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電脳戦線黙示録~War of The Apocalypse~  作者: Win-CL
第六章 最後の日

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2019年1月 第1週②

『……!? 誰も……いない……』


 天使たちも、[ベアトリーチェ]も――

 [ケルベロス]もいない。


 VC(ボイスチャット)は、いつの間にか切断されていた。

 さっきまでの阿鼻叫喚が、まるで嘘だったかのような静寂。


 一切の音が消えていた。

 風も吹いておらず、木々のざわめきも聞こえない。


 時間が止まっている――

 そう錯覚しそうなほど静かだった。


 気持ちが悪い。嫌な予感がする。


 ――いつだっただろうか。


 [ベアトリーチェ]の参入によって、この世界(WoA)が変わっていく不安を――

 水面に映る像と、波紋に例えたことがあった。


 ――寒気が止まない。

 これだけで(・・・・)終わるはずがない(・・・・・・・・)


 そんな自分の予想に応えるように――

 あの時の例えに準えるように――

 再び世界は変化していく。


 ――『どぷんっ』と。

 そんな音が聞こえてきそうなエフェクトで、空の一部が歪んだ(・・・)


 (ひず)み、(ゆが)み、(いが)み――


 限界が訪れたところで――空が破れる(・・・・・)


 そしてその破れた場所から、浸食する黒――

 それは帯状に。ゆるやかに空を食い尽くしていく。


 あの時[ベアトリーチェ]の身体から溢れ出していたものと同じ――?


『何が起きてんだよおい――』


 こんなイベントなど見たことがない。

 これから何が起きるかも分からない。


 分からないことだらけだ。

 突然の状況に混乱している。


 ――が、一つだけ間違いないことがある。

 これのきっかけは[ベアトリーチェ]だ。


「――グラたん! 今どこ!?」


 [ケルベロス]からのメッセージ。

 すぐさまVC(ボイスチャット)が繋がれる。


 自分のいる場所――


 さっきまでいた街が、大きな城が遠くに見える。

 丁度いい目印があったおかげで、だいたいの距離と方角が掴めた。


『――街の外に飛ばされた。場所は――』


 街二つ分――

 大分離れた場所まで飛ばされていた。


『今すぐ合流しよう。場所はあの街でいいな?』

『待って! 私もそんなに離れてないから――』


――――


 真反対の方向に飛ばされてないのが幸いした。

 街へと向かう途中のポイントで、うまく[ケルベロス]と合流する。


 その頃にはもう――

 空の半分が、例の帯によって黒く塗りつぶされていた。


『絶対変だよこれ……』


 夜空とは程遠い、完全なる黒。

 その中に、星々の瞬きなどは一切存在してない。


 ――?


『……ん。メッセージが――』

『私も。[ダンタリオン]かな……』


 メッセージを開くと――

 送り主は[バアル=ゼブル]となっている。


「全員、今すぐVC(ボイスチャット)を飛ばすので繋ぐこと」


 書かれている通りに、間髪入れず飛んできた。

 急いでそっちへと繋ぐ。


 参加しているメンバーは――


 [バアル=ゼブル]、[パイモン]、[ベレト]。

 [ベリアル]、[ダンタリオン]、[アスモデウス]。

 そして――[シトリー]。


『思った以上に少ないな』


 [バアル=ゼブル]が発言する。

 男性の、良く通る声だった。


『三が日って、微妙な時期だもんねぇ』


 メンバーは自分と[ケルベロス]を入れても、十三人中九人。


『[括木(くくるぎ)]クンも呼んでいいかな?』

『[ハルファス]と[マルファス]も、ログインしている様だから呼ぶぞ』 


 ――――


 数秒もしないうちに、[括木(くくるぎ)]、[マルファス]、[ハルファス]――

 それと[パイモン]に呼ばれた[藍玉(らんぎょく)]もVC(ボイスチャット)参加してきた。


『[ハルファス]。[マルファス]はどうした?』

『いきなり飛ばされて、離れ離れになって……今、別行動中。いきなり知らない敵が現れて、それどころじゃないって』


 どうやら、全員が同じような状況に陥っているらしい。

 そして気になったのは――


『……“知らない敵”?』


 “知らない敵”という、具体的ではない言い方に――

 [ベリト]も同じことを考えたらしい。


『こんなの見たことがないって。形はいろいろあるけど、色がまっ黒』

『……テクスチャーの貼り忘れか?』


 “色がまっ黒(・・・・・)”。

 頭上で侵食を続けているあれと――

 なにか関係があるように思えて、空を見上げる。


 すでに半分以上が、黒に染まっていた。


『訳が分からない……』


 今までに起きたことのない事態に、全員が戸惑っていた。

 ――[バアル=ゼブル]と[ダンタリオン]を除いた全員が。


『まずは状況を把握したい。どうなっている、何があった?』

『簡潔に言うと――[ベアトリーチェ]が暴走した』


 暴走――内にある何か(・・)が抑えきれずに溢れ出ていた。

 そして、それは――今もワールドを侵食し続けている。


『今日のお昼に、ベアトちゃんが出かけたまま帰ってこなくなって――』

『二人で現界まで探しに来た時には、既に襲われている状況だった』


『[ベアトリーチェ]自体にダメージは?』

『無い。元々そうなる様に設定されているらしい』


 あの戦火の中でも、傷一つ付いていなかった。

 表の、見える部分には、傷一つ。


『ダメージを受けてないのに暴走したんです?』


『目の前でグラたんが敵の《奥義》を受けて……。いきなり叫び出したと思ったら、身体から光が――』

『身近な人が傷つくのを見て、強いショックを受けたんだろうね……』


 運営NPC、成長途中のAI。

 そして、感情も持ち合わせている。


 笑ったり、泣いたり――

 この一か月間、嫌というほど傍で見てきた。


『……それで?』


『気が付くと、街からだいぶ離れた場所に飛ばされていた』


 それがここまでに起きた話――


『肝心の[ベアトリーチェ]はどこにいるんだ?』

『例の広場には?』


『私がもうすぐ着きますけど――“目”には入って来ないです』


 【シトリー】第二位、[藍玉(らんぎょく)]。

 ……どこかに隠れていたとしても、彼女の能力ならば見つけることができる。

 その彼女がそう言うのなら、間違いないだろう。


『あれまで姿をくらませたんじゃ、八方塞がりだぞ』

『どこか心当たりは――』


 …………


『……お城は?』


 [ケルベロス]が思い出したかのように、ポツリと呟く。


 確かに、今度来たときに行きたいとは言っていたが……。


『……考えられるのは、そこしかないな』


 メンバーに年末のイベントの事を話していると――


『あ――』


 [ハルファス]が突然、声を上げる。

 [マルファス]の方に動きがあったらしい。


『……弟がやられたっぽい。強さは普通のモンスターと一緒だけど、とにかく数が多いって』


 ……周りに味方がいなかったのか。

 [マルファス]のように非戦闘系だと、単純に数で押されただけでも厳しいだろう。


 倒してメリットがあるわけでもない。

 真正面から戦わず、逃げることを選択するべきか?


『すぐに生き返ったら、通話に入るように言うから――え?』

『なんだよ!? どうなってんだよォ!!』


『!?』

『[ハルファス]!?』


 突然、悲鳴に似た声が上がる。

 中学生ぐらいの――男の子の声が。


 ――[ハルファス(・・・・・)]の方から(・・・・)


『ゴメンなさい、ちょっと弟の声が』

『あぁ……』


 ――たしか、この姉弟は同じ部屋からログインしていたと言っていた。


『なに! どうしたの?』


 どうやら、向こうで[マルファス()]と話しているらしい。

 かすかにだが、その声も聞こえている。


『……え? ロビーに戻らずにログアウトしたって……』


 …………


『ログインは? キャラクター選択にも進めない?』


『……え?』


 …………


『……どうしよう』


 その声は、裏で聞こえている弟のものと同様に――涙交じりとなっていた。


『弟がログインできなくなったって……』


『……全部のエリアで同じことが起きているって、wikiに書き込みがあったよ』

『今死んだら復帰不可ってこと?』


 ダンジョンおよび、地獄・天国・現界でHPがゼロになった場合――

 一定の時間経過後にロビーへと戻されるのだが、それが起きないらしい。


『つまり――』

全エリアでのア(・・・・・・・)ルマゲドン化(・・・・・・)……?』


 ログアウト(・・・・・)したら最後《・・・・・》、ログインできない(・・・・・・・・)


『落ち着けよ。ただのバグだろ? すぐにメンテが入るって……』


 バグが見つかって、メンテナンスが終わるまで暫くの間ログインできない。

 そんなことは、ネトゲをいくつもやっていればざら(・・)にある事だ。


 ただ――こんな異常事態になっていても、運営が動く気配がない。

 ここまで大規模な変化が起きていても強制ログアウトが起きない。通知すらない。


『……入るよな?』


 このまま、素直にログアウトし(落ち)てもいいのか……?


『WoA……無くなったりしないよね? ねぇ!?』


 不安に駆られた[ケルベロス]が、必死に尋ねてくる。

 そんなことを聞かれても、その答えを持っている奴は一人もいない。


 …………


『……僕は[ベアトリーチェ]に接触した方がいいと思う』


「どうせなら、やるだけのことはやってみよう」と。

 これまで得た情報から、[ダンタリオン]はそう答えた。


『このままじゃ、絶対に(・・・)良くない結果(・・・・・・)になる』


『……全員、早く合流した方がいい。例の敵がここにも湧き始めた』

『今何人がそこにいるんだ?』


 [マルファス]のように対処しきれなくなったら、本末転倒である。


 ここで[バアル=ゼブル]たちがリタイアするなど考えられないが――

 あまりにも分からない事が多すぎた。


『今、自分達も広場に到着した。道中で何度か奴等と戦闘をしてな』

『途中にいた悪魔と天使もいるから、広場にいるのは二十人ほどです』


『[シトリー]さんと[ダンタリオン]さんと――あと[括木(くくるぎ)]さんがまだですけど、そっちは大丈夫なんですか!?』

『僕ら三人も、もう街に入ってる。一緒に行動してるよ。』


 ……着々とメンバーは集まっていた。

 脱落(リタイア)してしまわないよう、協力するために。


 そして、今この瞬間――


『やっと着いた! 街の入口!』


 自分達二人も最後の舞台へと上がる。


 入口から見える、大きな城。

 その中でも一際高い尖塔に、[ベアトリーチェ]はいる。


 いつの間にか空は――

 完全に黒に塗りつぶされていた。


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