2018年 11月末 アルマゲドン―①
今年最後のアルマゲドンが――
もうすぐ始まろうとしていた。
「今回は勝率どれくらいなんだろうねぇ」
天使側が[ルシフェル]にかまけていたおかげで、こちらの“仕事”の結果は上々。
アドバンテージは十分に取ることができた。
更には、来月こそはこちらの陣営に迎えようと――
わざわざ課金装備を揃える奴もいたぐらいには、士気が上がっている。
「ボーナスが入ってて五分五分ぐらいかな」
「これで五分五分か……」
元々のスペック差、《奥義》によるイレギュラーの発生、マップの構造――
それらを鑑みて[ダンタリオン]が出した勝率は50%。
この内の一体何割を、[ЯU㏍∀]さんが占めているのだろうか。
――――
開戦の喇叭が鳴り響いて十分――
[シトリー]の報告によって、一気に慌ただしくなった。
『[カマエル]が出てきてる! 他の天使達と一緒にMAPの中心に向かってるよ』
――来た!
『思っていたよりも早い?』
『かもねぇ。まぁ予想の範囲内ではあるけど――』
鼓動が早くなる。
このアルマゲドンの命運を決める戦いが、間もなく始まってしまう。
『他の天使達と来てるのか?』
『最前線にいる玉ちゃんからの情報だと……』
[ミカエル]、[ラファエル]、[ウリエル]――
『うわ、オールスターじゃん』
どうする――と考えるまでもないだろう。
あらかた食い荒らされた後に、出て行ったところで意味がない。
[カマエル]がここで出てくる以上、自分も前に出るしかないだろう。
『総力戦か……』
こちらの前線も出ている以上、MAPの中心部。
そこで、主力同士がぶつかることとなる。
味方が四大天使の相手をしている間――
[カマエル]を抑えるのが自分たちの仕事だ。
そこが戦火の坩堝だとしても、怯むわけにはいかない。
大丈夫だ――
そう、自身を鼓舞して。
急いで、MAPの中心へと向かった。
――――
――いた。
戦の鬼と化し、小型斧を振るう紅い影。
既に戦争は始まっていた。
次々に、視界の先で味方が倒されていく。
[ダンタリオン]の指示外の悪魔たちだろう。
連携もクソもあったものじゃない。
『[シトリー]。回避のタイミングは任せるぞ』
これ以上、無為に戦力を削らせるわけにはいかなかった。
『……分かった』
大きく息を吸い、一気に間合いを詰める。
どんなタイミングでも回避行動に移れるよう――
[シトリー]の声に耳を傾けながら。
『俺はここだ――!』
このまま倒せるだなんて思っていない。
せめて向こうの意識をこっちに向けることができれば……!
勢いよく放った攻撃は、真っ直ぐ[カマエル]へと飛んでいったものの――
――ドッ!
『なんだ――!?』
勢いよく出現した“壁”により弾かれてしまった。
寸前に別の天使が現れたのが見えたが……。
『【ペネム】が割り込んだっぽい。例の壁もそいつの《奥義》みたい――』
地面から飛び出してきた“壁”。
――先々月の記憶が蘇る。
まさか、また[admiral]が?
そんな考えが頭をよぎるが――
突然の[シトリー]の声にかき消された。
『――緊急回避! ケロちゃんも《奥義》を!』
『どうした!?』
目の前は壁で塞がれており、天使の姿は見えなくなっている。
状況の判断がまだ出来ていない。
回避って、どこからの攻撃に反応すればいいんだ?
『いいから急いで! [カマエル]の奥義が来る!』
『《奥義》って、壁があるんだから――』
…………?
『――――っ!』
[カマエル]の《奥義》は壁を貫く――!
『[ケルベロス]! 早く“門”を!』
自分は回避できるだろうが、他の悪魔はそうはいかない。
壁によって視界を遮られているため、いつ攻撃が飛んでくるか分からないからだ。
『でも、このままだとグラたんが――!』
[ケルベロス]より前にいる悪魔まではカバーすることができない。
前に出ようにも、そんな時間があるはずもない。
そうやって躊躇っている間に――
「≪This gate divides hope and despair≫」
[ダンタリオン]の指示をうけた、他の【ケルベロス】のものだろう。
ジャラジャラと鎖を鳴らしながら“門”が出現する。
一つや二つではない。
複数の“門”が、城壁のごとく横に広がってゆく。
自分の背後を塞ぐようにして――
“門”の向こうに[ケルベロス]を残して。
『グラたん――!』
[ケルベロス]が悲鳴のような声を上げる。
自分を含めた何人かの悪魔が――
“壁”と“門”の間の狭い空間に取り残される形となった。
逃げ場は、もちろんない。
だが――
『――それでいい! こっちは《奥義》で回避するから心配するな!』
ここで主力が負傷してしまったら、一気に不利になる。
[ケルベロス]はもちろん、そこには[バアル=ゼブル]もいる。
[ダンタリオン]によって打たれた最善手。
あとは駒である自分がどこまで動けるか――
『――来る!』
「≪Pay with blood and life ≫」
《奥義》を発動させた次の瞬間には――
「≪Elohim Gibor≫」
――ゾンッ!
例の切断音と共に、斬撃が飛んできた。
…………
“壁”が横一閃に切断され、光となって消えてゆく。
『大丈夫なの!? ねぇ!!』
『……大丈夫だ。[シトリー]が知らせてくれたおかげで、ダメージはない』
けど――どうしたものか。
「先手を取るためだけに、味方の《奥義》を使い捨てるなんてねぇ」
「悪魔だったころの名残かな? この応用力の高さは」
「そんな面倒なことをしなくても勝てるのに」
“壁”が消えた先に待ち受けていたのは、絶望的な光景。
[シトリー]が言っていたように、四大天使まできっちり揃っていた。
…………
目の前には天使の群れが。
背後は“門”によって塞がれている。
回り込んで自陣まで戻るか?
それで、全軍挙げての殴り合いに加わるか?
『いや……』
……せめて、[カマエル]だけでも抑えておかないと。
彼女の一撃によって、一気に崩れてしまうことだけは避けたい。
それなら――
イチかバチかの賭けに出てやろうじゃないか。
――――
「今回は逃げなくてもいいのか?」
「……ここで逃げるわけにはいきませんから」
投げかけられた問いに対しての返事を打つ。
相手は[カマエル]――[ЯU㏍∀]さん。
スタン中の自分に攻撃を加えるわけでもなく――
しかし、他の天使に狙われるでもなく。
今、割り込める者など存在しない。
なぜなら――
『戦場のど真ん中で決闘フィールド広げるとか何考えてんの!?』
『[ЯU㏍∀]さんと一騎打ち!? ちょっと待ってよ!』
ドーム状に広がる決闘フィールドの中に二人。
ここなら――誰にも邪魔されずに足止めができる。
『ここは自分が抑えておく。できる限り耐えてみせるから……頼んだぞ』
『「……頼んだぞ」じゃなくて!』
『いったん戻るとか考えないのかなぁ! 勝手なことばっか言ってさぁ!』
罵詈雑言の嵐から逃げるように、VCを切り替える。
『……これなら横やりが入らないですし、問題はないですよね?』
向こうもそう思ったからこそ、決闘の申請を了承したのだろう。
彼女だからこそ、了承してくれると信じていた。
『――その代わり、助けも来ないぞ?』
嘲笑の混じった――
半年振りの、[ЯU㏍∀]さんの声。
『まともに正面から戦うのは、これが初めてじゃないか?』
『……ですね。貴女がそっちに行ってから、始めての一対一です』
――当然だ。
そうならないよう――
これまで必死に、逃げ続けてきたのだから。
『さぁて、スタンは切れたか? もう戦えるな? 《奥義》のリチャージまで待ってやろうか?』
こちらの目的が時間稼ぎと分かった上での、この発言だろう。
『大サービスですね……』
『当たり前だ。アルマゲドンの勝敗なんてどうでもいい。ここまでお膳立てをして貰ってんだ。中途半端に戦うのもつまらないだろ』
ようは、自分が楽しめるか否か。
その一点のみにかけているからこそ、強い。
結局は、折れない者が強いのだ。
そういう意味では、[ケルベロス]は彼女によく似ていた。
『だから、今回だけは特別だ』
『特別……』
まさか、彼女の口からそんな言葉が出てくるとは。
この言葉が、気分の高揚を抑えきれないことを物語っている。
飢えた獣の、獲物を見つけた時のそれだ。
涎を垂らしながら、その時を待っている。
『あぁ、特別だよ。今年最後のアルマゲドンに、これほど相応しい戦いはない』




