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電脳戦線黙示録~War of The Apocalypse~  作者: Win-CL
第六章 最後の日

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2019年1月 第1週③

 数日前にはあれほどいた人間(NPC)が、今は一人も見当たらない。


 街の命とも言える人々の(ざわ)めきが無い。

 営みも、何もかもが無い。


 ――街が死んでいる。


 建物の窓という窓が、真っ黒に塗りつぶされ――

 それが不気味さを一層際立たせていた。


 幸い、まだ敵の数は少ない。

 色の失った街を、広場へ向けて一気に駆け抜けていく。


『……[グラシャ=ラボラス]。WoA(このゲーム)が好きかい?』


 ――最中、そう[ダンタリオン]に声をかけられた。


『僕が思うに――キーパーソンは君たち二人だ。君たちが(・・・・)[ベアトリーチェ(・・・・・・・)]を止めないと(・・・・・・)いけない(・・・・)


『なんだ? こんな時に』


『……WoA(このゲーム)が好きかい?』


 返事ではなく、質問を重ねる。

 ――自分の、答えを待っている。


 …………


 [ダンタリオン]にしては珍しいことだった。

 彼は、一方的に何かを尋ねるような事はしない人だ。


『……大切なことなんだな?』


 真剣に、上辺だけではない答えを望んでいる。


『――好きだ。絶対に失いたくない』


『よし、決まりだ。分かったね、二人とも』


 二人とも――[シトリー]と[括木(くくるぎ)]のことだろう。


『君たちを広場へと届けるのが、僕たちに課せられた役割だ。途中で息切れさせるなんて言語道断。消耗は最小限で、絶対に届(・・・・)けてみせる(・・・・・)


『でもどうやって……』


 こうやって話している間にも、例の黒い敵(・・・)が湧き続けている。

 抜け道なんてものがない限り、いつかは強行突破しか方法は無くなるだろう。


『大丈夫。こっちには――WoA中で一番の“目”が付いてる』

『丁度いいタイミング! ちゃんと捕捉できてるからねぇ』


『[シトリー]……』


『ちょっと、通話を繋ぎなおすけど……いいかな?』

『構わない。――[ダンタリオン]、すまないな(・・・・・)


『……いいさ、僕も十分に楽しかった』


 そして――


 [ダンタリオン]、[シトリー]、[括木(くくるぎ)]が通話から落ち――

 今度は別グループからの通話に呼び出される。


 もちろん、グループの先には三人が。


『広場まで、最短ルートで誘導するからねぇ。しっかり動いてよ!』


――――


『そこ左に入って! 敵は湧いてるけど、一番薄いから!』


 [シトリー]のナビによって、迷うことなく路地へと入っていく。


『……[ダンタリオン]さん。来ました(・・・・)

『こんな所じゃ逃げ場もないからね。あとは[シトリー]の仕事だし、僕も全力で時間を稼ぐよ』


『……? どういうこと?』


 [バアル=ゼブル]たちがいるだろ?

 [ダンタリオン]が戦闘に参加する必要は――


 ――!


『お前ら……まさか広場にいないのか?』

確実に送り(・・・・・)届けるには(・・・・・)こっちの方が(・・・・・)都合がいいからね(・・・・・・・・)


『どこにいるのか教えろ! 今すぐそっちに向かうから、なんとかして――』


『『いいから!』』


 [シトリー]と[括木]が同時に声を荒げる。


『[ダンタリオン]さんが、「絶対に届ける」って言ったんです。覚悟はできてますから』

『ボクたちの勝利条件は“生き残ること”じゃないからねぇ。流石にその意味が分からないほど、馬鹿じゃないでしょ?』


 自分達の期待に応えてみせろと――

 二人はそう言った。


―――― 


『今いる通りを真っ直ぐ!』

『真っ直ぐって――』


 通り抜ける隙間もないぐらいに、敵によって埋め尽くされている。


『大丈夫。そこなら(・・・・)まだ届くから(・・・・・・)

『届く――?』


 どういうことが尋ねようとしたところで――

 大量の砲撃が飛んでくる。


 それは、前方を塞ぐ敵達を薙ぎ払って行った。


「これは――」


 見たことが、ある。知っている。

Adonai(終わり無き)Melek(戦いの王国)≫――【サンダルフォン】の《奥義》だ。


『ほら、道が開いただろ。早く進めよ』


 通話に入ってきたのは――

 これまで何度も戦ったことのある【サンダルフォン】――[admiral]だった。


『途中で偶然出くわしてね』

『なんで……』


 そうだとしても――なんでここで助けてくれる?


『なんで? なんでもクソもないだろ。どうせサービスが終わるんだったら、アイテムなんて残してても意味がないし、最後に大暴れしてやろうってだけさ』


『そうじゃなくて……! 俺のこと嫌ってたんじゃ……』


 だから度々粘着してきてたんじゃないのか?

 目の敵にして、立ち塞がってきたんじゃないのか? 


『――おっ』


 ……お?


『――お前のファンだったからに決まってるだろ! 分かれよ!』

『――!」


 その叫びは――

 決して、敵に向けられるものでは無かった。


 嫉妬ではなく、羨望。

 好敵手であろうとした少年の叫びだった。


『一ファンとして、最後の場所まで送ってやるって言ってんだよ! このままじゃ、もう戦えなくなるんだろ!?』


 メッセージが送られてくる。文面は空白。

 大量の課金アイテムが添付されていた。


『……余ったら、絶対に返せよ』

『あぁ……。何もかも元通りになった時は、必ず』


 その返事を聞いて、[admiral]がVC(ボイスチャット)から落ちた。


――――


叢雲(ムラクモ)……! 最期までありがとう……!』

括木(くくるぎ)……!?』


 叢雲(ムラクモ)が、落ちた――

 いよいよもって、限界が近づいているということだった。


 括木(くくるぎ)が、真剣な声で告げる。

 まるで、これが今生の別れかのような――


『僕も――[ケルベロス]さんのファンでした。こうして……、最期の時まで手助けできたことを嬉しく思います』


『……待って。リタイアだなんて嘘だよね……?』


『[ダンタリオン]さんも、[シトリー]さんも……ありがとうございました』


 その言葉を最後に――

 [括木(くくるぎ)]がVC(ボイスチャット)から落ちる。

 [admidal]の時とは違う――リタイアによるものだった。


 ――ミシッ。


『……括木(くくるぎ)くん――!』


 [ケルベロス]の悲痛な叫びが響く。

 辛い。苦しい……!


『……≪Adonai(終わり無き)Melek(戦いの王国)≫の時に場所は分かっただろうけど。……助けに来なくていいから』


 [シトリー]の言った通り、自分は確かに確認した。

 砲弾が――鐘楼の方から(・・・・・・)飛んできていた(・・・・・・・)ことを。


『年越しの時は、ここに上ったんだっけ? 良い眺めだよねぇ。……今はどこもまっ黒だけど』

『敵の湧きが少ないのは――ここが[ベアトリーチェ]にとって、思い出の場所だからなのかな』


 今、ピンチに陥っているのはそっちのはずなのに――

 それでも二人は淡々と会話している。


『あとは玉ちゃんがいれば、ちゃんと辿りつけるでしょ』

『さて、ここまでみたいだね。僕ももう限界だ』


 恐らく、[adomiral]も既にリタイアし(落ち)ているのだろう。


『[シトリー]。彼らはちゃんと言いたいことを言ったけど……。君はどうするんだい?』

『…………』


 [ダンタリオン]の質問に、[シトリー]は答えない。

 そんな様子に何を思ったのか、小さくため息を吐いた。


『ふぅ……。[ケルベロス]、僕もこれで通話を落ちるから、君も少しの間だけ――』

『……うん』


 そう言って、VC(ボイスチャット)から落ちる二人。

 自分と[シトリー]だけが残される。


 ――ミシリ。


 …………


『[シトリー]……今までゴメン。謝らせて欲しい』

『何言ってんのさ、グラたん。謝るようなことをされた覚えもないんだけど?』


 きっと――

 今がその時なんだろうと思う。


 最後の最後まで、何から何まで。

 [ダンタリオン]によってお膳立てされていた。


『これまでずっと、一緒に行動してて。それがいつの間にか当たり前になってて――』

『…………』


 …………


『今だって、こうやって助けてもらっている』

『……まぁ、[ダンタリオン]からお願いされちゃったからねぇ』


 こんな状況になってもまだ――

 [シトリー]の調子は変わらない。


 そのことが、どうしようもなく不安を駆り立てる。

 抑えようとしても、声が大きくなってしまう。


『こんな無茶するキャラじゃないだろうが、お前! ――今死ぬと、完全にリタイアなんだぞ……!?』


 それでも、[シトリー]は淡々としている。

 前のように、カッとして返すようなことは無かった。


『……別にさ、WoA(このゲーム)が無くなってさ。……他のゲームに行けばいいじゃん? と、というわけで……たとえ失敗したとしてもさ。ボクは怒ったりしないから――』

『そんなのは嫌なんだよ……! お前がいるWoA(このゲーム)じゃないと! 年越しでも、夏でも、冬でも――イベントには、お前も一緒じゃないと!』


『――ッ!』


 [シトリー]が息を呑む声が聞こえる。

 何か言おうとしている。


 そう分かっていても――

 内側から、言葉が溢れだす。


 ここで言っておかないと……、絶対に後悔する。


『“もしいなくなったら”なんてこと、一度も考えたこと無かった……! だからこの一ヶ月、ずっとどこか調子が狂った感じで――』

()だって――!!』


 遮る様に[シトリー]が叫ぶ。

 今まで抑えていたものを吐き出すかのような一言。


『え――』


 “私”……?


 声も今までとは違うものに変わっていた。

 いや、これまで中性的だとは思っていたけどそんな――


 そこで音声が途切れる。

 [シトリー]のリタイア――


 …………!


『[シトリー]……! おいっ!!』


 呼びかけても返事は帰ってこない。

 VC(ボイスチャット)は完全に切断されていた。


 ――ミシリと。

 自分の中の何かが――


『あああああああああああああああああ!!』


 (ひしゃ)げる音がした。


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