2018年12月 第4週―②
図書館での雑談も進み、昼が過ぎて――
「そんじゃ、そろそろ出る準備でもするかぁ!」
話の切りの良い所で、[ベリアル]が立ち上がる。
「……姉ちゃん、お寿司の前に買い物だって」
「えええぇぇ!?」
どうやら、二人もこのタイミングで落ちるらしい。
「えー……。それじゃ、落ちる前に一枚だけ!」
「あっ、それじゃあ私も!」
サンタ姿の[ベアトリーチェ]を中心に、トナカイ四人が集まって撮影を行う。
一枚だけとは何だったのか――
机の上に[ベアトリーチェ]を乗せて、ちょっとした撮影会となっていた。
「それじゃあ……また今度」
「年末も少ししかログインできないと思うけどね」
「俺は年が明けてからだわ。土産話を期待してろよ!」
『ああ! また来てくれ!』
「それじゃ、また年末にな」
建物グループの三人と――
「私もこれから買い物だから! ホントだからね!」
「わかったわかった」
――[ケルベロス]。
……まさか本当に、一日中ログインするのは自分だけ?
少し不安になりながら、[ベアトリーチェ]と一緒に手を振って見送った。
…………
[ベアトリーチェ]と二人、テーブルで一息つく。
『やっと静かになった……』
静寂――
それも束の間のこと――
「やほー! きたよー!(´。✪ω✪。`)」
「はろー。図書館なんて久しぶりだわ」
『こ…んど……は……!』
――[ブエル]と[アスモデウス]。
「[ブエル]ちゃんがサンタコーデで登場ー!ヽ(≝∀≝)ノ」
もっと騒がしいのが来た……!!
珍しい組み合わせだった。
二人とも現界で、人間を対象に動く"仕事"だからか?
「ベアトちゃんとお揃いスタイル!(੭ु ›ω‹ )੭ु⁾⁾♡」
『とってもモコモコしているな!』
[ベアトリーチェ]を挟むようにして、二人が席に着く。
間の彼女は、[ブエル]の帽子の先に付いている玉に目を奪われていた。
同じサンタコスチュームでも、[ブエル]の方が少し豪華なものになっている。
それに加えて、帽子も、ブーツも、手袋さえも揃っていた。
「全部BOXで揃えたのか……?」
「もちろん! 年に一度のクリスマスイベントだし? 揃うまで回しちゃうよねー?ლ(╹ε╹ლ)」
[ブエル]の遊び方は、[バアル=ゼブル]とは違った方向の重課金スタイル。
その時のイベントアバターは勿論のこと、そのアバターを保管するためのインベントリ拡張にも存分に課金していた。
「いや、お前ぐらいだろ。そこまで課金するのは」
自分の場合、そもそもBOXの内容の確認すらしてないし。
「(╭☞•́⍛•̀)╭☞えー」
「指をさすな、指を」
絵文字を使っている時点で失礼もクソもないが、一応注意しておく。
といっても、初めて話した時からこんな感じなので――
今更言ってどうにかなるとも思っていないけど。
……なんだかんだで、このメンバーも長い付き合いだった。
そして――
[ブエル]がいる場合、たいがい他に誰がいてもアバターの話になる。
「アスモちゃんも、いろいろ着れば可愛いと思うんだけどなー(๑•́‧̫•̀๑)」
「私はこれが気に入ってるから。楽しそうだなぁとは思うけどねぇ」
[アスモデウス]も[アスモデウス]で、一年中白衣というスタンスを貫いている。
本人曰く、現実でも長く着ているせいで、これじゃないと落ち着かないらしい。
「あ、そういえば帽子余ってた(° ꈊ °)✧キラーン」
「……仕方ないなぁもう」
送られてきた、サンタの帽子を被る[アスモデウス]。
『いいなぁ……』
「もちろん、ベアトちゃんのもあるよー。クリスマスプレゼントー٩(๑′∀ ‵๑)۶」
『本当か!? ありがとう!』
相当BOXを回したのだろう。
ダブったアバターを、[ベアトリーチェ]にも渡す[ブエル]。
…………
「いつも真っ黒いアバターだし、飽きない? トナカイスーツいる?」
「いらん!」
「せっかくのクリスマスなのにか?」
じぃーーー。
「…………」
おい待て、どういう意味だその視線は。
じわりと――変な汗が出てきた。
――――
流石に来客が来ているとはいえ――
イベントの殆どを図書館で過ごすわけにもいかない。
――というより、こっちが本来の目的だ。
[ベアトリーチェ]が街中を歩くのに、自分が付いて行く予定だったのだが――
「クリスマスイヴだってのに、人がいっぱいだねヾ(o´∀`o)ノワァーィ♪」
「いや……人が多いのここだけかも」
「原因はお前だ」
一目瞭然。
[ブエル]目当ての人と、[ベアトリーチェ]目当ての人の層が違い過ぎる。
唯一の救いは、一緒にSSに映るよりも、遠くから目的の[ブエル]さえ撮れればいい、という人ばかりなことだろう。
それでも、[ベアトリーチェ]と記念撮影をする組と合わさって――
進むのも困難な時があるのだけれど。
『――[ブエル]も、いつもこんなに忙しいのか』
注目される存在としては、先輩という立ち位置になるのだろう。
[ブエル]を尊敬の眼差しで見上げている。
「これもファンサービスだし、平気平気ー」
…………
「一緒にSS撮ってもらっていいですか?」
『あぁ! 構わないぞ!』
[ブエル]の真似をしているのか、やけに溌剌としている[ベアトリーチェ]。
道を歩いているときも、周りに手を振ったりしてサービス精神旺盛だった。
「それと……できれば、そこの人も一緒に」
「……え゛」
またか――
「グラたーん。テンションが低いんじゃない?」
「お前……。分かってて聞いてるだろ」
“そこの人”――間違いなく、自分のことを指していた。
[ベアトリーチェ]にせがまれ、断りきれず――
[ブエル]に渡されたアバターを装備してしまった自分のことを。
《トナカイスーツ》によって、頭のてっぺんからつま先までトナカイになった自分のことを。
唯一の救いは、キグルミ状態になっていることぐらいだろうか。
中途半端な仮装よりは、まだマシだった。
――行く先々でのSSの嵐。
それら一枚一枚が、画像データとして保存されていく。
そのことを考えると、いたたまれない気持ちになる。
『どうしてこうなった……?』
「年末はもっと盛り上げようね!(۶•̀ᴗ•́)۶」
『よし! 任せろ!』
勘弁してくれ……。
クリスマスでこれなのだから、年末なんて――
『はぁぁぁ……』
恐ろしいぐらいやる気になっている二人を見て。
深くため息を吐いた。




