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電脳戦線黙示録~War of The Apocalypse~  作者: Win-CL
第五章 その名は『ベアトリーチェ』

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2018年12月 第3週

『どうだ!? 凄いだろう!』


 図書館に入って一番に飛んできたのは――

 嬉しそうな[ベアトリーチェ]の声。


『おっとと――』

『怪我をしないようにね』


 急いで椅子から降りて駆け寄ってくる。

 一刻も早くこの喜びを伝えたかったと言わんばかりの勢いである。


 なぜ、こんなに上機嫌なのかというと――


『あぁ……』

『良かったじゃない! これで現界に行けるね』


 [ベアトリーチェ]の現界行きが、決まったのだった。


――――


 それを見つけたのは、昨日の夜のこと。


 あれから数日も経たず――

 公式サイトにて運営の告知が出たのだ。


 専用ページに、でかでかと。

“年末年越しイベント! 現界の一時非戦闘エリア化!”の文字があった。


『そんなまさか……』


 ……思わず声が出てしまっていた。


 年越しイベントを現界で行うにあたっての、地獄や天国と同様の非戦闘エリア化。

 すなわち、天使と悪魔が出会ったところで、戦闘行為は一切禁止。


『“何とかする”って言っても早すぎるだろ――』


 ――どこからどう見ても、[ベアトリーチェ]のためのものだった。


――――


『ありがとう! 今から年末が楽しみだ!』

『戦闘行為自体の禁止なら、ベアトちゃんも安心だねー』


 [ベアトリーチェ]の話によると――

 ゆくゆくは、移動型の非戦闘エリアも用意されるらしい。


『どちらかと言えば、ステータスの強化が行われるものかと思っていたんだが……』


 それこそ、襲ってきた敵に脅威を感じないぐらいに。

 ……それだと[ベアトリーチェ]の精神面に影響が出ると判断したのだろうか。


『八頭身ボンキュッボン?』

『なんで外見が変わる必要がある?』


 それに、ボンキュッボンって表現古くないか。

 自分よりも一世代上でも、使っているか怪しい表現だった。


『それもなかなかに良い案だな!』

『おい!』


 [ベアトリーチェ]が乗ってきた。

 そんなマスコット嫌だぞ俺は。


『そういえば、年末のイベントについては出ていたけど……。クリスマスについてはどうなるんだい?』

『クリスマス――がどんなイベントなのかは知らないが……』


 クリスマスは知らないのに、ボンキュッボンは知ってるのか。

 どうなってんだ運営。


『地獄で過ごすことになる、ということだけは聞いたぞ』


 特別なアイテムなどの配布はないらしい。

 イベント面で不公平な要素を出すわけにはいかないのだろう。


 普段通り、地獄の街を回っていてくれというわけである。


『あとは……ユキが見られるらしいな!』

『そうなのか? そいつは初耳だ』


 去年の十二月はまだβテスト中で、そんなイベントなど無かった。

 今回は、そういったシステム周りのアップデートに力を入れているらしい。


『クリスマス……』


 [ケルベロス]がポツリとつぶやく。


『[シトリー]も一緒ならいいのにね』


 恨みがましそうな声だった。

 一応、[ケルベロス]に対しては普通に接しているらしく。

 ぽつぽつとだが、メッセージのやり取りもしているらしい。


 しかし、いざ喧嘩についての話題になると――

 はぐらかされてしまうようで。


“モヤモヤというか、煮え切らない感じが嫌だ”

 というのを、思いっきりにぶつけてくる。


 そんなことを言われても、と思う。

 こちらだって、精いっぱいのことはしているつもりだ。


『……一応、メッセージは送ったぞ』


 ……もちろん、反応は無し。

 普段からそんな感じなので、あまり深刻には考えてないのだが――

 彼女([ケルベロス])はそう思わないらしい。


『そこはもうちょっと熱い感じで!』

『熱い感じってなんだよ!』


 急に出たスポ根発言に戸惑いを隠せない。


『「俺が悪かった! 許してくれ! 俺の親友はお前だけなんだ!」みたいな?』

『……無茶言うな』


 親友って……。

 そんなことを言った日には、鼻で笑われるのがオチだろう。


『え? 急に何言ってんの?』という怪訝そうな声が脳内で再生される。


 [シトリー]なら間違いなく、そう言ってくるに違いない。

 最悪、SS(スクリーンショット)で保存され、永遠にネタにされかねない。


 面と向かえば、何か言葉も出てくるのだろうとは言うものの――

 もともと神出鬼没な[シトリー]である。


 街を巡っている時にばったり、なんてことは一度も無かった。


『こんなことを聞くのは憚られるんだけど……』


 [ダンタリオン]が言葉を濁すなんて滅多にない。

 本気でこちらを傷つけないよう、気を遣っている証拠だった。


『[シトリー]に避けられてるんじゃないかい?』

『…………』


 自分も薄々感じていたことなだけに、冗談だと笑い飛ばすこともできない。

《目》があるだけに、偶然会わなかったとも考え難かった。


 ――【シトリー】第一位の名前は伊達ではない。

 一緒に行動していただけに、その能力の高さは痛いほどよく分かっていた。


 索敵能力だけを見るならば、WoA内で右に出る者はいないだろう。


『……[グラシャ=ラボラス]は嫌われているのか?』

『いや、まさか……』


 幼い故か、容赦のない問いかけだった。

 いまさら嫌うも何も――


『あいつとは半年以上も一緒にプレイしてるんだぞ?』

『そう言えば、私に会った時はもう知り合いだったんだっけ。いつから?』


 いつからと言えば、自分が[グラシャ=ラボラス(第一位)]になった時だから――


『……三月の頭ぐらいからだ』


 それから約九か月。

 こうして見ると、思った以上に長い。


『私と二週間しか変わらないじゃない!』

『僕も[シトリー]と同じかな。≪地獄の宮殿(パンデモニウム)≫での集まりの時だね』


『確かに、直接会ったのはその時か』


 結局、ここにいる面子とは長い付き合いだった。


『[ダンタリオン]は、[グラシャ=ラボラス]と喧嘩したことがあるのか?』

『僕は――誰かと喧嘩したことなんて一度もないよ』


 [ダンタリオン]は終始柔らかいイメージがある。

 喧嘩以前に、声を荒げたことすら一度も見たことが無い。


『長い時間一緒にいたら喧嘩するわけじゃないのか……。[ケルベロス]は?』


『一度大喧嘩したっけ。私が初めたばかりの時に』

『あ゛ー……』

 

 呻くことしかできない。

 本音を言えば、叫びだしてでも遮りたい話題だった。


 四月の半ば――〈今日のわんこ同盟〉の話だ。


 一ヶ月レベル上げに付き合ったからって保護者面して――


『思いっきり決闘で叩きのめされちゃってねー』


 更には、上から目線で諭していたなんて。


 他人がしているところを見ても十分恥ずかしいのに――

 それをしているのが、自分なのだからどうしようもない。


 もし過去に戻れるのならば、全力で止めている事案だ。

 

『[グラシャ=ラボラス]にとっては黒歴史なんだね』

『くろれきし?』

『恥ずかしい思い出ってことさ』


 横で[ダンタリオン]と[ベアトリーチェ]が好き勝手なことを言っていた。

 精神的な何かがガリガリと削られてゆく。


『喧嘩をしたから恥ずかしいのか?』

『か……勘弁してくれ……』


 それを聞くのか?

 [ベアトリーチェ]の無垢な問いかけに、惨めな気分になる。


『……もしかして今、顔真っ赤?』

『はぁ!? 何言ってんだ!?』


 ――図星だった。顔から火が出そうだった。間違いなく赤面していた。

 絶賛、机に突っ伏している最中である。


 ……こいつ、エスパーかよ。


『とりあえず。ちゃんと[シトリー]と話さないと』

『……分かってるさ。このままじゃいけないことぐらい……』


 そう言って、メニュー画面を開いたのだが――


『……ん?』


 気が付けば、[シトリー]は既にログアウト状態となっていた。


『さっきまでログインしてたのに――』

『もう年末の準備で忙しいのかな……』


 流石にこのままじゃ拙いだろう。

 そう重い腰を上げた時に限って、上手くいかない。


 [ケルベロス]の言ったように、忙しいからなのか――

 その後数日経っても、[シトリー]がログインしてくることはなかった。


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