2018年 11月末 閑話
バフ付与イベントが始まるまで、多少の待機時間があった。
アルマゲドン中にリタイアしたプレイヤーも復活し――
先の戦いについて、語り合っている。
主力同士、全軍を上げての正面衝突。
歴史に残る大勝負だっただろう。
それを間近で見た、参加した。
冷めやらぬ興奮が、ありありと伝わってくる。
その興奮の渦の中、自分はと言えば――
『よくまぁ、ギリギリまで《奥義》を使わないで頑張ったよねぇ』
『だって……ねぇ? 「頼んだぞ」って言われたし……』
[シトリー]と[ケルベロス]に挟まれ、針のむしろ状態だった。
予告されていた通りの説教タイムである。
『あ、ああ……。ありがとな……』
アルマゲドンが終わってからのこの時間を――
こんなに長く感じたことがあっただろうか。
なるべく逆鱗に触れないよう、慎重に動こう。
なんとかして別の話題に逸らさないと……。
『く、[括木]も助かった。ありがとう』
とりあえず、これ以上直接話すのは自殺行為だ。
まずは、[括木]に話題を振って――
『いえ……図書館では“みんなで”って言ってくれましたし。それに、実際に飛び込んだのは叢雲ですから』
……盛大に失敗していた。
いきなりの逆鱗タッチかよおい。
『言いだしっぺが“一人で戦いたい病”に侵されてるんだもんねぇ』
……冷たい色を含んだ声。
トゲトゲしたと言うよりは、鋭利な刃物のようだった。
『……カバーできない所まで前に出たのは悪かったと思ってる。でも――』
あれは半ば事故のようなものだったし――
そうしないと、[ケルベロス]が《奥義》の的になっていただろう。
だから、こうするしかなかった。
――とは言えなかった。
『……でも?』
『……結果的には勝てただろ』
自分が[ЯU㏍∀]さんを抑えて。
その間にみんなが敵の主力を倒して。
そりゃあ、一対一では負けたけど……。
全く計算していなかったわけではない。
どこかで、上手くいくだろうと判断したが故の行動だった。
過程はどうであれ、全員で勝利を掴んだことに間違いはないはずだ。
そう自分を納得させながら、言葉を紡ぐ。
『運が良かっただけでしょ? たまたま[ЯU㏍∀]さんが他の天使と乗り込んできて、たまたま決闘に応じてくれて、たまたま――』
いつもならば、一言二言で終わるはずが――
今回は止まる様子を見せない。
妙に噛みついてくる。
『[シトリー]……?』
[シトリー]のいつもとは違う様子に、[ケルベロス]も不安げに声をかける。
『グラたんさぁ。もしかして――』
[ケルベロス]の呼びかけに応えず、続ける[シトリー]。
少なからず、勝利によって高揚していた自分の心を、深く抉ってきた。
『まだ、”自分は一人でもやれる”って勘違いしてるんじゃない?』
『――!』
血が、噴き出したような感覚だった。
“カッとなる”よりも、その表現の方がしっくりときた。
それまでの熱をそのままに。マグマのように煮えたぎって。
声を荒げてしまう。
『だから悪かったって――!』
『“だから”? だからってなんなのさ!』
『――みんなお疲れ様』
ヒートアップしかけていたところに――
静かに涼やかに割り込んだ声。
『[ダンタリオン]……』
いつの間にVCに参加していたのだろうか。
そんな自分の疑問をよそに――
何事も無かったかのように会話に加わる。
『今回のMVPは[グラシャ=ラボラス]だね』
『……本人は負けたけどねぇ』
『……無茶言うな。文句があるなら、お前が戦ってみればいいんだ』
[シトリー]も出鼻を挫かれたのか、声のトーンは戻ったものの――
相変わらずトゲトゲとした言葉が飛んでくる。
『……もしかして邪魔しちゃったかな?』
『そんなことないよ!? ありがとう!』
…………
『もう! 二人ともせっかく[ダンタリオン]が労いに来てくれたんだから!』
クールダウンに時間がかかっていた。
上手く言葉が出てこない。
『……[バアル=ゼブル]の方が活躍してたんじゃないか?』
素直にありがとうとも言えず――
そう返すのがやっと。
いろいろ見透かされているような気がして、落ち着かない。
『君が頑張ったから、[バアル=ゼブル]が活躍できたってことさ』
『…………』
[シトリー]はまだ不満そうに口を閉ざしていた。
――――
『――そろそろみたいだね』
雲が割れる演出が始まる――
バフ付与のイベントが始まるのだろう。
割れた雲の隙間から少女が降りてくる。
前回と違い、服も、背中に生えた翼も黒く染まっていた。
――悪魔の翼だ。
そして、大きく息を吸い――
高らかに口上を述べ始める。
『我が名は悪魔長[サタン]! よくぞこのアルマゲドンで勝利を収めた! 神への反逆の力を受け取るがいい!』
……口調は変わらないらしい。
今後、ずっとこの調子でいくつもりなのか?
『あああぁ! 来たよ来たよ! ベアトちゃん!』
過剰に反応していたのは[ケルベロス]だけではない。
今回アルマゲドンに参加した者の殆どが、この瞬間を待ち望んでいた。
揃いも揃って単純な者ばかりだったが――
それ故の勝利だということは認めざるを得ない。
歓声――
[サタン]を迎えた喜びで、テキストウィンドウが埋め尽くされていた。
『ほんと、カリスマだけは絶大だな……』
『――皆の者、よろしく!』




