が断続的に響き渡る。


『え!? グラたん、あれ――!」


 前方の、廊下を仕切る扉が――

 ゆっくりと閉まり始めていた。


『おい――!』


 止めて欲しいんじゃなかったのかよ、[ベアトリーチェ]!


 間には敵が湧いている。


 隙間を縫って移動しても、攻撃をしながら突き進んでも――

 間に合うかは微妙なところだった。


 ――どうする!?

 どうすればいい!?


『………!』


 …………


『……グラたんなら抜けられるよね! 先に行って!』


 確かに敵をすり抜けられる自分の《奥義》と、移動速度を上げることのできる《月影迅》を使えば、優に潜り抜けられるだろう。


『だけど――!』


 それで抜けられるのは自分だけ。

 [ケルベロス]はここに取り残されてしまう――!


『早く!! このままだと二人とも進めなくなっちゃう!』


 このゲーム(WoA)がβテストを開始して。

 自分がキャラクターを作った時――

 自動で選ばれたのがこの【グラシャ=ラボラス】だった。


 ――答えは最初から出ていた。


 【グラシャ=ラボラス】で始めて、ここまで続けてきて――

 これまでの全てが、この一瞬の為に用意されていた。


『[ЯU㏍∀(ルカ)]さんの言いつけ通り、ちゃんと動けたかな……?』

『――っ!』


「≪Pay (形の) with (ない) blood (恐怖) and life (に怯えろ)≫」


 ――――


 やはり、扉は締まり――

 [ケルベロス]が何をしても開かないらしい。


 ――完全に分断されてしまった。


 たった一人で、残りの道程を駆けてゆく。

 後は――この螺旋階段を上るだけ。


『私が――、グラたんと喧嘩したあと――』


 [ケルベロス]がポツリ、ポツリと、語り始める。


 喧嘩の話。

 恐らく四月の――

 名前が[ケルベロス]ではなく、まだ[o葵o]と表示されていた頃の話。


『[シトリー]と[ЯU㏍∀(ルカ)]さんに、スコア稼ぎ手伝ってもらってたんだけど』


 [ЯU㏍∀(ルカ)]さんが、天使陣営へと移るまでの二週間。

 ほぼ付きっきりで、面倒を見てもらっていたようだ。


 ある程度はランクが上がってたとはいえ――

 あの僅かな期間で一位に上がっていたのは、そんな裏があったらしい。


 五月は[シトリー]が多忙だったことも頷ける。

 [ЯU㏍∀(ルカ)]さんが抜けた穴を、彼女一人で埋めていたためだ。


『――あぁ……』


 螺旋階段の部分に窓はなく。

 例の黒い敵はもう出てこない。


 照明によって辛うじて照らされている中を進みながら――

 短く返事をする。


『……[ЯU㏍∀(ルカ)]さん言ってたよ? グラたんと一緒に戦っている時はまあまあ楽しいって。次は敵として真剣勝負できたなら、どれだけ楽しいんだろうって――』


 三人でそうやって話している光景を想像してしまった。

 涙で――視界が滲む。


『[シトリー]は……、一緒に戦う方が断然楽しいって笑ってて――』

『――そうか……』


「≪This (汝等) gate (ここに) divides (入るもの) hope and (一切の望み) despair(を棄てよ)≫」


 [ケルベロス]が《奥義》を使う。


 敵の数が多くなったため、一度体勢を整えるために。

 五分間――リタイアまでの時間を稼ぐ最後の足掻き。


『私だって……。ううん、私だけじゃない。きっと、他のみんなだって――!』

『――俺だって……!』


 全員が、同じことを思っている。

 まだ続けていたいと思っている。


『こんなに突然に、終わりが来るなんて……嫌だよ……!』


 悲鳴のような[ケルベロス]の叫び。


『グラたんが、誰よりもこのゲーム(WoA)が好きだってこと! 皆知ってるから――ここまで応援してくれたんだと思う』

『……後は任せろ。ここまで来たんだ、格好良く決めてみせるさ』


 最後に『……信じてるから。頑張って』とだけ残して。

 [ケルベロス]がVC(ボイスチャット)から離脱する。


 ――最上部へと辿り着いた。


 この場所だけは窓の黒塗りも無く、街の様子を一望できた。


 しかし解放感なんてものは無く――

 ただただ、空虚な空間が広がっているだけ。


『……迎えに来たぞ。[ベアトリーチェ]』


 フロアの中心。


 そこで――

 [ベアトリーチェ]はしゃがみ込んでいた。


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