2018年9月 第2週 ―③
決闘フィールドの中で、武器を構えて向き合う。
アイテムを使わないため、実戦とは多少違うものの――
一対一の純粋な力比べであることは変わりない。
目の前にいるのは[ケルベロス]である。
ただの[o葵o]であった頃とは何もかも違う。
始まりは前回をなぞるような形。
距離を詰めようとする[ケルベロス]に対して、距離を離すように動く自分。
問題なのは――
『――!』
――ゴウッ!
速度補正により隙の短くなったスキルを、間に挟んでくることだった。
与えるダメージは低いが、持続時間が長く広範囲に命中判定があるもの。
逆に、当たり判定の時間は短いがスキルの発動が一瞬のもの。
戦い方も最初から筒抜けなので、一撃一撃が絶妙なタイミングで襲ってくる。
丁寧に組み合わせながら。罠を張るように。
『やりにくいな……』
敵のスキルに合わせて、こちらもスキル発動時の無敵時間を利用して回避――
うまく嵌れば一方的にダメージを与えることができるが……。
蓋を開けてみれば極々単純な戦法なので、タネが分かれば単純なやり方で対応されてしまう。
どうしても避けられない部分もあるが――
そこは、付加効果による回避性能の上昇が役に立っていた。
『え゛……その台詞、そっちが言うの?』
回避を重視している自分と、手数で攻める[ケルベロス]。
与えるダメージは向こうの方が上だが、なんとか一進一退の攻防を続けていた――
そのまま戦闘も中盤に入る。
《バインド》効果を与える《影縫い》は、前回の決闘のことを警戒しているのか、明らかに意識して回避されていた。
このままでは埒が明かない――
一度だけ――回避を放棄して《影縫い》を放つ。
しっかりと命中し、《バインド》の準備が完了した。
『あと一発――』
五分五分。いや、半分以下か。
勝率の悪い賭けなのは間違いない。
――が、ここで流れを持っていく――!
――――
『――≪This gate divides hope and despair≫!』
そんな中で、決闘フィールドを二分するように、巨大な門が出現した。
[ケルベロス]が大きく息を吐くのが聞こえる。
『……この間にゆっくり回復させてもらうよー』
五分も待っていたら、全回復&強化バフ状態で戦闘を再開されてしまう。
アイテムの使用ナシでこちらに回復スキルは無いため――
仕切り直しより、なお悪い状態になるだろう。
それも――五分も待っていたらの話だが。
トンッとダメージが入る音。
[ケルベロス]の頭上に、ほんの僅かのダメージ表示が現れる。
そして例の黒い渦が足元に――
『≪バインド≫――!? いつの間にこっち側に――』
『そりゃあ、門を出す前に決まってるさ』
いくら周りを見回しても、見つかる訳がない。
自分の姿は≪Pay with blood and life ≫によって、透明化している。
それに加えて、五秒間だけ無敵状態になり高速移動する《月影迅》。
無敵効果が重複したところで意味はないため――
単純に移動速度の強化のためだけの使用だ。
『無敵時間も《奥義》のデメリットで消えるからな』
それが無ければ――
《奥義》使用後に無防備になる間、このスキルの無敵時間で凌げるのだが……。
さすがにそこまで行くと、壊れ性能扱いだろう。
恐らく、ストップがかかったのだと思う。
『さて、あと五秒で動き始めるぞ』
――硬直時間の間に攻撃してこようが、回復・強化をしようが構わない。
全快されたら厳しい、という話なだけで――
ここまでくれば、多少ならば押し切れるからだ。
そして、硬直時間が終わる。
『ちょっ……タンマ――』
[ケルベロス]が距離を開けようとしたところで――
後ろには門があり、これ以上は下がれない。
そして、前からは自分が迫っている。
『前門のグラたん……後門の……門?』
訳の分からないことを言い始めた。
“前門の虎、後門の狼”と言いたいのだろうか。
どちらにしろ意味が違うと思うが……
『その門を自分で出しているのだから世話ないな。さて――勝負ありだ』
ジリジリと距離を詰めてゆき――
――決着。
――――
『うう゛……いいとこまでいったのに……』
スタン状態の[ケルベロス]が、恨めしそうに呟く。
勝ちを確信していた分、余計悔しいのだろう。
『使い方によっては自分が危なくなる、ってのが分かって良かっただろ?』
とか冷静に言っているものの、こちらも内心穏やかではない。
あのタイミングで門の内側に入り損ねていたら――
今頃、スタンしているのは自分だっただろう。
『なーんか……毎回、ギリギリで勝ちを掴んでる気がするんだよなぁ……』
これまでの一対一の戦績で言えば――
だいたい、負けるか辛勝かのどちらかである。
ゲームバランスが程々、と言えばそこまでなのだが。
今回の《奥義》を使っての戦闘ですらこれじゃあ……。
毎回、心臓に悪いことこの上ない。
『そりゃあ、相手が相手ですから!』
『お、おう』
さっきまで落ち込んでいたのが嘘だったかと思える程の、力強い一声。
実際に負けた上で『私は強いよ!』と宣言するとは、なかなかの勇気である。
『それに――』
『……?』
『結局は協力プレイだし、ね?』
『――――』
――遠まわしに、『頼ってくれ』と言っているのだろう。
『……そうだったな』
――と、軽く笑いながら答えた。




