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心の無いジョージとドラゴンの少女  作者: yamainu
第1章 『高地の国ドルク』
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「フパシャシュ暗躍」

 4、「フパシャシュ暗躍」


 クナイ・ハチロウが森の外に出ると、先に逃げてきた兵たちが集まっていた。

 中心にいたフパシャシュが、クナイ・ハチロウに目を向けた。

「戻ってきたのは、これで全部か」

 他の兵たちに、また目を向け直した。

「戻れなかった者たちは、ドラゴンに殺されたと考えるべきだろう」

「む?

 あの雷に打たれた者たちは、気を失っただけと見えたでござるが」

 クナイ・ハチロウは、首をひねってそう言った。

 すると、フパシャシュが明らかに不機嫌な顔を向けた。

「王都近くでドラゴンが暴れた際には、多数の死者が出ている。

 それを考えれば、気を失っただけで済んだなどという楽観視をする理由はない」

 それ以上はクナイ・ハチロウに取り合わず、また他の兵たちに顔を向けて言葉を続けた。

「あの悪龍に対して、多勢で正面から戦うのは、いたずらに被害を増やすだけだ。

 私と、数名のみで行く。

 私と共に行く者を、これから指示する。それ以外の者はここに残れ」

 フパシャシュは自身の側近である正規兵を二名ほど指名し、再び森の方へと足を向けた。

「拙者も同行したいのでござるが、構わぬでござろうか?」

 クナイ・ハチロウにそう声をかけられて、フパシャシュはまた明らかに不機嫌な顔を見せた。

「先ほどの貴様は、何もせずに木の陰で見ていただけではないか。

 臆する者などいらん。ここに残れ」

「いやあ、はっはっはっ!

 先ほどは、拙者の出る幕では無いと思っただけでござる。

 あの龍も、本気で暴れるつもりは無いようでござったし」

「口だけは達者だな。

 フン、所詮は異国人か。

 とにかく邪魔だ。残っていろ」

 フパシャシュは、それだけ言って森の中へと入っていった。

「ふむ」

 クナイ・ハチロウは、思案げに顎を撫でながら、周囲の様子を見た。

 クナイ・ハチロウを含む雇い兵たちの周囲に、残された黄色と赤橙色の服の正規兵たちが、見張るような位置に散らばって立っていた。

 ふと気づくと、正規兵たちがいる場所の外側に、ほろ付き馬車があった。

 クナイ・ハチロウは、その馬車に見覚えがあった。王都からここまで来る際に、フパシャシュと数名の側近だけが使っていた馬車。人が乗る部分が、厚手の布で出来た幌で覆われた馬車。

 しかし、クナイ・ハチロウの記憶では、その幌は常に出入り口の垂れ幕が降ろされていて、部外者である雇い兵たちには中を見せないようにしていたはずだった。

 それが今は、開けっ放しになっていた。

 秘匿すべき何かは、もうその中には無いように。

 秘匿すべき何者かは、もうその中にはいないように。

 気を使われずに、無頓着に、馬車は乗り捨てられていた。

「気になるでござるな。

 さて、どうしたものでござるか」

 クナイ・ハチロウは、顎を撫でて少し考えていたが、次に、正規兵たちの様子を伺った。


 一方。

 森の中を進んでいたフパシャシュは、先ほど退却した道筋を戻る足を、途中で一度止めた。

 そして、同行している側近の兵に言った。

「分かっているな?

 龍の雷に打たれた兵たちが気を失っているだけなら、改めて殺せ。

 私たちがこれから打ち倒すドラゴンは、人を殺す悪獣でなければならん」

 既に言い聞かされていたらしく、兵からは反論の言葉は無かった。

 その場で少し待機していると、森の外の方角から、今度は別の兵が姿を見せた。

 フパシャシュはそれを待っていたらしく、言った。

「彼女を、連れてきたか?」

「はっ」

 現れた兵が後ろを向くと、続いて、森の中から別の人影が姿を現した。

 人影は三人。

 そのうち、二人は正規兵。

 一人の兵士は最後尾で周囲を警戒し、もう一人は、残る一人の首元から伸びる鎖を掴んで先導していた。

 二人の兵士に挟まれた、その一人は。

 全身を隠した人影だった。

 隠されていても痩身と分かる体を灰色のフードつきマントで覆い、そこからはみ出る足先は西国製の革のロングブーツ。

 そして、顔には仮面。

 ただ顔を隠すためだけの、何も描かれていない、何も想像させない、無地の木製の仮面。視界のための穴すら開いていなかったから、その下の目は何も見えていなかっただろう。

 兵士が持った鎖が繋がる先、首輪をされた首は、うなだれていた。背も、猫背にたわめられていた。

 しかし、視界の無い仮面にも関わらず、まるでそれ以外の知覚があるかのように、歩行自体には問題が無いようだった。足取りに迷う様子はなく、首輪の先導のままに、人形のように、やや遅い歩調で森の地面を歩いていた。

 兵士から仮面の人物を先導する鎖を受け取って、フパシャシュが言った。

「おい、ナラフシュタ。

 貴様をすぐに、龍に会わせてやるぞ」

「う……。

 龍……」

 仮面の下から。

 くぐもった女性の声が、うつろにそう応えた。


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