2018年12月 第1週―②
≪地獄の宮殿≫での会合の翌日――
さっそく[ベアトリーチェ]と街中を回ることとなった。
『ベアトちゃん、図書館にいるんだよね?』
――もちろん、[ケルベロス]付きで。
『ああ。悪魔陣営にいる間、[ダンタリオン]が預かるって話になったからな』
いつも手口、ロビーで待ち伏せ、とは言ったものの――
一人で任されるのも辛いと思っていたところだ。
正直、お守りの対象が増えるという不安要素の方が大きいのだが。
――――
≪大図書館≫
『……凄いな』
悪魔、悪魔、悪魔――
今までに見たことのないぐらいの悪魔で、図書館は埋め尽くされていた。
普段感じていた暖かさなどは無く。
むしろ、熱気に包まれているかのような状態である。
『これ全部、[ベアトリーチェ]目当てか……』
よく見ると列が作られており――
恐らく、その最前列に目的の少女がいるのだろう。
「あ、ケロちゃん。それと、[グラシャ=ラボラス]も。いらっしゃい」
「お疲れ様ですー」
「凄い人だな、お疲れ様」
途中途中で列の整理を行っている【ダンタリオン】のメンバーたち。
すれ違う度に挨拶をしながら、先頭へと向かう。
『アトラクションの順番待ちみたいだね……』
『そんなにがっつく必要ないだろうに……』
少なくとも、一月末まではいるんだぞ?
先頭へ近づくにつれ、動きづらくなってくる。
あまりの人の多さに辟易していた。
そんな時――
『……? [ダンタリオン]からメッセージが……』
どうしたものかと考えていた矢先に、メッセージが飛んでくる。
自分たちが来たことを、メンバーから伝えられたのだろう。
「流石に人が多すぎるから、少し待ってもらえるかな?」
『……なんて?』
『人が少なくなるまで待ってくれってさ』
仕方がないので、二人で図書館の端へと移動して待機することにする。
…………
三十分も経つ頃には人もはけ、どうにかして先頭までたどり着くと――
[ベアトリーチェ]と[ダンタリオン]がそこにいた。
『やぁ、いらっしゃい。待ちわびていたよ』
『お疲れ様。……大丈夫か?』
その声音はいつもと違い、少し疲れているように聞こえた。
『昨日、[ベアトリーチェ]を迎えてからずっとこんな感じでさ』
『ずっとって――』
『……まさか、徹夜!?』
『丁度、昨日今日とお休みだしね』
驚く[ケルベロス]に、そう笑って答える[ダンタリオン]。
[ベアトリーチェ]が眠った後、起こさないようにと番をしていたらしい。
『流石に眠たかったけど……。この勢いも、初日だけだと思うから』
と言いつつも、欠伸の一つも出さない。
なかなかのプロ根性だった。
…………
自分たちが入った時点で、入場制限(?)をかけていたのだろう。
その後、一時間もしないうちに列は無くなり――
ようやく、図書館にも静寂が訪れた。
そして――
今度は自分たちの番。
案内役として、[ベアトリーチェ]と街を回らなければならない。
『[ダンタリオン]も[括木]も、他のみんなにも世話になった!』
そう言って、図書館の職員(?)に手を振る[ベアトリーチェ]。
『いってらっしゃい。街巡り、楽しんできなよ』
『それではまた夕方に。楽しんできてください』
『それじゃあ、あとは任せるよ』
『お、お疲れ様……』
どうやら、ログアウトせずに仮眠に入るらしい。
いそいそとカウンターの奥へと引っ込んで行った。
――――
テキストでの会話だけではなく、VCにも参加できるらしい。
相変わらず謎の技術力だが――
移動しながらでチャットを打つのも面倒だったので、非常に助かっていた。
『こちら側の図書館も、なかなかに居心地が良かったぞ!』
『そりゃなによりだ』
ひとえに[ダンタリオン]達の頑張りのおかげだろう。
あの人数をよく捌いていたものだと思う。
出る前に[括木]から聞いた話によると――
[ベアトリーチェ]自身に、体力の概念があるらしく。
写真会も、間に休憩を挟みながら行っていた様だった。
『こちら側では図書館を利用しにくる者が多かったな』
『天国は少なかったの?』
[ベアトリーチェ]自身を目的に来るものはいても――
図書館に調べものに来る天使は殆どいなかったのだと言う。
『こちら側に比べれば。[ラジエル]ですら殆ど外に出ていた』
[ラジエル]――【ラジエル】、知を司る天使。そのグループの第一位。
恐らく、向こう側の図書館には管理する者がいないのだろう。
『まぁ、[ダンタリオン]が特別な気もするけど……』
――――
その後も、雑談を続けながら各所を巡ってゆく。
歩幅も小さく、徒歩での移動は疲れるのか休み休みの街巡りだった。
そうして二時間が経過した頃――
ぐぅぅぅぅ。
『ん……?』
『今のなんの音?』
[ベアトリーチェ]が急に立ち止まったため、追い越してしまう。
『いったいどうし――』
振り向くと――
両手でお腹を押さえ、顔を真っ赤に染めていた。
…………。
『はああぁぁぁぁぁ! これなんてシャッターチャンス!?』
『……まさか、腹の虫まで』
リアルすぎるだろ。
……この先、空腹システムなんて実装されないよな?
『お腹すいた? どこかで何か買ってこようか?』
[ケルベロス]のその言葉に、少しだけ頷いた。
本当にお腹が空いているらしい。
『いや、それなら――』
この近くに、丁度いい店が――
――――
「おや、[グラシャ=ラボラス]じゃないか。またなにか必要なのかい? 最高の料理を振る舞うぞ?」
≪Trattoria del Diavolo≫
訪れたのは、[ニスロク]――地獄の料理長の店だった。
食事をするならば、ここが一番だろう。
案内も兼ねて一石二鳥だ。
……それに、下手な物を食べさせて体調が悪くなっても困る。
「[ケルベロス]も一緒か。九月もそうだったけどお前ら仲が――」
ぐぅぅぅぅぅぅぅぅぅ。
料理の匂いも感じているのだろうか?
空腹感が増しているのか――
腹の鳴る音が、より大きく、長くなっていた。
『[グラシャ=ラボラス]……お腹が空いたのだが……』
自分の身長の半分ほどしかない[ベアトリーチェ]が――
服の裾を掴みながら、こちらを見上げてくる。
……すごい破壊力だった。
『お、おう。すぐに注文してやるから――』
「へぇ、誰がいるのかと思えば……。例の【サタン】様かね。始めまして、何か食べたいものはあるかい?」
『ケーキ!』
『即答か』
おいおい。
料理長にお菓子作りさせるのか。
「よし! ちょっと待ってなよ!」
「いけるのか!?」
「俺を誰だと思ってんのかね。地獄の料理長だぜ」
アイテムボックスから次々と材料取り出す。
そして――
「和、洋、中華なんでもござれ――」
と言っている合間に、イチゴのショートケーキが完成していた。
「ほうら、バフも完璧!」
「すごい……」
料理ステータスによる付属補正値もMAX。
あまりの完成度に、神々しい光さえ放っている。
紛うことなき、最高の一品だった。
『……いいのか?』
「あぁ、悪魔長様にサービスだ。是非とも食ってくれ」
『……いただきます』
恐る恐ると言った様子で手を伸ばす。
そして一口齧って――
『……おいしい!』
顔をほころばせていた。
瞳が輝きに満ちていた。
『この料理を作ったシェフを呼べ!』
「目の前にいるだろ」
むしろ作るところを見ていただろうが。
「いいねぇ。ここまで美味しそうに食べてくれる奴なんていないよ」
「そりゃあ、味は分からないからな。食べてるのはキャラクターだし」
そう話している横で――
二つ目のケーキの上に乗っかっているイチゴを摘んでいた。
『ふああぁぁぁ……。か……可愛い……』
[ケルベロス]だけではなく――
その光景を見かけた、道行く悪魔たちも一緒になって群がる。
目には見えないが、SSの嵐が巻き起こっているに違いない。
そんなことも意に反さず。
[ベアトリーチェ]はひたすら無心にケーキを頬張っていた。
――――
「余分に作ってるから、持って行きな。我らが悪魔長様へのサービスだ」
お土産用のショートケーキを渡される。
いつになくサービス精神旺盛だった。
「こんなに貰っても悪いだろ」
「別にお返しなんていいさ。まあ、最後に一枚だけ――」
そう言って、最後に――
店中の悪魔達を集めて、集合写真を撮った。
「宣伝用ということで。今後とも、ご贔屓に」




