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電脳戦線黙示録~War of The Apocalypse~  作者: Win-CL
第四章 波紋

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2018年11月 第3週

『先月のアルマゲドンは、誰がどう動いたとしても負けていたと思うよ』


 陽だまりに包まれた図書館。

 円形のテーブルを囲んでいる中で――

 [ダンタリオン](大図書館の主)が言う。


『少なくとも、あの段階ではどうすることもできなかったと思う』


 ――あの段階では。

 [カマエル]――[ЯU㏍∀(ルカ)]さんが乗り込んできて、戦線が崩れた段階では。


 最初から[ЯU㏍∀(ルカ)]さんを警戒しようにも――

 あの戦場ではそれもできない。


 前線に穴を開けないように、全員が広く展開する必要があったから。

 現に、自分ですら間に合わなかった。


『すいません、自分じゃ足止めにもならなくて――』

『出たよ。グラたんの若手いびり』


『いや、別にそういう意味じゃ――』


 それに、仮にあそこで[ЯU㏍∀(ルカ)]さんを止められていたとしても。


 一旦、戦線が崩れてしまった以上――

 後から続いてくる天使たちに対抗することはできなかっただろう。


 あっちを立てようとすれば、こちらが立たない。

 [ダンタリオン]の言う通り、“どうすることもできない”戦いだった。


『単純に、[ダンタリオン]の意見を聞きたかっただけだ』


 普段は反省会などはしないが――

 今回は、なおさらアルマゲドンの結果が議題に上がることがなかったから。


 自分としては、後悔が残ってしまった戦いだった。

 “あの時、どうすれば良かったのか”の答えを聞きたかったのだ。


 その答えも――

 自分としてはどう受け止めるべきか分からないものだったけども。


 端的に言えば、“詰んでいた”。

 たった一人の駒に。女王(クイーン)によって詰まされていた。


『本当に、“参りました”としか言えない状況だったよ』


 と言ってはいるが、その声音は穏やかなままで。

『どんな負け戦でも、大事な経験だから』とまで言っていた。


 それでも――

 負け戦ばかり、というのもごめんだ。


『やっぱり、[ЯU㏍∀(ルカ)]さんを野放しにしておくわけにはいかないか』


 今回のような戦場でなければ、自陣の守りを固めるという方法もあるだろう。

 ――が、それでも攻め側とのバランスを取るのが難しい。


 [ダンタリオン]が指示を出したところで――

 全員が全員、それを聞いて動くわけでもないのが難しいところだ。


『これで危機感を持ってくれるといいんだけどねぇ』

『そうだな……』


 自分も[シトリー]と同意見なのだが――

 結局のところ、どう動こうが個人の自由。

 それを咎めることはできない。


 自分たちにできることといえば、流れを作ることだけ。

 先陣をきって溝を掘り進め、流れを導いていくことだけだった。


 それが中途半端であれば――

 行き場を見失った流れはただ広がっていくだけ。

 勢いも次第に弱くなり、いつかは止まってしまう。


 流れをせき止める障害があれば、取り除く必要がある。


 そして、その仕事をするのは――

 自分しかいないだろう。


『次は――自分が足止めに行く』

『――駄目っ!』


『……ケロちゃん?』

『一人で行くのは駄目。その時は、私も行くから』


 …………


『……バランスの問題ってのは分かってるよな? [ЯU㏍∀(ルカ)]さんを倒しに出るんじゃない。リタイア覚悟で“足止め”に行くって話だぞ?』


 自分一人が捨て駒として犠牲になれば――

 少なくともその間だけは、それ以上の被害が出るのを防ぐことができる。


 元々のスペックからして段違い。勝ち目の無い相手だ。


 それでも、自分なら。

 この[グラシャ=ラボラス]なら、多少の足止めぐらいはできるだろう。


 その為のスキル、回避能力重視の装備である。


『お前まで来たら、誰が他の奴と戦うんだ』

『でも……! そういうのは違うと思う……』


 理屈では分かっているのだろうけど、納得がいかないのだろう。


『それじゃあ、どうすればいいんだ? お前が代わりに足止めしても、俺の能力じゃ他の主力を倒すことなんて出来ないぞ?』

『それは――』


『――はぁ……』


 ため息の一つでも吐きたくなる。


 感情論(かんじょうろん)

 環状論(かんじょうろん)


 こっちが駄目だといったところで――

 他の方法の見つからない状態では、グルグルと回るだけ。


 このままでは、答えが出ない事は分かりきっていた。


『……僕は、無理して[グラシャ=ラボラス]が犠牲になる必要もないと思うけどね』

『ケロちゃんもこの様子だし? ボクは、グラたん一人が無理しないと負けになるんだったら、そのまま負けてもいいと思うけどねぇ』


 [ダンタリオン]と[シトリー]が[ケルベロス]の側に付いた。

 ……多数決ならば、この瞬間に自分の負けである。


 結局、こっちが折れるパターンだった。


 勝手にしろと、言うことはできても。

 勝手にするとは言えない時点で、自分の負けだ。


『分かった。無理をするなら、ここにいる全員で、だ』

『――!』


『グラたんもケロちゃんも守りに専念って、博打だよねぇ』


 この面子で[ЯU㏍∀(ルカ)]さんに勝てるかも怪しい。

 何とか勝ったところで、周りが全滅していてもアウトだ。 


 そもそもの話――

 [ЯU㏍∀(ルカ)]さんが突っ込んでこなければ無駄に終わってしまう。


『その分の穴埋めは[ダンタリオン]に任せる。……大丈夫だよな?』

『――もちろん。僕もそのつもりさ』


 しかし、分の悪い賭けではないと思う。

 今月のアルマゲドンに限れば、だが。


 アルマゲドンに向け公開されたMAPの構造上――

 主力同士がぶつかる可能性は大きかった。


――――


 話題は変わって――

 当然のように[ルシフェル]についての話になっていた。


『そろそろ、名前の方も決まる頃なんじゃない?』


 先月の頭から始まっている、[ルシフェル]・[サタン]の名前の話。

 随時応募を受け付けており、選考結果は今月のアルマゲドンの後に公表される。


 採用されたプレイヤーに対しての賞品はないらしいが――

 この盛り上がりようを見る限り、かなりの応募数だということが見て取れた。


『確か、wikiの方でもアンケートを取っているって言ってたな』


 専用のページをわざわざ用意したらしい。

 ……流石に中の方は見てないけど。


『一つだけ、ダントツで票を集めてたねぇ』

『へぇ……』


 相当数の利用者がいる場でダントツというのも珍しい。

 続けて[ダンタリオン]が申し訳なさそうに言う。


『……僕が候補に挙げたものだったから、正直気まずい思いをしてるんだけど』

『あ、僕もその名前に票入れました』


『……組織票か?』

『そんな!? 純粋に、その名前がピッタリだと思ったから――』


 思っていた以上に焦る[括木(くくるぎ)]。

 いや、あんまり真に受けられても困るんだが……。


『まぁた、グラたんが若手を苛める』

『……冗談だよ。“また”ってなんだ』


 [ダンタリオン]が管理しているんだし――

 そんな自分に票が集まるような仕様にはしていないだろう。


『もちろん。案は誰でも出せるようにしてあるし、誰が出したかは僕にしか分からないようにしてるよ。不正をしていない、というのは皆に信じてもらうしかないけど……』

『まさか、疑ってるやつなんていないさ』


 清廉潔白、正々堂々。

 品行方正を体現しているような男である。


 [ダンタリオン]ほど、不正と縁のない人物なんていないのではないだろうか。


 味方である悪魔側だけでなく――

 アルマゲドンで戦う天使側でさえも、疑う人間なんていないだろう。


『そもそも、組織票だとかそんなレベルじゃなかったもんねぇ』

『たぶん、私もその名前に票を入れたかも。選ぶとしたらそれしかなかったし』


『そこまでだったのか……』


 [ダンタリオン]がわざわざ出したというのだから、もっともな名前なのだろう。


 その[ルシフェル]の名前が何になったところで、特に問題はないけど……。

 少し興味が湧いたので、尋ねてみる。


『で、その名前ってのは何だったんだ?』

『僕が出した名前はね――』


 特にもったいぶる様子も見せず、[ダンタリオン]は言った。

 多くの人の心を惹き付けた、その名前を。


 そして、自分も聞かされた瞬間――


 予想は全くしていなかったにも関わらず。

 なぜか、『あぁ、やっぱり』という気持ちが湧いた。


 なぜだろう。

 ありきたりな、よく聞く名前なのに。


『ベアトリーチェ』


 この時に限っては――

 その響きが、妙に耳に残った。


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